ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝

ちゃわん

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第3章

第31話

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 入墨が壊れてからというもの、スッテンは仕事終わりにいろいろ出かけるようになった。

 管理者共は俺たちに入墨の効果があると思っているから、夕方にそこらをうろちょろしてても、なんら気にしなかった。

 そうすると次の日の仕事に差し支えがあるわけだが、入墨が壊れてからほとんどまともに仕事なんてしていない。

 アリバイづくりのために土を少し掘り出してるだけだ。

 いつもなら管理者がネチネチ言って殴って蹴ってくるわけだが、なぜか俺たちのところに顔を出すことは無くなっていた。

 これ幸いと昼はサボりまくってる。

 多少は魔法の訓練になるので、いい運動と言える範囲で仕事してはいるが。

 夕方にスッテンが一仕事終えてから、俺達の三賢者会が始まる。
 
 だいぶ疲れが目立つが、何をやっているかは教えてくれない。

 なんでも、一族の流派の秘技に関わる部分になるからどうしても言えないんだと。当日はびっくりさせてやるから待ってろとも言われた。

 人を殺すようなものかと聞いたら、そんな大層なもんじゃないと言っていたから、まぁ、大丈夫だろう。

 そうやって、俺達は着々と脱出の準備を始めていた。

 「冒険者の覚悟ってなんだ?」

 「冒険者の覚悟ぉ?なんだそりゃ?」

 「知らないのか?実力のある冒険者になってくると、もらえる丸薬のことだ。これを飲めばとんでもねぇ力が手に入るが、そのあと苦しんで死ぬってやつ。」

 「あぁ、”破裂”のことか…。ありゃ、よくねぇぜ。絶対使わねぇほうがいい。」

 「なんだよ。なんか知ってるふうじゃねぇか。」

 「あぁ…まぁな。……ま、いいか…。魔法ってのは種類もあるし、覚え方も教え方も数多ある。これは、俺の流派というか習ったところの教えなんだが、魔法に使われる魔力ってのは向こう側から来るんだと。」

 「へぇ。俺の師匠もそんなこと言ってたな。」

 「そうだろうよ。魔力の使い方が俺たちのそれだもんよ。とにかく、俺達は向こう側から魔力を引っ張ってきてるわけだ。だが、その他の流派では違う魔力を使っているのもいる。待機中に存在する魔力だ。これを食事や呼吸から体内に取り込み、自身の体と魔力をなじませるらしい。そういう魔法の使い方もあるってわけだ。」

 「ふーん。それで?」
 
 「普段、向こう側から魔力を引っ張ってないやつに強制的に向こう側の魔力を引っ張り込むのがその丸薬だよ。その副作用でいろいろ困ったことになるらしいがな。」

 「と、いうことはだ。俺たちが使えばリスクは少ないってわけだ。」

 「いや、そういうわけじゃねぇ。俺たちにも十分リスクは有るよ。苦しんで死ぬのがただ死ぬくらいになったようなもんだ。それをリスクが少ないって言ってんならもう止めないがな。」

 「やめとくよ、俺は博打に弱いからな。」

 「それがいいな。」

 「その向こう側ってのはなんなんだ?俺も魔法を使う時、確かにそんな感覚がある。前の世界にはなかった感覚だ。」

 「…向こう側の事は何もわかってない。俺たちの魔力を使う感覚から向こう側って言ってるわけだが…。古くから伝わる伝承では…というよりもほとんど神話レベルの話だが、向こう側には神々が済んでいるんだと。神々の世界は、安寧に満ちていて…退屈だと。たまに開いた穴があれば、それを通してこちらを覗き込んでいるらしい。」

 「…いきなりな話だな…」

 「ああ…、神話では、その神々の力の一端が魔力だと、そう言っている。神々が覗き込むほど穴に近づくと、我々は耐えられないらしい。昔のことに詳しい人に聞いたことが有るが…、有る種の契約がなされているはずだ、とは言っていた。契約がうまく行っていないから、あんなふうになるのでは、とな。…まぁ、正しいかどうかなんてのはわからないがな。」

