ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝

ちゃわん

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第3章

第29話

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 「今月末の仕事は休みだ!!ついでにその時、お前らに酒も振る舞われる!!ラドチェリー第一王女様からの心付けだ!!心して飲めよ!!では、今日の仕事を始めろ!!」

 休み…?

 今まで仕事が休みだったことなんて無かったぞ。とにかく毎日毎日穴掘りだった。

 王女様からの心づけって…、王女様がこの街に来るってのか?こんな辺境に?なぜ?

 いや、まぁ、俺には関係ないか…。今は属性魔法(らしき物)の事を色々調べないと…。

 「勇者様が来るんだってよ…。」

 「……ん?え?なんだって?」

 「しっかりしろよ先生…。勇者だよ勇者。勇者がこちらのクソど田舎にいらっしゃるんだとさ…」

 勇者…?なんかどこかで聞いた話だな…。

 「そりゃまた…なんでこんなところに来るんだ?」

 「さぁなぁ…、まぁ、戦争で心細くなってる領民に勇気を与えるためって感じじゃねぇの?」

 なるほど。慰労…ってやつか?

 ぶっちゃけ、こんな辺境だと戦争してるらしいって噂を聞くぐらいで、あまり実感がわかない。

 だからか、なんとなく安心してるし、なんとなく不安なところもある。けどまぁ、それよりも今日の食い扶持が大事でしょって感じだ。

 そこに国も認める勇者様が来れば、なんかすげぇ!ってなるし、取り敢えず安心するだろうし、酒でも飲めりゃさすがは王女様ってことになるわけだ。

 まぁ、お祭りみたいなもんか。

 「ふーん…、でもわざわざ奴隷ごときの仕事を休ませる必要もないような気がするけど」

 「あぁ、今の勇者ってのは、嘘かホントか知らねぇが違う世界から召喚されたんだと。だからか、奴隷ってものに大層お心を痛める方なんだと。んで、心優しき王女様は、その日は奴隷が働いている所を見せないようにってさ。」

 「へぇ…、奴隷を開放するようにじゃなくて、働いている所を隠すようにってのがいい性格してるな、その王女様。」

 「へっへ。なよっちい勇者様と王女様の力関係は見えてくるよな?」

 「なんか勇者を知ってる風だな?」

 「まぁ、見たことはあるよ。黒目黒髪の…、先生みたいな感じだったかな。顔はあっちのほうが女に受けそうな顔してたな。あ!いや、でも、先生のほうが目つき悪くていい感じだ!いや、鋭いんだ。うんうん。目つき鋭い。」

 ほっとけ。どーせ目つき悪いよ。

 「でも、違う世界から召喚して、黒目黒髪って…先生の同郷じゃないか?もしかしたら知り合いか?」
 
 「いやー、どうだろうな。同郷の可能性はあるかもしれんが、知り合いってことはないだろ。どんだけ低い確率だよっていうな。」

 「まぁ、そりゃそうか。同郷だったら、うまく奴隷から助け出してもらえんじゃないか?」

 「んで、その後は勇者様にケツを差し出すわけだ。簡便だね。」

 「ちげぇねぇ。」

 さて、いつもどおりに身体強化魔法を掛ける。

 コツを掴んでからは、毎日、体の中に魔力の糸を張り巡らせ身体強化魔法を使っている。

 魔力の糸を張り巡らせる、というよりは、筋肉の周りに魔力の糸でできた薄い筋肉を作るというイメージだと、より感覚に違和感がなくなってくる。

 「しかし、あの無口ってのは中々面白い話を知ってるな。俺は、空を飛ぶ鳥が何故飛ぶのかなんて考えたことがなかった。」

 「ん、あぁ、そうだな…。俺もいい勉強になったよ。」

 しかし、これじゃいつもの身体強化魔法の訓練だ。属性魔法の訓練ってどうやりゃいんだろうな。

 そもそも、ツルハシ使ってる時に、色がどんどん変わっていったら変だよな…。うーん…。

 ツルハシの色が変わったところで仕事が早くなるわけでもないしな…。でも、属性魔法を使いこなせるようになったら仕事も捗るだろうしなぁ。

 「しかも、なかなか魔法の筋もいい。あんなサクサク魔力を使いこなせるようになるなんて、中々居ないぜ。先生も結構早く免許皆伝になったし…。俺って教える才能あるかな?」

