ಂ××ౠ-異世界転移物語~英傑の朝

ちゃわん

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第6章

第65話

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誰も喋らない。

俺と、モニと。佑樹と美紀さんがナガルス様の自室に招かれてからずっと、誰も喋っていない。

ナガルス様はずっと部屋の外の景色を眺めている。

あれは一体どういうことなんだと。

聞くべきだとわかってる。

…ただ。

もしそれを聞くために口を開いてしまったら、別のことを口走ってしまいそうだ。

…だから俺は何も聞けない。

いつもそうだから。

いつもカッとなって…それで状況が悪くなってるような気がする。

佑樹にも短気だって言われたしな…。

まず話を聞かなきゃ。

…ナガルス族がサイードを奴隷にしたクソ貴族と同じな訳がない。

きっと…なにか理由があるんだ。

俺が納得できるような。そんな理由が。

…。

ナガルス様が眺めてる外の景色は…眩しいな。目が眩む様な青空で…。

「…この部屋は儂の好きな部屋の一つでな。嫌なことや辛いことがあった時はここに来ることにしておる。壁一面が窓になったこの部屋ではの、色々な景色を見ることが出来る。予め決めた場所からだけだがの。」

ナガルス様は俺の、俺達の方を見ない。

「…この景色をずっと見ていると少しずつ心が洗われていく。望郷祭が終わった後は必ずここに来る。…最後に来たのはモニが行方不明と聞かされた時かの。」

外を見続けながら、まるで独り言のように喋っている。

壁一面に広がった景色は確かに綺麗だ。

何処かの浮島からの景色か?

