短編集

明人

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綺麗なままで

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僕の手を汚すことで、僕が好きな者達が幸せで居られるならそれでいい。
僕が愛する君が、笑顔で居られるならそれでいい。
笑顔の君を眺めて居られるだけでそれでいい。
でも、欲が出た。
君と言葉を交わしたくなった。
君が、僕に笑いかけてくれるだけで舞い上がってしまうほど嬉しかった。
でも、君に僕が今までしてきたことを知られて嫌われることが怖かった。
一番恐ろしかったのは、君から向けられる好意の目だ。
少し熱の籠められた視線に僕はゾッとした。
綺麗な君が、僕みたいな汚い者を好きにならないでくれ。
気づいた日から彼女に近づくことをやめ、遠くから眺める日々に戻った。
戻ったはずなのに、どうして今彼女は僕の上に乗って胸ぐらを掴んでいるんだ?
「好きにならせといて逃げないでよ馬鹿!!!貴方が私のこと嫌いになったとしても、好きにならせてやる!!覚悟してなさい!!」
泣きながらの宣戦布告。
とんでもなく恐ろしいことのはずなのに、僕の胸は心地よく高鳴った。
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