 「あぁ、スッテンは教え上手だよ…」

 取り敢えず、魔力の糸を薄めたり、濃くしてみたりするか?これも魔力操作の一環だもんな。

 「だろぉ?何となくそうじゃないかって気はしてたんだよ。奴隷になってから気づくのももったいねぇよなぁ…」

 濃くして…、薄くして…、濃くして…薄くして…。

 「まぁ、いつだって俺の人生は手遅れだったからな。だが、奴隷のときが一番好きなように出来てる気もするな。」

 薄くして…、濃くして…。

 ん…?なんか、魔力の濃度を変えると、引っ掛かりがあるな…。どこだ…、こりゃ首か?…あぁ、そうか入れ墨のところか。違う魔力だから反発しちまってるのかな。いや、まてよ?なんで、違う魔力が入れ墨に入ってんだ?そういうものなのか?しかも、魔力の濃度調整しなかったら、全然気付かなかったのに…、魔力を調整すると抵抗があるのがわかる。

 ためしに、入れ墨の中に魔力の糸を巡らせてみるか…。

 「…っつう!!」

 「どうした?先生。小指でもぶつけたか?」

 「いや、なんでもない。岩の破片が飛んできたんだ。」

 「そうかい。気をつけろよ?」

 「あぁ」

 もう、俺だけの体じゃないからな。管理者様が管理していらっしゃる大事な商品…。

 …。

 …管理者様?

 管理者「様」だと?

 なんだなんだ。俺はそんなにあの男のことを尊敬していたか?「様」をつけるほどに?

 いや、本人を前にしたらいくらでも様づけして呼んでやるわ。命に関わるしな。

 だが、俺は今まで心の中ですら管理者「様」と呼んではいなかったか?

 いったいどこにそんなに尊敬する部分があるってんだ。

 意味がわからない…。なんで俺は、だれにも聞かれることのない、心の中ですら「様」付けしていた?

 っていうかそもそも…逃げればよくね?

 見張りもだれも居ないじゃないか。普通に逃げられるだろ。

 なんでこんな単純なことに気付かなかったんだ…?

 いや、そうか。奴隷の入墨か。

 こいつがあるから、逃げようとしても体に痛みが走って、逃げられないようになってたんだ。奴等に逆らっても、仕事をサボってもだ。

 違う違う。なにを言ってるんだ。

 問題の本質はそこじゃない。

 俺たちに与えられてた命令は、逃げるな、逆らうな、サボるなってことだ。

 心の底から俺たちを管理者様と呼べ、なんて命令は一つもなかった。

 それにだ。仕事はサボるなって意味だとは思うが、正確には全力でやれ、という感じだったと思う。

 魔法の訓練や、スッテンを助けたときだって全部、仕事中心に考えてなかったか?

 仕事がもっと出来るようになるとか、効率が良くなるとか、仕事に影響が出るとか…。

 仕事中ならまだしも、仕事が終わってからの魔法の訓練だって仕事のためにしなくたっていいだろ。

 確かに仕事を全力でやれっていうのは、奴等の命令だ。

 だが、逃げたら体が痛むという罰があるってことからも、命令を逸脱した場合は単純に体に痛みを与えるものだったはずだ。俺は直接罰を受けていないが、そう聞いている。そう。俺は仕事を全力でやれっていう命令には違反していないはずだ。だって体が痛くなっていないんだから。仕事中に、仕事を全力でやっていたんだ。俺は命令を全うしていたはずだ。だが、仕事が終わってからの魔力の訓練にすら仕事のためにしていなかったか?そんなに、俺の全てを捧げるほど、俺はこの仕事を望んでいたか?いや、そんなことはない。なんせ無理やり奴隷になって無理やりやらせれてる仕事だ。出来ればしたくないに決まってる。

 でも、俺は仕事が終わってかも仕事のために行動していた気がする…。自然とそう思うように…そう思わなきゃいけないようになっていた気がする…。なんていうか…すごく気持ち悪い。こんな風に行動していた俺自信が。

 「様」もそうだ。いくらなんでも、てめぇのしょんべん飲ませてくるようなやつに、心の中でまで「様」付するほど殊勝じゃない。

 なんか…洗脳されてるような…?

