2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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真実の友情と偽りの言葉

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魔族は徐々に荒地へと移動していく中、シリウスの先祖の友人であった蜥蜴人族の少年は中々移動しようとはしなかった。
「なぁ!リーザ。お前はどうしてここにとどまっているんだ!もう人間と魔族は関わり合いになってはならないと決まっただろう!」
友人は新緑の鱗にルビーのような瞳をしていた。心配をよそに、友人は瞳を細めて笑う。
「争いごとが起こらなければいいのだろう!私は絶対に人間とも魔族とも争わない。これなら君の友達としてここに居られる。私は君と離れるのが何より嫌なんだよ。ウノア」
そう言ってくれるのは嬉しかったが、争いは一時的に収まったとは言えまだ人間と魔族のわだかまりは消えていない。このままでいれるとは到底思えなかった。
その心配は最悪にも的中してしまった。
リーザの家へ様子を見に行くと、血塗れで床にうずくまっている彼を見つけた。
「リーザ!!!」
駆け寄って抱き起こせば、息はあった。
「すぐに止血をする!!」
持っていた包帯と塗り薬でリーザの治療をする。家の売り物だが構うものか。
「ウノア...?」
「そうだ!何があったんだ!」
リーザは宝石のような瞳を少しだけ動揺で揺らした後、それを掻き消すように笑った。
「ちょっとドジを踏んじまったんだよ。大丈夫だ」
「ちょっとの傷ではないだろう!」
「大丈夫だ。魔族は自己治癒能力が高い。こんな怪我すぐ治る」
大丈夫と繰り返すリーザにそれ以上追求出来なかった。だが、帰ってもリーザのことが頭から離れず、夜様子を見に行くことにした。
リーザの家は村から少し外れた場所にある。だから気づけなかったんだ。
リーザの家に近づくごとに聞こえてくる争っているような声に足を早めた。
「魔族はさっさと消えろ!!」
「お前らがいなくなれば全て解決すんだよ!!」
リーザの家に飛び込んでみた光景は、農具や棍棒で何度も殴られる体を丸めたリーザの姿だった。
「やめ...やめろよ!!!」
リーザを囲んでいた男達を掻き分け、リーザを背に庇う。
「もう争う必要はないはずだろう!!なんでこんなことを!!」
「魔族がいる限り争いは終わらねぇんだよ!!!」
魔族は人間より遥かに強い。強者に対する畏怖はやがて排除へと動くのか。
「大丈夫だ...。ウノア...」
血の伝う手が、肩を掴む。
「私は...絶対に人間に危害を加えない...。私は...君の友達でいたいから...」
震える声に涙が溢れそうになった。
「友達だと!?じゃあお前も魔族の仲間ってこったなぁ!!!」
棍棒を持った男の手が、俺に向かって振り上げられる。咄嗟に腕で頭を庇うが、衝撃はなかった。鈍い音はした。反射的に閉じた瞼を開けば、リーガの背中があった。両手を広げ、鱗に覆われたその頭で棍棒を止めていた。
「ウノアは私の友達だ...。傷つけないでくれ...っ」
「リーガ...」
「うるせぇ!!お前がいる限りそいつも化け物と一緒なんだよ!!」
再び振り上げられた棍棒を見て、リーガを押し倒すように庇った。そして馬乗りになってリーガの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「お前は魔族で俺は人間だ!!何もかも違う!!一生相容れないんだよ!お前が手を出さなくてもお前の存在に人間は恐怖する!!お前の存在で関わる俺のような人間もが攻撃の対象になる!!」
リーガはとても優しい。きっと、いくら傷つけられても決して抵抗せずその痛みを甘んじて受けるのだろう。魔族の寿命である魔力が尽きるまで。
見開かれた赤い瞳を見返しながら尚も叫ぶ。
「お前の存在自体が迷惑なんだよ!!!」
驚いていた瞳に悲しみが浮かんだ。溢れそうになる涙を無理矢理抑え込む。
「頼むから俺の前から消えてくれ」
リーガは暫し迷ったように瞳を彷徨わせた後、ゆっくりと立ち上がり、よろけながら家を出て行った。
「はっ!良いこと言うじゃねぇか!これでこの村も少しは平和に...」
男が言い終わる前に俺の拳が男の頬を打った。
「テメェ何しやがる!!」
殴り返され、痛みと衝撃に歯を食いしばって再び殴り返す。
男の仲間達も参戦してきたため、当然敵わず立ち上がれないほど痛めつけられたところで奴らは去って行った。
「痛ぇなぁ...」
リーガはこんな痛みの中反撃の一つもせず、ただ耐えていたのか。
「ごめんな...。お前のこと傷つけることでしか守れなくて...ごめん...っ」
涙が次々と溢れ床に落ちて行った。
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