ただただ空が広がっている。

近くの空、遠くの空を、生物がぽつぽつと飛んで行く。

雲と、空と、空を飛ぶ生き物。

ただそれだけ。

誰も話さない間、色々な生き物が通り過ぎた。

ドラゴンみたいなのがゆうゆうと飛んでたりもすれば、鳥の群れが飛んでたりする。

小さな浮島を足場にしてる大きな亀みたいな生き物も居た。

皆、ただ生きていた。

そこにはきっと、恨みも怒りもない。

ナガルス様がこの景色を好む理由が何となく分かる。

「…望郷祭を説明するには…我々の…いや、この世界の成り立ちから説明せねばならん。巷では神話の話だなどと言われておるが…儂にとっては父や母に聞いた話じゃ…。」

やはりナガルス様は景色を見ながら話し続ける。

ぼそりぼそりと…昔を思い出すように。

「昔々…

それはそれは昔の話じゃ。

儂が生まれる前…2000年以上前…始まりは一万年以上も昔になるじゃろうか…。

…この世界は巨人の物じゃった。巨人が世界を治めておった。

彼らは大きく…強く…頭が良かった。

そして傲慢で、卑怯で、…残酷じゃった。

彼らは自らの下僕を作り出そうとした。

そのために、彼らの叡智を使って魔力というものを生み出した。

…いや持ってきたというべきか…。

この世界とは別の所にある力を、この世界に顕現させたのじゃ。

この魔力という力、今でも分かっておらんことが多い。

ただ魔力というものには生物に知性を与え、進化させる力があるそうじゃ。

お主らの世界には進化論…という説があるらしいの…。

長い年月を掛けて四足の獣が我らまで至る…と。

魔力にはこれを極短期間で起こす力があるらしい…。

巨人はその魔力をそこらの獣に与え、様々な生物を作り出した…。

人族、獣人族、森人族、炭坑族、海人族、天人族…様々な用途に特化した生き物を作り出した。

巨人の世話をさせるための奴隷としてな。

生み出された奴隷とは即ち…我々の祖のことだ。

…つまり、今生きておる者共は全て、奴隷を祖に持つことになるの…。

…彼らは小さき者と呼ばれていた。

巨人は彼らに土地と国を与えた。

…これは小さき者に慈悲を与えたからではない。

巨人が小さき者達を管理することが煩わしかったからじゃ。

自分達で自分達を管理させたほうが効率的で楽だったから。ただそれだけの理由じゃったという。

そして巨人は彼らに知識も与えた…様々な物を生み出すための。

生み出した物の殆どは巨人に奪われていった。鉄も、金も、食べ物も…小さき者達の命ですらも。

悪しき巨人達は、まるで虫けらを殺すかの如く小さき者達を殺していった。

握りつぶして殺し、踏み潰して殺し、投げて殺し…。

食事として振る舞われた事もあったという…。

小さき者たちは絶望と共に生きていた…。

…。

…だがある時、この絶望に抗うため立ち上がった一族がいた。

人族じゃ。

巨人は我々に魔術も教えていた。

彼らが作り出した古代魔術じゃ。

様々な物を作らせるためにその方が都合が良かったのじゃろう。

その古代魔術を最も使いこなし、また理解していたのが人族じゃった。

だが人族の強さはそんな所にはない。

例えば、人族以外の小さき者達は、獣や妖精の特性を強く有していた。

それはつまり、純朴であったり、強い主従関係であったりじゃ。

今では純朴であったり、長に従うというのは美徳とされる事が多い。

だが裏を返せば、何も考えず強者の指示に疑問を持たぬ愚か者でもあった。

だから巨人に逆らうなどとそもそも考えつかなかった。

しかし人族は違う。

彼らは…唯一巨人族の特性を色濃く有していた。

彼らは頭が良く…卑怯で、頑固で、残酷じゃった。

…これは決して人族を貶めているわけではない。

卑怯で残酷で頭が良いということは、嘘を付き、どんな方法を使ってでも、何かを成し遂げる方法を模索することが出来る。

様々な方法を考え、現状を打破する可能性を探ることが出来るのじゃ。

加えて頑固さは即ち、目標を達するまで、しぶとく諦めないことでもある。

そして強いものに勝てるという傲慢さも持ち合わせていた。

だからこそ巨人族を倒そうと思えたわけじゃな。

とてもありえない目標を信じ、そしてそのために脇目も振らず邁進していく。

その目標が叶う事に、何の根拠も無かったのに、じゃ。

人族の強さは、魔術を使いこなす所などでは無い…。

…。

…人族を筆頭に、小さき物達は秘密裏に協力していき、巨人を討ち滅ぼす方法を研究した。

…その結果編み出された方法が勇者召喚じゃった。

……。

彼らは巨人を討ち滅ぼす事が出来得る生物を呼び出そうとした。

しかし呼び出したとて、この世界に生きられなければ話にならん。

だからこそ小さき者に似通った者を呼び出す必要があった。

そのために、小さき者共と同じ因子を持つ者を、呼び出す勇者の条件とした。

もちろん巨人を討ち滅ぼす力を持った上で…じゃ。

人族、獣人族、森人族、炭坑族…様々な者達の因子を印として、勇者を召喚しようとした。

そしてたった一つ、ある人族の少女の因子が勇者を呼び出すことに成功した。

…。

…その少女の名は…フォステリア。

今は、フォステリア・ドイト・ハルダニヤと名乗っておるようだの。」

ナガルス様は佑樹を見て…佑樹は…めちゃくちゃビビってるな…。

「フォ、フォステ…!?フォシーの事か?!え?!…い、いや…でも確かに物凄い高齢だと聞いたことはある…。昔の勇者も知ってる風だったし…。」

「っはっは。高齢などとうに超えておるじゃろ。大体2500歳は行っているはずじゃがなぁ。若作りのババアはやはり見苦しいのぉ…。」

「い、いや、ちょっと待てよ。人族?フォシー…フォステリアは確かエルフ…と言っていた気がする…。森人族?じゃないのか?」

「ああ…自らをエルフなぞと名乗っておるのか。劣等感塗れの悲しい女よ。どーせ、魔法で姿を変えておるのじゃろ。ただの人間が2000年以上も生きておるなぞありえんからのぉ。エルフと言っておけば、余計な詮索はされないと考えたんじゃろ。人族で齢1000を超えるなぞ…ザレフの坊主くらいじゃからの。」

