2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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愛おしい

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カーリラの匂いを辿れば、カーリラの自室に辿り着いた。
部屋の前で立ち止まり、ノックをしようと手を握りしめる。
「暫く放っておいてください」
ノックする前にカーリラの冷えた声が届いた。
「カーリラ。すまなかった...」
「何に対する謝罪ですか?」
声音は静かだが怒りが滲んでいるのが分かる。
罪悪感が渦を巻き、胸元を搔きむしっているような不快感が増していく。
これほど感情をかき乱されたことなど、王座を争った時ですらなかった。
「黙っていたこと、騙していたこと、嘘をついていたこと全てに対しての謝罪だ。結果的にお前を傷付けることになったが、そんなつもりはなかったんだ」
言い訳になるが、全部伝えよう。
無言で耳を傾けてくれているであろうカーリラに語りかける。
「元々シルヴィアの恩人という点でしかお前を見ていなかった。しかし、日々を過ごすうちにカーリラを知りたいと、お前のために何か出来ないかとそう考えるようになった。そんな時、リオンの時はお前が臆さず話してくれることを思い出し、なにかある度リオンで話をした。だが、それでは俺自身を見てもらっていることにはならないと魔族としてお前に触れることに慣れてもらった」
最初は隣に座るだけでも身を固くさせ、緊張していた少女が身を任せてくれるようになった。親愛だとしても好意を伝えてくれるようになった。こんなに嬉しいことはないだろう。
「お前はまだ王の俺と話すのは気を遣うだろう。だから、自然なお前と話すにはリオンの姿だと都合が良かった。いずれは話さなければと思っていたが、遅くなって本当にすまなかった」
リラからの返答はなく、口も聞きたくないほど怒っているのかと肩を落とす。
すると、小さな声が聞こえてきた。
犬人族でなければ聞き取れないほど小さな声だ。
「嘘をついていたんだって怒ってる気持ちはあります。でもそれ以上に私...リオンさんに陛下の好きなところとか色々語ったり話したりしてたのが恥ずかしくてしょうがないんです...っ!!」
くぐもった声だ。膝でも抱えて叫んでいるのだろう。
怒っているところ大変申し訳ないが、先程の罪悪感や不快感が全て吹き飛ぶほど幸せな気持ちに包まれた。
「カーリラ。入っていいか」
「駄目です!!!」
「お前の顔が見たくてしょうがない」
「駄目です!!!!」
「後でいくらでも怒ってくれていいから」
ドアは鍵がかけられておらず、あっさりと開いた。
カーテンの閉められた薄暗い部屋。ベットの上で上掛けを被って丸まっているカーリラの姿が見えた。
夜目の効く王の目にはハッキリと熟れたりんごのような顔が分かった。
王と目が合うなり、貝のように丸くなるカーリラを上掛けの上から撫でる。
「本当にすまなかった」
「駄目って言いました!!後謝ってる声じゃありませんよそれ!!」
あまりに愛らしいその様に高揚した気持ちが声に出てしまっているようだ。
「後でいくらでも怒鳴ってくれて構わない。だが、俺はお前が愛おしくてたまらない。こんなに可愛い生き物を前に愛でずにはいられないだろう」
「今はほんとにやめてください!!!!」
泣きそうなその声すら可愛い。
今はいっぱいいっぱいなのだろう。
分かったと答え、落ち着くまで布越しにカーリラを撫で続けた。
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