怖くていい人

明人

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可愛い

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パフェを完食し、お会計をしようとレジに向かえば藍くんに腕を引かれた。
「会計は終わってる」
「え?」
「はい。いただいております」
レジのお姉さんがニコリと笑い、ありがとうございましたーと声をかけられとりあえず外に出る。
「半分出すよ。いくらした?」
「いらねぇよ」
「でも私パフェまで食べたし...」
「じゃあ、もう少し付き合え」
藍くんにそう言われ、連れて行かれたのはゲームセンターだった。
「ゲーセン来たことあるか?」
「何回かは...」
正直音がうるさいのが苦手でどちらかと言えば避けて通ってきたところである。
私は視線をさまよわせ、ふと1回100円のUFOキャッチャーのかわいい猫の人形が目に止まった。茶の縞模様の猫だ。
「藍くん!あの人形猫カフェのあの子に似てない!?」
人懐っこく入店早々にすり寄ってくれたあの子だ。
藍君はあぁ、確かに似てるなと同意してくれ、私はよし!とチャレンジする。
5回ほどやったが、結果は惨敗。
「動くには動くんだけどなぁ...」
「変わってみろ」
藍くんが私の代わりにチャレンジを始めた。ここはスマートに取れちゃったり...
はしなかった。
「もう一回」
再び100円を入れて再チャレンジ。だが、またしてもアームは人形を僅かに動かしただけだった。
「くそっ。もう一回」
3度目。悲しくもアームは人形を優しく撫でただけだ。
「くそっ!もう一回!」
悔しそうにしながらまた100円を入れようとする藍くんの姿を見て思わず笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
「いや、ごめん。馬鹿にしてる訳じゃなくて、可愛いなぁと思って」
「それ馬鹿にしてんだろ」
「してないよ」
寧ろ新たな一面を見れて好感度が更に上がった。
「じゃあ藍くん交互にやってどっちが先に取れるか勝負しよ!」
「望むところだ」
いつもクールそうに見えて少し子供っぽいところがある藍くん。今日は藍くんの素敵なところが沢山見れた。
何度目かのチャレンジで藍くんが見事人形を取った。
「どうだ!俺の勝ちだな」
自慢げに私に人形を突き出してくる様が可愛くて、また笑ってしまった。
「笑うんじゃねぇよ」
「いや、ごめん。可愛くて」
「男に可愛いとか使うんじゃねぇ」
ズイと藍くんが取った人形を私に押し付けて来たため、反射的に受け取る。
「可愛いもんは可愛い奴が持った方がいいだろ」
言われた言葉を反芻はんすうし、理解するのに少し時間がかかった。
可愛い!?!?
そして理解するのと同時にカッと顔に熱が集まったのが分かった。
「そういえばパンチングマシーンあったな。久しぶりにやりてぇ」
それと同時に藍くんがクリルと背を向けて歩き出してくれたおかげで、赤い顔を見られないで済んだ。と思う。
ただでさえ好きな人とデートをできているという夢のような時間なのに、これ以上夢のような嬉しい体験をさせてどうしようというのか。
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