「…魔法で姿…確かに、そういった方法は…ある…か。」

まぁ、佑樹も魔法で姿を変えてた訳だしな。

「さて…話を戻すかの。

召喚された勇者と小さき者達は結託し、巨人と戦った。

勇者は特に古代魔術への適正があり、本人には古代魔術が効かないという能力もあったそうな。

ただ、巨人から小さき者達に伝えられた古代魔術は、基礎的な部分だけだったそうでの。

勇者の古代魔術の適正、というのは、召喚した当時あまり生かせなかったそうじゃ。

ただ、それ以外の成長も著しく、巨人になんとか抵抗できるだけの力を、勇者は身につけていった。

勇者が現れた事で、手に入った物は力だけではなかった。

様々な考え方も伝えられたそうな。

少ない戦力で抗うためには、一人一人を奇襲するだとか、敵の情報をもっと盗んでくるだとか、残酷な殺し方をして敵を恐れさせるとか…。

一般的には卑怯であったり、残酷だと言われるかもしれんが…こと愚直一辺倒であった小さき者達にとっては衝撃的な考えばかりじゃった。

まぁ、考えてみれば当たり前よの。

この世に生まれ落ちて、ただ巨人の言う通り生きてきた生物なぞ、まさに赤子同然。

戦い方何ぞ教えられておらんから、手や棒を振り回すかのような戦法じゃ。

巨人からすればまさに、赤子の手を撚るかの如くよ。

そして勇者の考え方は、そんな赤子に取ってあまりに鮮烈で…効果的じゃった。

結果もついてきた…。

…巨人族は少しずつではあるが追い詰められ、小さき者共はゆっくりと勢力を強めていった。

まだまだ戦況をひっくり返す程ではないが…今まで虐げられる一方だった小さき者達の喜ようは…それはそれは凄かったそうな。

彼らは希望を見出したのじゃからな。

当時の冒険記がかなり昔にもかかわらず、数多く残っておるのは、それほど嬉しかったからじゃろうな。

皆こぞって勇者の戦果を認めたんじゃろう。

そして、その英雄譚にも良く描かれておるが…、恐らくフォステリアは…長く一緒に戦っておることで勇者に惚れたんじゃろうの。

…勇者に懸想するようになっていったそうな。

まぁ、自分が呼び出した男が隣でどんどん憎き敵を打ち倒し、味方に希望を与えていく。

味方はフォステリアを褒めそやすし、勇者を悪く言う奴など一人としておらん。

眼の前に英雄がおれば…、それが自分を守るために戦っておるとすれば…。

まぁ惚れてもおかしくはないの…。

面も良かったからのう…。

……。

…さて、この戦いで我々ナガルス族の祖である天人族は…諜報員の役目をしておった。

巨人族の動向を手に入れ、そして特に、古代魔術の秘を手に入れるために。

勇者に古代魔術を教え、勇者を更に強くするために。

自然、我々の祖は古代魔術に精通していった。

…当然、古代魔術を修めるには巨人の協力が必要不可欠じゃった。

だから当時の巨人を寝返らせようとしたのじゃ。

これも勇者が音頭を取っておった。

…。

…敵を味方にする。

これもまた、全く思いつきもしなかった事じゃろう。

当時の我らが祖は、巨人達にあまりにも長く、残酷に虐げられておった。

巨人の力を借りるなどと思いつかなかったじゃろうし、…思いついたとしても実行に移す者はおらんかったじゃろうな。

だからこそ、勇者が、勇者だけがそれを実行しようとした。

…だが、これだけは小さき者達も渋っての…なかなか協力してくれなかったそうじゃ。

人族の代表であるフォステリアも…これには協力しなかったらしい。

だが我らが祖の天人族は協力した。その価値を理解したからじゃ。

そして、天人族と勇者の協力の下、一部の巨人を味方にすることが出来た。

我らが虐げられていた事を憐れに思ってのことらしい。

…実際の所はどうか分からんがの。

勢力を徐々に増す小さき者達に、いや、勇者に恐れたのかもしれん。

…どうだったのかの…。

…彼らのことを優しき巨人と言っておったりもした。

言葉面を変えれば、小さき者達も巨人と誼を結べるかも知れない。

…そんな思惑があったのかも知れん。

勇者は良く、巨人と和解できるのが一番良いと言っていたからの。

…まぁ、無駄に終わったわけじゃが…。

……。

…古代魔術を扱える天人族、巨人を討ち滅ぼす力まで持っておる勇者、そして優しき巨人達。

この条件が揃った頃から、小さき者達は大躍進を始めた。

戦いは激化し、とてつもない速さで悪しき巨人達が討ち滅ぼされていった。

それに伴い小さき者達の勢力も増えていった。

…だが数が増えると内輪で揉め事が起こる。

特に天人族は勇者と共に戦果を多く挙げておったからの。

古代魔術も扱うからか、巨人に内通しているだの裏切り者だなどとな…。

…一番天人族を批判していたのが…人族…そしてその長である…フォステリアじゃった…。

人族と同じ因子を持ってる勇者が、天人族と協力して戦果を出しているのが気に入らなかったんじゃろうの…。

だが勇者は天人族を良く庇ってくれたそうじゃ。

今でも人族は天人族を嫌っている者が多いが…それ以外の一族からはあまり嫌われてはおらん。

それはこの当時の勇者が我らを庇ってくれたからだと言われておる。

勇者の言動は逐一記録されていたからの。

素晴らしい言動を認め、それを売ればバカ売れだったそうじゃからの。

天人族に味方してくれた記録は今でも残っておるんじゃ…。

もちろん、天人族はそんな勇者に強く恩を感じてな…。

勇者も危険な諜報活動を唯一賛同してくれただけでなく、危険を犯して実行に移してくれた天人族を強く信頼しておった。

…そんな中、天人族の一人と勇者は恋に落ちた。

共に命がけで戦うことの多かった天人族と恋に落ちるのは、半ば必然だったのかもしれん。

そして天人族と勇者の間に生まれた子供が…儂こと、ナガルス・ル・アマーストじゃ。

…そして人族との亀裂が決定的になったのもこの頃だったそうな。」

…マジ?

ナガルス様勇者の娘だったの?

