怖くていい人

明人

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2個入りのアイス

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私には嫌いな先生がいる。
「ここ分かるかー?山中ぁ。お前じゃ分かんねぇよな。頭悪ぃから。そんじゃ神崎ー。お前今日もスカート短いなぁ見えそうじゃねぇか」
中年小太りでてっぺんはもう輝いている深田先生。男子には馬鹿にして攻撃し、女子にはセクハラ。授業も分かりづらくてすごく嫌いだ。
不意にボーッと座っている藍くんの方に目を向けたかと思えばニタァと笑った。
「ま、山中より頭スッカスカそうな奴もいるけどな。やる気ねぇならいなくていいのになぁ」
そう言われた直後、藍くんは勢いよく立ち上がり、教室から出ていった。
「全く静かに出れんのか」
文句を言いながら授業を続けていく。
他人を下に見て蔑んでいるような人間がどうして人に物を教える立場に立てるんだろうか。こんな人間から何を学べると言うのか。
不快感が包む中、外から異音が聞こえ何人かが、外に目を向ける。
深田先生も外に目を向け大きく目を見開いた。
「あいつ何して!!!」
丁度私達の教室からは教員用の駐車場が見えるのだが、そこで藍くんと思われる金髪の男子生徒が赤い車をひっくり返していた。
「俺の車ぁ!!!」
深田先生が悲鳴をあげて教室を飛び出していく。
学校中が騒然となり、私達のクラスは自習になった。藍くんは安定の呼び出しだ。
それを聞いて私は立ち上がる。
「未来ちゃん。私深田先生が言った酷いこともちゃんと伝えた上で藍くんが何であんなことしたか伝えたい」
「未明が荒ごとを起こしたいとは珍しい!ええよ!全然協力したる!多分生徒指導室やろうから行こか」
2人で席を立つとあの、と声を掛けられ振り返ると山中くんが立っていた。
「僕も...一緒にいいですか?僕も深田先生に弄られるの嫌だったので...」
「ええよー!一緒に行こか」
3人で生徒指導室に向かう中、山中君がぽつりぽつりと話してくれた。
「この前相田くん達に本取られたことあったじゃないですか?あの日の放課後藍くんに一緒に帰ろうって誘って貰って帰ったんですよ」
「え!?カツアゲされんかった!?」
「未来ちゃん失礼だよそれ」
山中くんは、ははっと小さく笑いながら首を振った。
「僕も最初は何されるんだろうって怖かったんですけど、コンビニ寄って逆にアイス奢って貰いました。2個入ってるやつで一個多いからやるって。それで僕のうちまで着いたら彼、来た道戻ってったんです」
「家まで送ってくれたってこと?」
「多分。何でかは分かんないんですけど。あれからは一緒に帰ってはないですし。でもたまに話しかけてくれて。最近どうだ?とかって。特に何もって言うとそうかで終わるんですけど多分心配してくれてて」
「何それ...あいつええ奴やん!」
「うん。藍くんはいい人なんだと思うよ」
私がそう言うと未来ちゃんは少し驚いた顔をしたあとニヤニヤと笑った。
「な、何?」
「別に~」
未来ちゃんのニヤニヤは止まらずそのまま生徒指導室の前に着いた。直後怒鳴り声が響く。
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