 「まぁ、神話ってのはそんなもんだよな。」

 「契約に関してはわからんが…、魔力それ自身を明らかにするのは、全ての魔法使いにとっての悲願だ。それを明らかにすれば、俺たちの魔法は次の段階に行けるだろう、というのが学士たちの見解だ。」

 「その学士っていうのはなんですか?たまに出てきますが。」

 「簡単に言えば…ハルダニヤ国の古都に拠点を持つ学者の集まりだ。魔法のことが多く研究されていることから、正式な魔術師になるには学士になる必要があるとまで言われている。とはいえ、研究している内容は多岐にわたっているがな。」

 「研究…ですか。いつか行ってみたいですね…」

 「なんだ?無口は学士に興味あるのか?なるには厳しい修行が必要だが、出自は関係ない。誰に対しても門戸は開いているよ。無事に脱出できたら…行ってみてもいいんじゃないか?」

 「そうですね…。こっちに来てから先をどうするかなんてほぼ考えてませんでしたけど…、全部終わったら学士を目指してみるのもいいですね…。スッテンさんはなにか目標が有るんですか?」

 「そうだな…。妹を探して、一緒に故郷に帰る予定だ。とりあえずは、そんなもんかな。」

 「大変ですね…。妹さんがどこにいるかはわかってるんですか?」
 
 「まぁ、大体の目星はついてる。いろいろ問題は有るだろうが…、いざとなったら故郷の奴らにも協力してもらえばいいしな。…なんだったら二人も来るかい?故郷の奴らは気のいい奴らばかりだぜ。」

 「いいですね…。スッテンさんの故郷に行くのも楽しそうです。どっちにしようか迷うな…。学士になってから行ったほうがいろいろ役立てますかね?」

 「いや、無口さんはその知識がありゃわざわざ学士になる必要もねぇと思うがな。ま、学士になるメリットもいろいろ有るだろうしな。とりあえず、俺らのところに来て生活基盤を整えてからでいいんじゃないか?いきなり学士目指すのは色々大変そうだしな。」

 「ふむ…そうですね。そうしますか。スッテンさんの故郷はどこに有るんです?」

 「南部大陸の南のほうだよ。詳しい場所は、落ち合った時に話すよ。」

 「そうですか…、先生はどうするんですか?」

 「僕は…、やることが有るのでスッテンの故郷には行けません。ただ、南部大陸までは行こうと考えてます。」

 「何だ。南部大陸までの道中は同じか。じゃあ、三人揃って行っちまうか。」

 「そうだな…それもいいな。」

 「いいですね…。」

 「…ま、それもこれも脱獄できてからだよな。」

 なんとなく、俺はそれが出来ないような気がしていた。脱出は出来るだろうが…、多分三人一緒に行動することはない気がする。俺たちの会話にはそんな未来が詰まっているように聞こえた。

 「しかし、今思ったんですが、こっそり三人がよる抜け出して逃げるっていうのはだめなんですか?多分ばれないしそのほうが早いと思うのですが。」

 「いや…、無口さんはともかく、先生はかなり目立つ奴隷だからな。先生が消えたら流石にバレるだろう。それでもいいっちゃいいんだが、もし奴隷全員が逃げれば、俺達が逃げたことも有耶無耶にならないか?そうでなくとも、他の奴隷を追いかけてる間に、俺達がより遠くまで逃げられるしな。南部大陸まで逃げ切っちまえば、追手が掛かることはほぼないだろう。今逃げてもいいが、奴隷全員で逃げたほうがもっといいってとこだな。」