…っていうか2,3000年前の人間がそこらにゴロゴロ居るってのがとんでもないんですけど…。

「…母上が言っていた勇者の血統と言うのは…お酒の上での冗談じゃ無かったのね…。」

「なぁんじゃ。信じておらんかったのか?血統どころか娘じゃ娘。お主は勇者の孫じゃからな。」

「勇者の孫…。知りませんでした…。まさか…そんな…。」

「まぁそんなに気にするでない。それを証明することなど最早できんし、勇者の孫であろうが何であろうが、何が変わるわけでもないからの。」

「…。」

「また脱線してしまったかの。この話をするのは辛くての…。

どうしても合間に休みをいれていかんとのぉ…。

どこまで話したか…。

あぁ、儂が勇者の娘だったところからか。

…。

…内輪で揉めてるとは言え、天人族と勇者は絶大な戦力となっておった。

悪しき巨人達との戦いも、最早趨勢は決まっておった。

だが最後の最後、悪しき巨人を討ち滅ぼす寸前、奴らはある物を召喚した。

そもそも勇者召喚も奴らから教えてもらった古代魔術を元にしたものじゃ。

当然奴らも召喚術を使えておかしくはない。

…だが常に小さき者達を見下しておった巨人が、小さき者達の技術を学び、実践しようとしていたとは…。

余程追い詰められておったのじゃろうな。

…。

呼び出された物は「蠢く者」と呼ばれていたそうな。

とは言え、勇者たちは蠢く者が召喚されたことなど気付かなかった。

随分後になって気付いたらしいからの。

この蠢く者に気付かないまま…小さき者達は勝利に酔いしれた。

悪しき巨人はいなくなり、小さき者達のみの世界が始まったのじゃ。

復興は大変だったが…、この喜びと比べれば大した苦しみではなかった。

…復興の間中、フォステリアはずっと勇者に人族の国に戻ってくるよう打診しておったらしい。

だが結局勇者は天人族の国で過ごした…。

…人族と天人族の深い溝は、徐々に徐々に、広がっていったそうな。

朧げながら覚えておる…。

父上が人族のことを話している時は…懐かしそうで…そして悲しそうじゃった。

憐れな男よ…。

無理矢理連れてこられ、無理矢理戦わされて、守った相手からは嫌われる。

そりゃ辛いことよの。

……。

…小さき者達が復興から使い始めたのが、現代魔術と呼ばれる物じゃ。

ついに教えては貰えなんだが、父上は古代魔術をかなり危険視しておった。

だが、魔術が非常に役立つ事は理解しておった。

人々の復興のためには魔術を使わない手はない。だが、古代魔術は危険じゃ。

だから父上は現代魔術を作り出し、広めようとした。

現代魔術の素晴らしい所は、学べば誰でも使える点じゃ。

古代魔術に関しては適正と運が必要らしいからの。ムラがあるんじゃよ。

だが現代魔術は、誰でも使え、だれでも一定の効果を見込める。

強い魔術を扱えなかった天人族以外の一族は、これを喜んで使った。

そして爆発的に広まっていった。

そしてそれが現在の現代魔法の礎となっておるのじゃ。

…それに対して天人族は既に古代魔術を修めておった。

わざわざ現代魔術を使う意味もなく、古代魔術のみを研鑽していったという。

…。

…現代魔術が人々に行き渡って暫くすると、問題がそこかしこで起き始めた。

…慢性的に人々を蝕む病、唐突に凶行に走る人々、育たなくなる作物…。

これを解決するため、また人々は一丸となった。

このときばかりは天人族と人族の仲違いもなりを潜めた。

まぁ炭坑族と森人族など一族同士の仲が悪いことなど普通にあったからの。

取り立てて我らを咎める者はおらんかったが、流石にこのときばかりは空気読め、ということじゃったんじゃろうの。

色々な不安はありつつも、人々は楽観しておった。

あの巨人を打倒したのであれば、これも必ず解決できるだろう、と。

そう慢心しておった。

結局巨人を倒せたのは勇者がいたからなのにの…。

…そして人々の数が半分になった頃、蠢く者が原因だとわかった。

優しき巨人達の手によって明らかにされたのだ。

悪しき巨人が最後に召喚した…高次元の存在であると。

蠢く者は海を全てその身で埋め尽くし、大陸に侵食してきていると。

…父上はまるででかいスライムのようだ…と言っておった。

…スライムというのがどういうものかわ分からんがの。

…そしてこれを討ち滅ぼす方法はない事も分かった…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…人々は、打ちひしがれた。