 洗脳なんてあり得るのか?魔法だったらあり得るのか…、いや、わからない。

 だが、こんな考えにたどり着くのが初めてだということだ。

 だいぶ前から俺は管理者様と呼んでいた気がする。それなのにその違和感に全く気が付かずここまで来てしまった。

 たった今、気付いたからだ。

 そのたった今、俺がやってたことといえば、魔力の糸を濃淡させ、首の入墨に魔力の糸を通してみた…。

 これがきっかけで、まるで霧が開けていくみたいに…頭の中がさっぱりしていったんだ。

 今まで普通に魔力の糸を通していた時は、入墨になんの違和感もなかったのに…。

 魔力の濃度を調整して、急に抵抗にあって…まるで…そう、メリィを捕まえたときの感じに似てる。

 ひょっとして今、俺は洗脳が解けたのか…?

 この入墨はたった今、効果がなくなったのか…?

 でも、この入墨は傷ついても治るとかって言っていた気がする。体の傷は、爺さんに治してもらうまでそのままだったが、首の入墨に傷が入ってもそこだけはすぐ治っていた。

 今、これだけ時間が経っていても、入墨が治る気配はない。いつまで経っても、最初のような抵抗は感じない。

 いや、まずは確認しなければならない。明日仕事をサボってみて体に痛みが入らないようなら、もうこの入墨は間違いなく力がなくなっている。これを確認しないと。

 下手に、ここで騒いだらとんでもないことになる。もしかしたら、もう一度入墨を入れ直させられるかも知れない。

 洗脳が解けたってことは、他の奴隷は洗脳されたままだってことだ。

 奴隷本人も気付かず俺の情報を漏らしてしまうかも知れない。取り敢えず、明日、入墨の効果を確認して、効果が切れているようなら…スッテンと無口さんの入墨もぶっ壊しちまおう。そして、二人をこちら側に引き込んで…ここから逃げる。

 俺はここで、一生奴隷をやってるわけにはいかない。

 いや、入墨の洗脳をといたからと言って、俺の味方になってくれると決まったわけじゃない。勝手にあやふやな信頼を元に予定を立てたらとんでもないことになる。ここに来る前にそれで痛い目にあったばかりじゃないか…。

 しかし、まぁ、入墨を壊すまではいいだろう。それをわざわざ本人たちに言わなければいいんだ。もちろん、俺がやったとばれないようにもしなければ。

 そして、その時の二人の反応からどうするか決めても遅くない。

 無口さんはまだ魔法を習いたてだ。俺が入墨をぶっ壊しても気付かないだろう。問題はスッテンだ。あいつは魔力を感知している節がある。下手に魔力を使って接触すれば、それだけで違和感を持つだろう。しかし、普段無口さんと話してるから、出来れば入墨を壊したい。無口さんとのコミュニケーションで違和感を持たれるかも知れない。……いや、問題ないか?入墨が壊れたとして、スッテンに得はあったとしても損はない。奴隷を続けたいのならそのまま黙って奴隷をやってりゃいいんだ。

 まずいのは心の底から管理者共に心酔している場合だが…。

 …それは、ない。

 あいつにボコボコにされた俺だからわかる。

 心酔ってのは、相手が自分たちを認めていると感じてこそ成り立つものだ。

 最低限、人間として、対等に。

 奴等は本当に俺たちを人間と思っちゃいない。

 奴隷と人間は解り合えることなんてない。もしそう言ってるやつがいるなら…、それは奴隷になったことがないからだ。

 落ち着いて、慎重に行かなければ。

 もう二度と、俺は騙されないと決めたんだから。

 「先生は、今日ずいぶんと静かだったな。なんかあったのか?」

 「いや、大したことじゃない。大丈夫だ。」

 「そうかい?なら、いいけどよ。」

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 「今日は科学と言うものを教えてほしい、とのことですのでそれを話しましょう。ただ、僕も大学で勉強していましたが、人に教えられるほどってわけじゃないと思います。ですので、さらっとした表面だけの話になると思います。」

 「ああ、それで構わねぇよ。」

 「この前教えてもらった魔法では、土、火、水、風が基本的な魔法らしいですね?ですから、この4つに関して科学的にわかっていることを説明しましょう。まず、土。これは、言い換えると、全ての物質のことを指しているのでしょう。今我々が座っている地面も間違いなく土ですが、鉄とか、銅とか、金とか銀とかそういった物すべてを指して土といっているのだと思います。」

