2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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愛の重さ

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自室で眠っていたシルヴィアはドアがけたたましくノックをされ、苛立ちと共にドアを開ける。
「ちょっと非常識でしょ!「シリー!!」
真っ赤な顔で涙まで浮かべているリラを見て驚く。
「ど、どうしたの!?」
「私、私どうすれば!?」
「お、落ち着いて。何があったのか聞かせて」
シリーはひとまずリラを部屋に招き、自分のベットに座らせて話を聞く。
「さっきリオンさんに会って、い、異性の人の『愛らしい』ってどういう意味なのか聞いてたんだけど...」
ゼルそんなこと言ったのね。やるじゃない。
リラに見えないように小さくガッツポーズをするシリー。
「そしたらリオンさんにもおんなじ事言われて!冗談言わないでって言ったら本気だって!!私どうすれば!?」
パニックになってる可愛い妹分を前にシリーは片手で顔を覆って天を仰ぐ。
あの馬鹿...。話ややこしくしてんじゃないわよ!!!
シリーは深い息を吐いた後、リラを見つめる。
「リラはどちらの言葉も嫌だった?」
「嫌じゃ...ないんだけど、どうしたらいいか分からなくて...」
「じゃあ、聞いてリラ。私、貴女のこと愛してるわ」
「え、あ、ありがとう。私もシリーのこと好きだよ」
「そういうことよ」
「え...」
「嬉しいならありがとうって答えればいいのよ。それ以外はいらないわ。嫌ならやめてって言うところだけど。リラは嫌じゃないんでしょ?」
「そ、そうだけど。同性の愛してると異性のじゃ違うでしょ?」
「そうね。でもその好意が嬉しいか嬉しくないか答えるのは罪じゃないんじゃない?付き合うとか、結婚とかって話になってきたらちゃんと選択をしなきゃいけなくなるとは思うけど」
「嬉しい...とは思うんだけどちょっと怖いのもあって...」
表情に少し暗い影を落としながら、俯くリラにシリーは首を傾げる。
「怖い?」
「お兄ちゃんは昔からずっと変わらないの。愛してるって言ってくれる。いつもの言動からもそれが嘘じゃないってわかってるから安心してるし、私も大好き。でも...同じ言葉を言ってくれてた両親は私を捨てた。それは、あの言葉が嘘だったからなのかなって。嘘じゃなかったとしたら私はずっと...2人を苦しめてた。どっちだとしても辛いの...っ」
顔を覆って前屈みになって涙を堪えるリラをシリーはそっと抱きしめる。
リラから詳しく話を聞いたことはなかったが、シルヴィアが幼い頃森で罠にかかったところをリラに救われた。
夜中に、子供がたった1人で森に居た。あの時は逃げるのに必死でその意味を考えたこともなかったが、今その答えが分かった。彼女はシルヴィアを救ったあの日、親に捨てられていたのだ。
「私は愛されるような人間じゃないってずっと思ってた。おかしい、おぞましい、気持ち悪い。そんな言葉ばかりかけられて、それに慣れてた。兄の愛は兄妹だから安心した。孤児院に行って、院長からお兄ちゃん、お姉ちゃん達から、弟、妹達からも愛して貰った。私も同じように愛を返せた」
リラが真っ直ぐ生きてくれたのは沢山の愛を受け取れたからかと納得した。
あのまま、リラが孤独に1人命を落とすようなことがなくて本当に良かったとシルヴィアはリラを抱きしめる手を強めた。
「でも...家族の愛とは違うその愛の形が本気であればあるほど怖いの...。本気で愛してくれてるその人を私のせいで傷つけてしまわないだろうか。その言葉を信じて嘘だった時...っ。傷つく自分が怖いの...っ」
震えるリラの頭を優しく撫で、シリーは微笑む。
「大丈夫。私が補償するわ。リラを好きになって、愛しく思って、後悔することなんてない。私は貴女と出会えなかった人生を想像する方が怖いもの。相手の気持ちもそうよ。どこの誰か知らないけど、その言葉を滅多に口にしないような人なら沢山の覚悟と気持ちを込めて言ってくれてるんだと思うわ。それに、リラを泣かせるような真似したら私がとっちめてやるから大丈夫よ」
「...ありがとう。シリー。ちゃんと...伝えてみるね」
「うん」
愛される言葉の重みを彼女は知っている。その言葉によってもたらされる喜びも、苦痛も。
心の内を明かすことは怖いだろう。それでも、大丈夫だとシルヴィアは自信を持って断言できる。
だって、彼女を愛しているのは自分の自慢の弟なのだから。
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