…そして…。

…そして人族は、それを信じなかった。

我ら天人族と巨人族が結託して我らを支配しようとしていると、そう主張した。

全ての一族が集まる場でな。

そして他の一族も、それに賛同しないまでも、訝しむ気持ちが出てきてしまったんじゃろうな。

我々はどの一族からの協力も取り付けられなかった。

…天人族は優しき巨人達を保護しておったからな。

人々の巨人族への憎しみはまだまだ深かったということもあったんじゃろうの。

……。

…あの時フォステリアは…顔を伏せておったな。

父上と目を合わせることが出来ていなかった。

…理由は分からん。分かろうとも思わんが。

父上は…。

……。

父上と天人族は他の人々からの協力を諦めた。

そして我らのみで作戦を練った。

そして蠢く者を封印することにした。

父上は一部の巨人達と古代魔術が使える天人族を全て連れ、封印に向かった。

最後の戦いは、天が揺れ、海が嘶き、地が割れた。

そして最後の最後で蠢く者の核を封印することに成功した。

父上自身の身を犠牲にして…。

父上と蠢く者の核は海中深く、深く沈んでいき、黒い玉となった。

中央台座の穴から見える、あの黒い玉じゃ。

だが蠢く者の身は、封印できなかった。

身の一部は大陸に浸透していき一部を浮き上がらせた。

これが浮島じゃ。

理屈は判らぬが…蠢く者の身には万物を反発させる力があるそうじゃ。

そして、今の海の水は全て蠢く者の身じゃ。

このせいで大陸は全て徐々に徐々に浮き上がっていっておる。

我らの浮島と同じようにな。

そしていつの日か…我らの星は弾け飛ぶじゃろう。

海である蠢く者の身体は、蠢く者の核と接しておるせいで力が漏れ出ておる。

今現在も徐々に徐々に力を増していっておる。

空を飛んでいる浮島に染み込んだ蠢く者の身は、最早意志なぞなく、ただ空を漂わせることしか出来ないようじゃが…。

黒い玉から力が漏れている理由は…、ヴィドフニルの大樹と言われておる巨大な樹のせいじゃ。

これは父上に封印される瞬間、蠢く者が最後の力を振り絞り巨大化させた木じゃ。

それは瞬く間に大きく成長し、大陸に根を張り、海を突き抜け…黒い玉を侵食した。

徐々に徐々に、黒い玉の魔力を吸い取っておる。

そして魔力が足りなくなるという事はつまり、封印が解けるということじゃ。

封印が解けた後は…まぁ、言うまでもないの。

この封印を維持するため…我々は、魔力が足りなくなると都度、…生贄を捧げてきた。」

「…。」

「…。」

「封印がなされ、大陸の形が大きく変わり、蠢く者の影響が無くなった頃…、フォステリアはハルダニヤ国を建国し、リヴェータ教を組織した。

その理由は分からん。

分からんが…ハルダニヤ国初代国王は勇者という事になっておる。

二代目国王はフォステリアじゃ。

そしてリヴェータ教はハルダニヤ国の国教。

彼奴等目が我らを目の敵にするのも分かる気がするのぉ。

リヴェータ教が独占しておる回復魔法じゃが…、この蠢く者の身を使っておるんじゃ。

どうやって…なぜかは分からん。

だがあやつも絶望の時代を生き抜いた猛者…。

様々な手を使って手に入れたんじゃろう。…流石人族よの…。

リヴェータ教は回復魔法を独占することに成功し…、ハルダニヤ国は勢力を強めた…。

フォステリアが何故…国を作り宗教を作ったのか分からん。