 「そうだな。実際に鍛冶や宝飾業なんかをやってる連中は土魔法を鍛える。金銀銅、鉄や鋼。そういった物を魔法で取り扱えるようになるからだ。」

 「ふむ…。そういった者を総称して物質と我々は呼んでいますが、この物質というのはすべて、小さな小さな粒が集まってできているものです。」

 「小さな?小さいってどれくらいだ?」

 「え?大きさ、のことですよね?……え~っと、ちょっと待ってください…。アボガドロが…、で一、十、百…、土の成分は酸素とか窒素だっけ…?いや、10g位でいいか…。砂粒ってどれくらいの重さ…、多いな…単位何て言ったっけ…いや、もっと小さくすれば…」

 「…なんか難しいのか…先生。」

 「俺もいざ、原子がどれくらいの大きさかって言われるとな~。ぱっとわかんねぇな。」

 「えーとですね。この布をバサバサ振ると埃が舞うじゃないですか。ほら、こんな風に」

 と、無口さんが寝床の布切れのような掛け布団を振り回した。

 「オエッっぷ。うぇっほ!っゴホッ!そ、そうだな。」

 「この埃一粒の中に大体数十兆個位の粒が入っている、はずです。大雑把ですが。」

 「はぁっ!?マジかよ!そんなの…小さすぎて全然見えないじゃねぇか!」

 「っていうか無口さんすごいですね…。パッと計算できちゃうんですか…」

 「まぁ、高校物理と化学を勉強してれば、まぁ解りますよ。」

 えっへっへ。解りません。

 「うぇ~、マジかよ…。小さな粒が死ぬほどあるってことだよな…。道理でザラザラするはずだぜ。」

 「いや、人間が触ってわかるほどの粒じゃないですよ。もっともっと小さいものです。そして、この粒は全部で世界に100個と少しくらいしかないと言われています。というより、それくらいしか発見されてないという言い方が正しいですが。」

 「そんな少ないのか!?でも世の中には何千何万、それこそ無限に違う物が溢れてるじゃないか。」

 「そうですね。それらは、すべて、この小さな粒百数十個の、それこそ無限の組み合わせで出来ているんです。水だってそうですし、風だってそうです。」

 「風も?どういうことだ?なにもないだろ?」

 「いえ、あります。小さな小さな粒が僕らの周りを飛び回ってるんです。先程埃が空中を舞っていましたよね?小さな粒が何十兆個もある埃が空を舞っているんです。もしそれが一個一個に分解してしまったら…、空を漂うくらいわけもないと思いませんか?」

 「確かに…。いや、でも確かに学士共も、全ての物は最小のものから成り立っているはずだと言っているな。なんか…、無限に半分にできないとか…なんとか…」

 「ふむ…、こちらでは原子の予想まではされているということでしょう。話は戻りますが、風とか水というものは、この漂う方向を操っているのではないかと思います。」

 「なるほど…、じゃあ…」

 うーん、面白いな。

 二人が話してる隙に魔力の濃淡調整練習をしようと思ってたんだが、ついつい無口さんの話を聞いてしまう。スッテンが話すときも、こちらの歴史や文化、魔法だったりするからしっかり聞いてしまうんだよな。

 特に今は、高校や大学で学ぶはずだったものを簡単だけど無口さんから習えている。

 正直、結構聞いていたいんだよな…。

 まぁ、いいか。訓練は明日仕事をサボりながらやろう。ちょうどサボろうと思ってたとこだし。

 しかし、本当に洗脳が解けたのかも知れないな。

 前だったら、二人の話も上の空で魔法の訓練していたと思う。魔法の訓練をするのもいいけど、無口さんの話を聞くのもためになる。っていうか、無口さんって結構頭いいよな…。これが大学の講義を受ける感じなんだろうか。俺も日本に居たら大学に通ってたのかな…。

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 昨日は久しぶりに現代の科学講義になってしまった。

 いつもこういった話題になると、スッテンの食いつきがいい。

 だからか、かなり遅い時間まで話し合うことになる。無口さんも丁寧だからなぁ…、色々な例え話で理解させようとするんだけど、その例え話も色々質問が出るから、話が逸れて逸れて…つまり眠い。