 「なるほど、確かにそのとおりです。混乱もうまく重なってくれたらいいんですが…」

 「ま、それに関しちゃ任しておけよ。俺にもそれなりの武器が有るのさ。」

 そんなことを話ながら、三賢者会は過ぎていった。

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 勇者の凱旋まで2週間を切っている。

 勇者の凱旋の準備に管理者共も駆り出されているらしく、鉱山には奴隷しかいない。

 のどかなもんだ。とはいっても、のどかなのは俺たち三人だけで、他の奴隷はいつもどおりだが。

 最近はスッテンの披露度合いがすごく、三賢者会もやっていない。

 仕事中もほとんど休んでいるようだ。

  三賢者会もだんだん話す内容が無くなっていった。

 いや、無くなっていったというのは俺の主観の話だ。もしかしたら、スッテンはもっと話したかったのかもしれない。

 ただ、無口さんがどんどん話さなくなってる。

 「うん…」とか「あぁ…、そうだね。」とかそういった適当な相槌が増えてきた。どこか上の空というか…、なんというか思い詰めてるような感じというか。

 自然と俺とスッテンが話すことになる。

 「南部大陸に行くにはどこに行けばいいんだ?」

 「そうだな…、基本的にハルダニヤ大陸の南に有るような港街であればどこからでも行ける。ただ、おすすめは南東に有るサウスポートだ。」

 「そりゃ何故?」

 「この港町からも船は出てるんだが、価値があるのはそこじゃねぇ。ここからは、南部大陸へ向けて小さな、大量の、魔力の粒子が海を通って放出されるんだ。数日に一回ってペースらしい。この光の粒子のおかげで海上にいても常に南部大陸への方向がわかる。俺たちが適当に作った木の板でも3日しがみついてりゃ南部大陸につく。」

 「ほう…そりゃいいな。俺だったら土魔法で適当に船を作ったあと、風魔法で押し出したりすれば簡単に南部大陸に付きそうだな。」

 「そうだと思うぜ。ただ、サンスポート自体や光の粒子が向かってる南部大陸の町なんかはかなり治安が悪い。それは気をつけておくべきだな。」

 「密航し放題だもんな。そりゃ治安も悪くなるだろうよ。」

 「とはいえ、俺達みたいなのが行って生き残るには治安が悪いってほうがいいがよ。」

 「確かに。いろいろ紛れ込めるからな。とりあえず冒険者になっちまって、普通の船で渡っちまうのはどうなんだ?」

 「そうだなぁ。それで身分証を手に入れて南部大陸へってのがベストなんだが…。噂では、冒険者は冒険者なりの防犯対策ってのが有るらしい。俺らみたいな怪しいのが登録しようとすると本部に照会されちまうらしいぜ?」

 「…それじゃ南部大陸へ行っても冒険者になれなくねぇか?」

 「いや、大丈夫だ…と思う。冒険者ギルドってのはお題目上大陸をまたいだ巨大な組織だ。しかし、実際のところは運営上の問題からそれぞれの大陸に冒険者ギルド本部が置かれている。例えば怪しいやつなんかいたら、ハルダニヤ大陸の場合はハルダニヤ本部へ、南部大陸の場合は南部本部へ情報が渡るようになってる。」

 「へぇ~」

 「冒険者になってからすんごい凶悪な事件を起こしたりすりゃ、大陸を渡って情報が共有されるかもしれんが、ただの逃亡奴隷、しかも調べりゃ正式な奴隷じゃないんことがわかるんだったら、ハルダニヤ本部から南部本部へ引き渡し依頼なんかできんだろというのが一つ。」

 「他にも有るのか?」

 「何より大事なのが、この南部大陸、奴隷制度がない。だから俺たちは南部大陸では犯罪者じゃねぇんだ。堂々と出来る。」

 「なるほど…たしかにそんなことを聞いたことが有るような気がする…。とにかくこの南部大陸に渡るまでが勝負ってことか。」

 「そうだ。渡っちまえばどうとでもなる。へへっ、うまくすりゃ貴族にでもなれるかもしれねぇよ?」

 「そりゃ無理だろ。いくらなんでもよ。」

 「いやいや、先生や無口ほどの能力があればわかんねぇぜ?南部大陸はどこの国も実力主義的なところがあるからよ。成果を上げて国に献上すれば貴族だ。そこを目指してみてもいいんじゃねぇか?」

