短編集

明人

文字の大きさ
上 下
3 / 9

酷い問い

しおりを挟む
「なぁ。僕は死んだ方がいいと思うか?」
絞り出すような僕の声に飄々とした目の前の男は笑った。
「君は随分と酷いことを訊くんだね」
「酷い?」
「だってそうじゃないか。君のその問いは選択肢が一つしかない。僕がYESと答えれば酷いやつだと非難される。脅迫に等しい問いかけだよ」
確かにそうだ。僕は心の何処かでNOと言って欲しかったのかも知れない。そしてそれをこの男に強要した。そんなつもりはなかったけれど、同義の問いをしてしまった。
「じゃあ質問を変える。俺は...生きたいと思ってもいいかな?」
男は先ほどと変わらぬ笑みを浮かべて答える。
「好きにすればいいさ。誰も君の気持ちに指図は出来ない。僕の気持ちを操作できないのと同じようにね」
全く興味がないようで、僕を否定しないこの男の存在がありがたい。
あぁそうだな。立ち止まることも後悔することも簡単だ。動ける限り進み続ける方がよっぽど有意義だろう。
「なぁ。お前が僕を殺したいと思った時は僕を殺してくれるか?」
「それは僕の意思だからね。そう思ったのなら勿論」
「なら安心だ」
「全く変なとこ人任せだな君は。死場所ぐらい自分で選びなよ」
「選んだよ。選んだ上でお前に殺されるのがいいんだ」
僕が笑えば奴は少し驚いたように目を丸くしたあと苦笑する。
「随分と熱烈な告白だな」
「あぁ。受け取ってくれよ」
「その気になったらね」
さぁ。前に進むだけだ。


end


なぁ僕は死んだ方がいいと思うか?から生まれた物語
しおりを挟む

処理中です...