何故…いまさら勇者召喚なぞをしたのかも。

そのまま堪えておれば、徐々に徐々に我らの勢力は削られていき、人族の数が増えていくだけじゃ。

焦る必要なぞ無かったのに、何故わざわざ勇者を召喚したのか…。

…もう直接聞くことは出来ん。我らはハルダニヤ国の天敵となってしもうたからの…。

それを確かめるために、前はちょっかいを掛けたんじゃがの。

結局理由はわからんかった。

召喚された勇者が何も知らされてないことだけしか分からんかった。

…。

…我らは勢力として不利じゃ。

だからこそ、散発的な特攻を繰り返すことでしか戦果を収めることが出来ん。」

「…。」

「…。」

「…だが、我々はもう、同胞が、子供達が生贄として殺されることに我慢がならん。

だからこそ、ヴィドフニルの大樹を破壊するために宝珠を壊そうとしておる。

あれは大樹の核じゃからの。…蠢く者の一部であると言ったほうがよいか。

…ただ、問題もあった。

大樹を破壊すると、蠢く者の封印は継続されるが…倒せるわけではない。

そしていずれまた魔力が無くなるじゃろう。

しかし、かと言って核を滅すれば、蠢く者の身の部分は大陸に染み込み、大陸を空高く持ち上げてしまうじゃろう。

それはもうどこまでもどこまでも高くの…。

今までは黒い玉の中の核からにじみ出る自身の魔力を受け取るために、黒い玉の周りを覆っていたのじゃ。黒い玉の周りに居続けたのじゃ。

だからせいぜい海面が上昇するくらいで済んでおった。

だが、黒い玉の中の核がいなくなれば、身は大陸に染み込んでいってしまう。

これは既に実験で実証済みじゃ。どうやらそういう性質があるようでの。

しかしやっと、核を滅し、かつ大陸が安定する方法が分かった。

やっと研究の成果が出たのじゃ。」

「…しかし今までもハルダニヤに攻め入って、宝珠を破壊しようとしてたでしょう?矛盾しませんか?その瞬間大陸は空高く舞い上がってしまうんでしょう?」

「そのとおりじゃ。婿殿。

だが、あれは宝珠がある場所を封印しようとしたんじゃ。

そして遠距離にいてもこちらの思う時に、壊せるようにするつもりじゃった。

早めに抑えておくに越したことはないからの。

それも叶わなかったが、次こそは…の。」

「サイードは…その魔力を供給するために殺されたんですか…?」

「…生贄にはした。だが、死んでいるかと言われれば、分からん。

そもそもあの魔法には人を殺す力はない。

あれはただ、魔法を掛けられた者が仮死状態になるだけじゃ。

その状態であれば、食事を取らずとも長い間生き残る事が出来る。

そして次の生贄までの期間は、前回生贄にした者によって変わるのじゃ。

5年の事もあれば、10年保つこともある。

30年保ったこともあった。

…ここから考えるに…恐らく生贄はまだ死んでおらん。

そもそも死んだら魔力を取り出せん。

魔力を搾り取るためには、捧げられた生贄が生きていないとならんのじゃ。

黒い玉は魔力を生贄から吸い続け…生贄から魔力が取れなくなってから、それでも魔力を吸い取ろうとすると生贄が死ぬのだと思う。

そして黒い玉が再び活動を始める。

この活動期間にズレがあるのは…取り出せる魔力が個人個人違うからではないのか?という説が有力じゃ。

だから時期に差が出る。

ということはつまり、魔力が枯渇するまでは生贄は生きている…のではないか?