 「う~ん…どうだろうな。用事が終わったらそこを目指してみてもいいかもな…」
 
 「そうそう。夢は大きく持たなくちゃな。無口もどうだ?魔法の実力的には結構いいとこいってると思うぜ?」

 「…そんなことしたら、死んでしまうかもしれないじゃないですか。」

 「まぁ、そりゃそうだがよ。やっぱ男ってのはデケェ夢を追ってこそだろ?」

 「…夢を追って、死んだら何もならない。誰がミキを守るっていうんだ…。」

 「…」

 「…無口さん?」

 「なんでそんなヘラヘラしてられるんだ。失敗したら死ぬんだぞ?こんな訳のわからない世界で、よく知りもしない連中の中で死ぬんだ。」

 「ミキだってそうだ。こっちに来て変な奴らに捕まって、きっと、…きっと、…クソっ!…ミキを助け出さなきゃ…絶対に…死ねない、何をしても生き残って…」

 「この方法がベストなのか…、確実か?戦うときはどうすればいいんだ。どうやったらミキを助けられる…、いや、そもそもミキは今どこに…まさか………………、あの時俺がデートに誘わなければ…、なんとかしないと…なんとか…」

 「…あぁぁぁ…どうしたら…、……死にたくない…死にたくない…、でもここにいても…、一か八か…でもそれで死んだら元も子も…」

 …そうか…、仲立さんはこっちに来てから戦ったことなんてないんだ。
 
 それでわけも分からず奴隷にされて…、悪くないのに働かさせられて…、抜け出そうと思ったら命がけの戦いか…。

 俺や…、多分スッテンも、ここに来るまでそれなりに戦ってる。

 俺は魔物相手だけだが、スッテンはおそらく…人も殺してる。何となく分かる。

 人を殺してるやつの目は少しだけ…なんていうか、違う。

 俺も人形の魔物を殺したからわかる。どんな人を見るときでも、どうやったらこいつを殺せるかなって視点が入るんだ。別にその人達を殺したいわけじゃない。でも、相手を殺す方法がわかれば武力という点で優位に立てる。どんなに勝ち目の薄い方法でも、一つでもあれば安心するんだ。きっと、生き物や人を殺すと、臆病になる。どんなに脆いかということを知ってしまったから。

 俺とスッテンは同じ目をしている。少しだけスッテンは俺よりも深いところで人を見ている。

 きっとやつは人を殺したことが有るだろう。

 だから、戦いの前の覚悟というか、心構えができている。

 俺も短い冒険者生活だったが、戦いの前の心構えみたいなものはわかった気がする。

 考えすぎてはだめなのだ。作戦とか、準備とかはいくらでもしていい。

 でも、余計なことは考えてはいけない。

 死んだらどうしようとか、死ぬときは痛いのかとか、殺したら地獄へ落ちるのかとかだ。

 こういう事は考えだしたら止まらない。答えなんかないから。

 そして、答えの出ないことをずっと考えてると、心が疲れてくる。

 戦いの前に心がすり減っているのは大きな問題だ。

 だから、無理やり考えないようにする。

 多くの冒険者たちが取ってる方法が酒を飲むことだ。飲んでるときは楽しいし、飲めなくなったら次の日まで記憶をなくしてる。

 親父が昔、酒を飲む理由に嫌なことを忘れられるからだ、なんて答えていたが、それに近いものが有るんだと思う。

 俺は酒が飲めなかったから、とにかく魔法の練習をして、体を鍛えて余計なことを考えないようにしていた。

 魔力や体力は一日寝ればほとんど回復するからだ。

 仲立さんにもなんとかしてそういったことを伝えなきゃいけないが…、俺が行って伝わるのだろうか…。

 いや、言わなければ。

 ここで仲立さんが不安定になれば、俺達の命にかかわる。しかし、どうやって…。

 すると、スッテンが仲立さんに近づき、優しく肩を組んで言った。

 「仲立よ…、お前は初めて戦場に出るのだな…。戦場に出る恐れを持っている。それは戦士として当然のことだ。」

 「…」

 「恐れが強い戦士は皆共通していることが有る。守るべき家族がいるのだ。だから、恐れる。家族を愛していればいるほどだ。死ねばもう、会うことは出来ないからな。」

 「そういった戦士に俺はいつもやらせることがある。感謝の祈りを捧げるんだ。」

 「……神なんか信じていない。」

 「そうではない。そんなあやふやなものではない。捧げるのはその守るべき者へだ。守るべき者があったから、お前は戦士になることを決意した。命がけで戦うことの出来る、戦士へなれたのだ。戦士になれるものは、そう、多くない。戦士の誇りを持って戦えるものは、そこまで多くないのだ。だから、感謝を。その者へただ、感謝を捧げるのだ。それだけをするのだ。」