 「ふぁ~~あっ。眠いなぁ…。」

 「そうだなぁ、先生。昨日はちっと話し込み過ぎちまったな。」

 「あぁ…。今日は少しダルいな…。ちょっと休んでるわ…。スッテン。管理者が来たら知らせてくれ。」

 「あぁ、わかった。…ん?いや?あれ?休む?いや、え?休むって…サボるってことか?」

 「まぁ、言っちまえばそういうことだけどさ…、問題ねぇだろ?いつも管理者は来ないしさ。」

 「い、いや、まぁ、そうだけどよ…。いや、もしかしたらいきなり今日来るかも知れねぇじゃねぇか。今度は殴る蹴るじゃすまねぇぞ…?」

 「その前にスッテンが知らせてくれりゃあいいだろ?スッテン、魔力でいつも入口の方気にしてんだろ?ここに来る前に起こしてくれれば問題ないっしょ。あぁ、もちろん俺が休んだ後はスッテンが休む番でいいからな。」

 「まぁ、別にいいけどよ…。いいのかな…」

 「いいんだよ。この状況はどう見たって休んでくれって言ってるようなもんだろ。じゃあ、俺は寝るから後よろしく。」

 「えぇ……」

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 目が覚めてみると、スッテンが黙々と穴をほっているところだった。

 時間にしてどれくらい寝ていたんだろうか。

 「うぉ~い。スッテン。調子はどうだよ。俺ってどれくらい寝てたんかな?」

 「よくもまぁ、先生も寝れるよな。今は昼をちょっと回ったぐらいかな。」

 うん。午前中いっぱい爆睡していたということか。

 少なくとも、これで俺が洗脳から溶けてる線が高くなってきた。

 「おし。じゃあ、今度はスッテンだ。俺が穴掘りするから、スッテンは休んでろよ。」

 「い、いや、俺はいいよ先生…」

 「なんでだよ。お前だって昨日遅かったろ?だったら今日はここらで一発休んでよ。体調整えるべきだろ?」

 「いや、仕事をサボるのはちょっと…まずいかなってよ。」

 「ふーん、まぁ、スッテンがいいならいいけどよ…」

 やはり、洗脳されている気がするな。頑なにサボろうとしない。もう、管理者なんて俺らのところに来ないことはお互いに薄々わかっている。

 だから、サボったとしてもだれに咎められることもないような状態だ。

 それでも一休みすらしようとしないのはちょっと…違和感がある。

 だが問題はどう、奴の体内に俺の魔力を流し込んでやるのか。

 それがさっぱり思い浮かばない。
 
 いや、難しく考えすぎか?

 回復魔法の開発をしてるからちょっと試しに魔力流してもいいか?ぐらいので十分だろうという気がする。

 うん…、やってみるか。

 「なぁ、スッテン。」

 「なんだよ。先生。」

 「実は疲労回復とか、傷の回復とかの魔法を訓練してるんだけどさ、実際の人体を相手にしてみたくてよ…。よかったら疲労回復魔法の魔法かけさせてくれねぇか。多少はましになるはずだぜ?」

 「疲労回復の魔法~~!そんなの聞いたこともねぇぞ!」

 「そう。だから調べてんのよ。今使える魔法で、回復魔法まで使えたらすごいことじゃないか?」

 「いや、まぁ、それは、…すごいけどさ…なんか嘘クセェな…。…試しにやってみてもいいけどよ、危険はないよな?先生。」

 「ああ、自分で試した限りは全然問題なかった。むしろスッキリするからな。」

 「ふぅ~ん?ま、嘘はついてないみたいだし、自分で試してるならいいか…。軽くやってみてくれよ。」

 こいつ今、魔力を俺の頭ん中さらっと通しやがったな。ぜってぇ嘘かどうか分かる魔法だ。そんなんあるんか…。まぁ、いい。

 とにかく、ここまでこじつけたってことで。

 「んじゃぁ、向こう向いててくれよ。」

 「わかったわかった。」

 魔力の糸は体の中に入れる必要はない。

 要は、きっとだが、この入隅部分に差し込めばいいわけだ。魔力の調整をした後に。

 多分だけど、俺のときと同じくらいの濃度だな…。

 こいつをなるべく全体に差し込むように…。

 「お”!!っっつ……、なんだよ先生、結構痛いじゃ……。……。」

 「まぁまぁ、これで終わりだ。効果が出んのは時間がかかるからよ。速く飯食い行こうぜ。」

 「…あぁ……そうだな…。」

 どうやら、うまく行ったようだな。さて、どうなるか…。

 あいつの呆然とした、ハッとした様な表情の繰り返しを見る限り…、洗脳には気づいたようだな。

無口さんの方もとっとと、やっちまおう。

 俺に火の粉が降りかかりそうになったら…、とにかく奴隷全員の入墨をぶち壊してまわろう。

 んで、現場が混乱した時にこっそり逃げ出せばいい。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 さて、あの後から異常に言葉数が少なかったスッテンと飯を食いながら、魔力の糸をこっそり無口さんに伸ばし、入墨を壊してみた。

