怖くていい人

明人

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退学の1発

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「待ってください!藍くんは今日登校して来てからずっと寝てました!相田くんの財布を盗む機会なんてありませんでした!」
私が立ち上がって主張すれば、深田先生は眉を寄せ顔を歪めた。
「なんだ。お前は四六時中ずっと藍を観察していたとでも言うのか?100%藍がやってないと断言出来るのか?」
「ずっとではないです。でも、藍くんはそんなことする人じゃありません」
これに関しては確信があった。藍くんのこと短い間だが見てきた。
彼は確かに不良の部類に入る人種だろう。それでも決して曲がったことはして来なかった。
相田くんの件だって山中くんを虐めていた。深田先生の件だって深田先生自身にも問題があった。
理由のないことを彼は絶対にしない。
深田先生は不快そうな表情からまたニタァと嫌悪感を覚える笑みに変わった。
「そうか田中。お前藍のことが好きなのか。だからこの間も今回も庇おうとしているんだな。お熱いことだなぁ。」
一瞬私の時が止まる。藍くんが好き?...そうかも知れない。中身がとても素敵な彼におこがましくも恋をしてしまったのかも知れない。
けど、今のこれとは関係ない。
「私の気持ちがあってもなくても、私の主張は変わりません。間違ってるから間違ってると声をあげるだけです。」
「なんだもう付き合ってるのか?」
「ちが「付き合ってねぇよ」
私が否定するより先に藍くんが答えた。
藍くんは席を立ち、深田先生と相田くんに歩み寄って行く。
「さっきからうだうだとうるせぇな」
藍くんは相田くんの財布を開き中身を全て床にぶちまける。
「こんな端金誰がいるかよ。欲しいやつが拾え」
藍くんは財布をゴミ箱に投げ入れる。
「てめぇ!何しやがる!!」
相田くんが慌ててゴミ箱の財布を拾い上げ、藍くんは平然と答えた。
「俺にとっちゃゴミだから捨てたまでだろうが」
藍くんは先生の胸ぐらを掴んで鋭く睨みつける。
「敵間違えてんじゃねぇぞ。俺が狙いなら俺だけ攻撃してろやこの豚が」
「教師に暴力を振るうのか?それでも構わんぞ1発で退学だろうがな。ブッサイクな彼女守るために必死だなぁ」
藍くんの雰囲気が一気に変わったのが分かった。拳を握って振り上げようとした藍くんに未来ちゃんが怒鳴った。
「阿呆!それやったらほんまに終わりやろうが!!未明の助け舟ぶっ潰そうとすんなや!!」
未来ちゃんの声で藍くんの拳が寸前で止まる。
未来ちゃんは深田先生と藍くんに歩み寄り、深田先生の胸ぐらを掴んでいる藍くんの腕を掴む。
「この現場見られただけでもお前の方に非があると思われるんやで。ちったー頭冷やしや」
愛くんは少しの空白の後、未来ちゃんの言葉通りそっと手を離した。
深田先生は軽く咳き込んだ後、藍くんを指さしながら口を開こうとした瞬間未来ちゃんの右ストレートがその口を開かせなかった。
深田先生はよろけて壁に背をぶつけ、鼻からは鼻血が出始めた。
「人のことあーだこーだ言う前に自分鏡で見てきたらどうや?失神すんで」
「未来ちゃん!?!?」
予想外の未来ちゃんの行動に悲鳴じみた声が出る。
「桜音貴様...っ!何をしてるのか分かってるのか!?」
「人様の腹満たすことも出来ん豚しつけとるだけやろ。ええ加減にせぇよ性根の腐った糞が」
「き、貴様も退学だ桜音!俺に逆らったこと後悔させてやる」
「ええよええよ。退学で。通信でも通うわ。そん代わり、てめぇの醜い面見れるようにしたってええよなぁ?」
今度は未来ちゃんが深田先生の胸ぐらを掴み、再び拳を握る。
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