 「…決意なんかしてない。仕方なく…」

 「いや、お前は決意した。お前にはずっと奴隷でいるという選択肢もあった。少なくとも、そうすれば、すぐに命を失うことはないだろう。しかし、お前は戦うことを選んだ。例え、死ぬことになろうとも。」

 「…」

 「守るべき者がいたのだろう?助けたいと。だからお前は戦士になった。誇り有る、戦士だ。剣を振り回し、殺すだけの者はいくらでもいる。しかし、それはただ殺すことが目的となってる悲しい奴らだ。誇り高い戦士は、戦うということがあくまで目的を達成するための手段であることを知っている。だから、殺すということに酔わない。」

 「感謝を捧げろ。殺し、殺されることを恐れるのは当然のことだ。しかし、感謝を捧げ続けていれば、それがお前の恐怖を救ってくれるだろう。」

 「…」

 そう、きっと怖いのだ。殺されることも、殺すことも。

 感謝を捧げるというのは、余計なことを考えさせないようにする、言わば方便だろう。

 しかし、信仰の薄い日本人に果たしてしっくり来るのだろうか…。

 …そうだな…。日本人にはやはり、奴隷根性溢れるハードワークが基本だろう。

 練習修行鍛錬だ。

 仲立さんなら俺の敵になることはないだろうし…、ま…いいだろう。

 彼の悩みを聞いて、多分、腹の物を思う様吐き出す様子を見て、彼を疑うということに諦めがついた。そして、彼に真摯に話しかけるスッテンを見て、この息苦しい部屋の中の空気が少し、吸いやすくなった気がした。

 それだけだ。理由は多分それだけ。

 「仲立さん。これを感じることは出来ますか?」

 「…?」
 
 俺は仲立さんの手に、魔力の糸を張り巡らせ、そのうち何本かは、体の中をわざと通してみる。

 魔力を多く詰め込み、なるべく反発されるようにする。

 スッテンは少し、驚いているようだ。

 「…あ…、なんか、糸みたいなのが、体の中を…」

 「これは、俺が編み出した探査魔法です。ただの魔力操作なので、魔法ってほど大したものじゃありませんが…、これを身につければ、かなりの距離から生物を見つけることが出来ます。」

 「…」

 「殺すのも、殺されるのも、敵と会えばこそです。これを使って危ない時は逃げれば、殺し殺される確率はぐっと下がります。」

 「…。」

 「あと2週間。コツを掴むところまでは行けると思います。暇つぶしにこの探査魔法の練習をしてみませんか?」

 「…あぁ、そうする。…すまん…。」

 「…俺は風魔法を使った探査方法だ。以前、先生には言ったことがあったが、俺達の周りには魔力が満ちている。風に乗った魔力を読み取ることで、敵の判断をしている。先生の魔力は精度がいいが範囲は狭い。俺の魔法は精度は悪いが、範囲はでかい。それに何より、魔力を使える奴相手に全く気づかれないんだ。風に乗った魔力を読み取ってるだけだからな。」

 「仲立は、水魔法が得意だが…、大気に含まれるっていう水にも魔力は満ちているからな。…おそらくこれを利用すれば、俺の探査魔法も習得することは出来るだろう。まぁ、ちょいときつめになるとは思うが…、何、二人の才能なら問題ないだろ。」