 壊された瞬間はやはり、首元に痛みを感じていたようだ。

 しばらく呆然とした後、自分の両手をしばらく見つめ、フラフラと勉強会会場に歩いていった。

 俺とスッテンはその後を追うようについていき、第123回異文化交流会を開始した。

 ちなみにこの集まりの名前はなんだろう。正直決まってないから俺が勝手に呼んでいる。まぁ、別にいいか。

 「さて、今日は…、今日はどうしますかね…なにを話しましょうか…」

 「…」

 「…」

 二人の反応は、こんな事やってる場合か?みたいな感じだろうか。

 話したほうがいいのか、悪いのか…それを迷ってるようにも見えた。そりゃそうだよ。下手なこと行って管理者共に目をつけられてもつまらんし。

 少し…水を向けてみるか?

 しかし、一体なんて…。正直二人の入墨を壊すことばかりに集中しててそれより後のことを考えていなかった。

 どうしようか、と思ってると、スッテンがこちらをずっと眺めてる。

 まぁ、そうか。スッテンは俺が入墨を壊したってわかるよな。どう考えたって俺だ。俺が変なマッサージするわっつってからだろうしな。洗脳が解けたのって。

 お前がやったんだから、お前が言えよってことだろ?

 しかしなぁ…。

 入墨壊したこと、洗脳が解けてるであろうことを言ってしまってもいいのか。万が一、こいつらに管理者への忠誠心が残ってたらやばい。俺がやったってバレたら、多勢に無勢でまた入墨を入れられるか、首輪をされるか…、リスクは避けたいな…。

 いや、なんだって?

 管理者への忠誠心だと?

 俺たち奴隷が、管理者への忠誠心??

 なにを考えてるんだ…まだ俺は洗脳されてるのか?

 ここで、どれほど虐げられてる奴隷たちを見てきたんだ。

 朝昼晩、挨拶代わりに殴られ蹴られ、運が悪けりゃ死んでいく。

 機嫌が悪けりゃ殴られ、機嫌が良けりゃ蹴られる。

 奴隷同士でセックスさせられた奴等も居たな。もちろん、お互い男で、女が好きな奴等だ。

 昨日、飯時に少し話したやつが次の日、管理者が買った安物の剣で試し切りされゴミ捨て場で死体になってる。

 そうやって、奴隷たちはだんだん話さなくなってく。話したやつが死んだら悲しい、ってだけじゃない。少しでも話して、談笑したやつの死体を片付けるのがきついんだ。昨日までは動いて笑ってた野郎が、微動だにしない。目玉に蝿が止まっても、瞬き一つしない。それが、強烈に気持ち悪いんだ。

 気持ち悪くて、気持ち悪くて…、でも、死体はなくならない。

 だから、奴隷は話さなくなっていく。

 死体を片付ける時楽だから。
 
 でも、俺達は管理者に媚を売るのは忘れない。一日たりとも。一日でも長生きするためだったからだ。

 そうやって媚びを売るのが身に染み付いた頃、改めて周りの奴隷を見渡してみると…、当然奴等の瞳に忠誠心はねぇ。一目瞭然だ。死んだ目をしてる奴等ばかりだ。

 不思議なのは管理者どもが全員ご満悦なわけだ。

 この奴隷たちの目をみて、本気で大丈夫だと思ってるんだろうか。

 俺たちが忠誠心なんか、持つはずがない。それは、絶対だ。

 だから、こいつら二人がどんな卑怯な管理者の腰巾着野郎だったとしても、奴隷の性は変えられない。こればっかりは奴隷にならなきゃわからない。

 「脱獄しよう。」

 二人は驚かなかった。

 周りを念入りに確認した後、

 「いいぜ。」

 「賛成です。」

グェェェェェロ!グェェェェェロ!グェェェェェロ!
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