怖くていい人

明人

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幸せ

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目を覚ますと真っ白な世界で、自分に逢ったことを思い出し天国だろうかなどと考える。
体は動くだろうかと手を動かそうとした時、左手が何かに握られている感覚があった。
左の方に視線を向けると私の手を握ったまま突っ伏して寝ている人物がいた。
「藍くん...?」
体を起こそうとすると腹部に走った痛みに悲鳴をあげる。
自分が刺されたことをすっかり忘れていた。一度気がつくとさっきまでは気にならなかったというのにズキズキと腹部が傷み始めた。
「田中...?.」
「藍くん!ごめんね起こしちゃ...」
言葉が遮られ、強く抱きしめられる。
「良かった...っ」
「あ、藍くん???」
嬉し恥ずかし状況が掴めずひたすらに困惑し、なにも出来ずにわたわたしていると藍くんがそっと離してくれた。
「お前ずっと寝てて...もう起きねぇんじゃねぇかって...」
「心配かけてごめんね...」
「謝るのは俺の方だ。俺のせいで本当に悪かった」
頭を下げる藍くんの頭を無理やり上げさせ、視線を合わせる。
「違うよ藍くん。これは私が売られた喧嘩を私が買ったの。だから藍くんのせいなんかじゃ全然ないよ」
そう言って笑えば藍くんは驚いた表情をした後、優しく眉を下げ私の手に自分の手を重ねた。
「親子揃って似たようなことを...」
「え!?」
藍くんの手が重なっていることにもドキドキしているが、藍くんがあまりにも真っ直ぐ見つめてくるものだから余計にドキドキする。
藍くんは真っ直ぐ私を見つめて口を開く。
「お前に伝えないといけないことがあるんだ」
「え?何?」
そういえば今回の件私が気絶した後結局どうなったのか分からない。その辺りだろうか。
と思いながら何か大切なことを忘れているようなとも思った。
「俺、お前のことが好きだ」
「...え...?」
「愛してる」
一瞬頭が真っ白になり、染み込むように理解出来たところでボッと顔が熱くなるのが分かった。なんて返せばいいかと言葉を探している間に藍くんが言葉を続ける。
「だが、俺と一緒にいると今回の件みたいに、お前が傷つくことがまたあるかも知れない。だからお前のためにも俺と一緒にいない方がいいのかもな」
少しだけ悲しそうな藍くんの表情を見て、私は笑ってみせる。
「大丈夫だよ。こういう危ない目に逢うより、藍くんに会えない方が私は嫌だよ。それに、今回の件で私色々できることも分かったし、次はなんならもっと上手く出来るかも知れない。藍くんが嫌じゃないなら一緒に居たいよ私は」
私の言葉を聞いて藍くんは再び私を抱き締めてくれる。
「すげぇ奴だよお前はほんとに...。嫌な訳ねぇだろ」
藍くんは改めて私に向き直りこう言ってくれた。
「お前のことが好きだ。もう二度とこんなことが起きないように守りたい。俺と付き合ってくれ」
「はい!!」
ずっと好きだった人が好きだと言ってくれた。そんな奇跡みたいなことが今目の前で起きてる。こんな幸せがあっていいのだろうか。夢ならば覚めないで欲しい。
私に沢山の幸せをくれた彼に私も幸せをあげたいから。
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