 「…助かる…。」

 「いえ…、…二人?」

 「あぁ、どうせなら先生も一緒にやってこうや。風魔法使いなんだから問題ないだろ?」

 「あぁ、いや、まぁ、大丈夫だと思うがよ…。えぇ~~、ここは二人で仲立さんに教えていく感じじゃねぇ~~の?」

 「なぁに言ってんだよ。魔法を覚えて数年の若造が物を教えるなんて生意気だろぉが。」

 「なんだよ、締まらねぇなぁ…」

最後はこんなグダグダな感じになった。

 なにが面白いのかわからないが、馬鹿みたいに俺たちは笑った。

 ま、いいか。

 こういうのも、まぁ、いいか。

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 その日から俺たちは、探査魔法の練習がメインの集まりになった。

 あまり話さなくなったのは変わらないが、その分練習に集中している。

 息苦しさは感じなかった。

 俺は、風魔法を得意としていたせいか、スッテンの探査魔法を割と早い段階で習得できた。一番難しかったのは、周りに満ちている魔力を感じるという点だった。

 今までは、体の中にある魔力を身体の中で感じ、操作していた。

 しかし、大気に満ちている、つまり体の外にある魔力を感じることはして来ていない。

 だからか、周りの魔力を感じることが高いハードルだった。

 スッテンにどうやるのか聞いても、「いやぁ…、感覚かな…」。

 こいつマジダメだな。

 っていうか、こういうところが理論化出来たり言語化出来ないから魔法ってのが個人の技法止まりなんじゃないか?

 ちゃんと、理屈立てて説明できたり、決まったトレーニング方法があったりしたらいいんだけどな。

 しかし、その後になんとかコツをつかめた。

 これも結局魔力の糸の応用だった。

 俺は生物のいるいないを、魔力の糸からの魔力の反発で感じているらしかった。何となくそうかとは思っていたが、スッテンに指摘されて確信出来た。

 魔力の反発を魔力で感じるんだ。

 自分で操作している風には、自分の魔力が乗っている。

 この自分の風に乗った魔力で、大気に満ちた魔力を感じる。この感覚でうまく行ったようだ。

 魔力の糸の様な純水な魔力のみでは、風に満ちている魔力を感じることは出来なかった。

 ココらへんも魔力に関するなにかが関係してそうだ。

 そういったことを仲立さんに伝えたら、程なく、水魔法による探知を習得することが出来た。

 やはり、スッテンの教え方はよろしくないのではないだろうか…。

 そんなことを考えていると、似たようなことを仲立さんも考えてたらしく、魔力談義になっていった。

 「やはり、魔力というものを可視化出来ないのが痛いですねぇ…」

 「可視化ってなんですか?」

 「魔力というものを目で見える何かしらの形に変換するということです。」

「変換ですか…なんとなく難しそうですね…」

「いや、そんなことないよ。例えば、身近なところで言えば、風の流れがある時に、風がどういうふうに流れているかを知るために、煙を流してみるんだ。すると、煙が流れていくのが見えるだろう?簡単な可視化の一例だよ。」
 
 「そう言われてみるとたしかに…。…鯉のぼりなんかも、風が流れてるかどうかぐらいはわかりますね。」

 「あぁ~、そうだね。確かにそのとおりだ。あれも風の可視化の一種だね。魔力でも似たようなことは出来ないもんですかねぇ。」

 「う~ん、聞いたことねぇなぁ…、俺も学士じゃねぇから知らないだけかもしれねぇが…」

 「魔力の流れを見ることができれば、かなり色々捗ると思うんですよね。」

 「どうしても個人の感覚に頼っちゃうしかないですもんね。」
 
 「そうなんだよ。もし、魔法を教える人が口下手な人だったら、それでもう魔法は断絶だよ。」

 「…そうかな…、いろいろな訓練法も有るらしいし、別に口が上手いかどうかは関係なくねーか…。」

 「いや、あるよ。スッテン。ある。」

 「そう…ですか、はいはい。」

 心当たりあるんじゃねーか。

 「ま、確かにこちらの世界でもそういった問題はある。個人の感覚に頼らざるを得ないことを逆手に取って、自分の魔力を他人に流し、魔力の流れを模擬することが一つの訓練方法として挙げられる。」