…我々はそう思っとる。」

「…。」

「そしてこれを確かめる方法はある。

宝珠を破壊し、蠢く者の核を滅し、黒い玉を破壊し、玉から生贄を引っ張り出すのじゃ。

そうすれば生きているかいないか。

それが分かる。

その方法は既に研究してある。そこに問題はない。

…問題は、宝珠を破壊できるか、否かじゃ。

ダックス・ディ・アーキテクスとオセロス・モナド。

此奴等を制することが出来ねば、宝珠まで辿りつけんからの。

……。

…ショーよ。そしてユーキよ。

次の最終決戦に…参戦してくれんか?

サイードを助けるために。」

「…。」

「…。」

「…このような言い方が卑怯であることは分かっておる。…だがどうか、我らを助けて欲しい。これ以上我が子供等を父上に捧げたくないのじゃ。

我ら一族の問題だけではない。

南部大陸の南の端には、大地が死滅した所がある。

そこに住むものは皆病を持ち、土地の作物は育たず、魔物は凶暴化しておる。

…そう、蠢く者の身が大陸ににじみ出てきておるのじゃ。

これをほうっておけば、人々はまた半分まで数を減らす。

いや今度は半分では済まないかも知れん。

そのためには蠢く者の核を滅さねばならん。

核さえ殺せば、身それ自体に大した効果はない。殆ど水みたいなもんじゃ。

…浮かび上がらせる力はあるが…、毒では無くなる。」

「…。」

「…。」

「…父上は、何を考えておったのじゃろうなぁ…。

確かに子供の頃は優しくしてもろうた。

いい思い出もあった。

だが我が子を何人も、…何人も父上に捧げてきて、その度に恨みが積もっていった。

思い出は色褪せ、憎しみは増し…。

…。

…冷静に考えれば封印のために、古代魔術の扱いに長けた全ての天人族を連れて行ったのは分かる。

万全を期したかったのじゃろう。

じゃが…何故古代魔術を使える者のみだったのじゃろうか。

魔術が使えなくても戦える戦士はいたはずじゃ。

…父上は古代魔術を危険視しておった。つまりは古代魔術を扱える天人族を危険視していたと言っても良いはずじゃ。

父上が古代魔術を扱える天人族を全て連れて行ったから、今は古代魔術と言える程の術は残っておらん。

儂がこっそり古代魔術の基礎だけを母上から学んでなかったら…古代魔法自体も無くなってしまったじゃろう。

…父上を驚かせたいから内緒にして欲しいと母上にねだったことを最近良く思い出す。

…もし儂が古代魔術を使えると知っていたら、父上は儂も連れて行ったのじゃろうか。

そして封印のためであったのは間違いないとは思うが…都合よく古代魔術を使えた天人族は全て死んだ。

父上の心配はなくなったわけじゃ。

父上を信頼し、命まで掛けた同胞を封印にかこつけて…。

…実際に父上が手を下してはいないと思う。

だがわざと天人族に先に戦わせ、天人族が戦いで皆死に、蠢めく者が疲労した所で封印をすれば…。

……。」

「…。」

「…。」

「…もし儂が古代魔法を使えていたのを知っていたら、父上は儂も連れて行ったんじゃろうか…。

母上のことは…連れて行ったんじゃ…。」

「…ナガルス様。戦いの件、暫く考えさせて下さい…。」

「…俺も、少し一人で考えたいです。」

「ん…?あ、あぁ。そうじゃな、もちろんじゃ。しかし最終決戦までの時間はそうないと思って欲しい。それと…ショーとユーキに、サイードから手紙を預かっておる。…後で読んでやってほしい。」

「…分かりました。」

「…ええ…。」

「…今日はこれで終いにして構わんかの。少々疲れてしまった…。」

「…。」

「…それとこれだけは言っておかねばならんじゃろう。勇者よ。」

「ん?なんです?」

「…我が父の名は、ハルイチ・ガナリ。チキューという星のニホンから来たと言っておった。ユーキの名は、ユーキ・ガナリと言ったかの?」

「!!…は…?!え…?は?…春一…?は、春兄…?」

「良かったらどの様な関係か教えてもらっても良いかの?」

「は、春は…、お、俺の…、双子の兄だ。」

御義母様が話したことが、真実かどうかは分からない。

ナガルス族が戦っている理由も、正しいことか、悪いことか分からない。

リヴェータ教の神様がいるかどうかも。

ただもし、運命の神様って奴が居るんだとしたら。

そいつはきっと佑樹を選んだんだ。
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ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
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2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
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俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

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