2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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話し合い

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リラはガルディア隊の訓練場に足を運ぶ。そこでは屈強な男達が一斉に腕立て伏せをしていた。
「まだ余裕そうだなぁ!!追加100!!」
「「はい!!」」
そう指示を出しているガルディアは片手で倒立し腕立てをしていた。苦悶の表情を浮かべている隊員達に対し、ガルディアは涼しい顔をしていた。
いつもリラと会うと壊れたように破顔していた兄の隊長らしい姿に感心してしまった。
そんなリラとガルディアの目が合った。その刹那、隊長の顔は崩れ、花が舞うように笑う。
「ニーナー!!」
凄まじい動きで急接近してきたガルディアにリラは少し身を引いた。
「こんな汗臭い所に来てどうしたんだ!?俺に会いに来てくれたのか!?」
「お兄ちゃんに用事が合って...」
「ニーナの願いならなんでも聞くぞ!!言ってごらん!」
ニコニコと表情を変えないガルディアにリラはバツが悪そうに視線を下げる。
そんなリラの反応を見てガルディアは振り返って隊員達に声をかける。
「腕立て終わったらスクワット500!サボってる奴居たら俺と個人模擬戦だ!!いいな!!」
「「はい!!」」
ガルディアはリラに向き直り、微笑む。
「こんなむさ苦しいとこで話もなんだ。俺の部屋で話そう」
「ありがとう...」
デリケートな話だ。魔族にも人間にもあまり聴かせていいものではないだろう。
ガルディアの気遣いに感謝し、あてがわれているガルディアの部屋でテーブルを挟んで座る。
「話っていうのは?」
「魔族の人達から聞いた話なんだけど...人間の魔族に対する軽蔑みたいなものが拭えていないように見えるって。避けられたりっていった行為に嫌な思いをしてる人がいるの」
「名前は分かるか?」
「トリス、ハイン、ポールって聞いた。他の人達もぎこちなさはあるものの、この3人はあからさまだったって」
名前を聞いたガルディアは考え込む。
「何か思い当たることがある?」
「...トリスとハインはまぁと思うんだが、ポールがそんなあからさまな嫌悪を示すとは思えないんだよなぁ...。まぁ、直接聞く方が早いか。リラも実際本人達から話を聞いておきたいだろう。呼んでくるから待っていてくれ」
ガルディアに言われた通り、部屋で待ちながら名前の出た3人がどんな人物かと考える。
身内が魔族に殺された。
そういう人が兵士になることは多い。その場合は魔族に対する憎しみのみで戦っている以上、仲良く手をとりあえと言われても簡単に出来ることではないことは想像がつく。
それならばお互いを傷つけないで済むよう距離をとるというのは間違った方法ではないだろう。
全員と心を通わせ、仲良くなることなど不可能だ。一人一人個性があり、相性もある。全員と仲良くしろといって成立しているのならばきっと、その中の誰かが心を殺している。
ドアのノックでハッと我にかえり、顔を上げる。
「連れてきた。入るぞ。ニーナ」
「う、うん」
ガルディアに連れられて来た3人。1人は屈まなければドアをくぐれないほど高い身長の藍色の髪の青年、2人目は燃える炎のような赤い髪を耳より下で一つに縛り、同じく赤い瞳も爛々と輝いていた。3人目は深い緑の髪に、瞳は鮮やかな緑で眼鏡をかけた青年だった。
「でかいのがトリス。赤いのがポール。眼鏡がハインだ」
3人はそれぞれリラに軽く挨拶し、リラも頭を下げた。
3人をソファに座らせ、ガルディアはリラの隣に座り3人に視線を向ける。
「お前らを呼んだのはお前達にとって魔族とはどういう存在かを聞きたかったからだ。どんな答えであっても俺は否定しないし、意志を強制することもないし、絶対にお前達を守る。正直な話が聞きたいんだ。ニーナは魔族と人間の橋渡しの役目を担っている。お前達の意思次第で今後魔族とお互いが最もいい関わり方を考える伝達の役目もあるため同席してもらった」
3人は少し驚いたように目を丸くしたかと思えば、ポールが身を乗り出した。
「俺なんかしてしもうたんすか!?」
「待て、その前にお前にとって魔族がどうか教えろ。それから先の話は後でする」
ポールは大人しく席に座り直し、少し言いづらそうに口籠もっていた。
「なんだ?いつもはっきり言うお前らしくないな」
「いや...その...まず!俺は魔族のこと嫌いやないです!それだけは知っててください!!」
必死な言葉にガルディアもリラも頷く。
「嫌いではないが、好きでもないという認識でいいか?」
ガルディアの言葉にポールはいやと言葉を濁す。あまりにもハッキリしない様子にガルディアが苛立っているとトリスが手を上げた。
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