 「へぇ~、そんな事ができるならなんでやらなかったんだよ。」

 「これは、結構難しくてな。出来るやつが限られてるんだよ。逆に言えば、これができればわりかし早く、弟子が魔法を使えるようになる。だから、これが出来る高名な魔術師には弟子が多く集まるし、教えてもらうために金を積む。貴族なんかそれが顕著だな。とにかく自分の派閥のものに魔法を使えるようにさせるんだ。だいたいこういうのは一人頭幾らって感じの金の積み方だから、人数が増えれば当然莫大な金が必要になる。」

 「どこの世界でもお金は正義ですね。」

「しかも、名が売れてる魔術師は、自然弟子が集まり、貴族との繋がりもでき、派閥として大きくなっていく。魔力を流すという方法からある程度の信頼関係も出来るからな。この派閥は意外と強固で、魔術師内では会派と言っていたりするな。学士すなわち魔術師と言い換えてもいいが、学士の中にも派閥があるということだな。大体が、俺達のように同じ物を身につけているから、それで大体の会派がわかる、らしい。俺も正直学士についてはあまり詳しくない。やはり、学士の人間に聞くのが一番だな。」

「っつーことは、俺達はスッテン会派ということになんのか。」

「そうですね、腕輪ももらったことですし。」

「いや、先生はもうすでに魔法使えただろ?それに二人が作ったナイフだってみんな持ってるじゃねーか。スッテン会派は違うだろ。」

「なんだよ。つまんねーな。」

「せっかくですし、この三人の会派を作りますか。」

「お。なるほど。そりゃ面白いな。大事なのは会の目的だ。なんのためにこの会が有るのかってところだな。」

「そりゃ、スッテンお前…、なにがいいかな…。」

「俺たち三人の共通点がいいんじゃねーか。みんな、なにか目的があるだろ?そんな感じの…」

「目的ですか…。う~ん…、じゃあ、前進とかでは?。」

「前進か…、いいんじゃないでしょうか。」

「んじゃ、次は印だ。俺たちの「前進」を表す記号を作る。」

「記号…、つまりマークみたいなもんか。前進のマークねぇ…」

「ま、なんだっていいんだよ。俺たちがわかれば。」

「じゃあ、丸書いて、その中に宝石を入れるってのは?進んだ先の的みたいな?目標を示してるとか?」

「いいですが…、宝石がどこにあるか…。」

「なら、こいつはどうだ。準備のために山を歩き回ってたら見つけたんだ。」

「これは…、水晶ってやつですかね。」

いいじゃん、いいじゃん。

「ちょっと貸してくれ、ふたりとも、ナイフもついでに。」

そう言って貰ったナイフに、丸い凹みをつける。ちょうど柄の知りのところだ。もらった水晶も形を丸く整え、表面を綺麗にし、中にはいっている不純物を取り除いていく。綺麗な透明になった。これを丸いくぼみの中心に埋め込んでいく。

「どうぞ。」

3つとも加工が終わりそれぞれに返す。

「へぇ。マークとしてはシンプルだが、中心に宝石があるってのがいいな。マークごときに貴重なものを使うことはないし…いいんじゃないか。」

「いいですね。これで我々も晴れてスッテン会派となったわけです。」

「いいな。では、スッテン会派ってことで。」

「…」

「…なんだよ、そんなに怒ることないだろ?嫌ならやめるよ。」

「ガークだ。」

「?」

「オレの名前だ。…ガーク・アジナ。スッテンなんて抜けた名前じゃなく、ガークと呼んでくれ。」

「…。わかった。俺たちはこれからガーク会派ってことだな。」

「では、ガーク会派参謀仲立ということで。」

「!!。ガ、ガーク会派殲滅隊長端溜だ。」

「…なんだよ、なんか悪者みたいじゃねぇか……。ガーク会派魔王ガークだ。」

 魔王かよ…。

「魔王か…」

声出てますよ仲立さん。

「では、魔王として部下に報告がある。」

「「は!」」

いや、ノリいいな俺たち。

「こっちの準備は整った。あとは、決行日を待つだけだ。」

勇者凱旋まで、残り3日のときだった。

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