2つの世界の架け橋 第2巻

明人

文字の大きさ
上 下
79 / 90

しおりを挟む
目の前に映る黄金のたてがみ。
「レオン!?」
「遅くなり申し訳ありません。陛下」
「何故貴様までここに!?団はどうした!?」
「今、戦線はガルディア隊が抑えています。ガルディア自身が前線を張らせてくれと。そして、見事に抑え込み私がここに来るまで魔族の死傷者は1人も出ておりません。そして、シルヴィア嬢からスウキが行方不明だと報告を受け馳せ参じた次第です。ここは引き受けます」
王は数秒の間の後、レオンの背に一言告げる。
「頼んだ」
王は即座に走り出し、レオンはスウキを見据える。
「スウキ、言い訳は聞かんぞ」
眉を吊り上げ、毛を逆立てるレオンにスウキは笑って答えた。
「言い訳なんてねぇよ。後悔もねぇ。ガルディア隊だけで人間軍を抑え込んでるなんざ予想外だったがな」
「人間を侮ったな。まぁ、ガルディア隊だけの力ではないがな」
「なんだと 」
「ハーミルだ」
人間嫌いである鳥人団団長の名前にスウキは目を見開く。
「人間軍の行動をハーミル達が逐一報告し、ガルディア隊が迎撃に当たっている。目覚ましい活躍だ。貴様がこんなところでくだらんことをしている間にな」
「ハーミル...。何であいつまで呪いにかかってんだよ...」
震えた手で顔を覆うスウキにレオンは眉を寄せる。
「呪いだと?」
「そうとしか思えねぇだろ!!何でお前らはそんな簡単に人間を受け入れられんだよ!!お前は人間の後見にすらなった!!忘れたのか!?俺等が人間に何されたか!!奴らを守るために団員達は殺された!!守るためにだぞ!?お前だってそうだろ!!何で...っ」
「そうだ。人間という存在の多くは嫌悪している。ガルディア隊の者もこちらに手出ししてくるようだったら容赦なく斬り捨てるつもりでもいた。だが、人間と魔族の仲をやはりあの娘が取り持つのだ。あの娘は違う。魔族のために涙を流し、魔族のために怒り、魔族のために血を流して尚進み続けた。我はあの娘だからこそ後見となったのだ。そしてそんな娘と我が王が共存時代を望み進んでいる。臣下である我々はその道に従うのみ」
「その先に本当に未来があるか!?殺戮王の時代だってダメだったから終わったんだろ!?ならそれを繰り返してどうするんだよ!!どうしたって俺達と人間は違う!!どうしたって格差は生まれそこから争いは生まれる!!悲しみしか生まれないんだよ!!」
「では、貴様はどのような未来を望むと言うのだ」
「人間のいない魔族だけの世界だ!!人間なんて者が居なければ俺たちは平和に生きれるんだ!なぁそうだろ!?」
懇願するようなスウキの言葉にレオンは眉間に皺を寄せた。
「それで、貴様の過去がなかったことにできると?」
スウキは目を見開き硬直する。
レオンは更に言葉を重ねた。
「貴様が望んでいるのは魔族の平和な未来などではない。人間を根絶やしにすることで過去の痛みを消し去ろうとしているだけだ。いくら人間を憎んでも、根絶やしにしても消えることなどないと言うのに」
「黙れぇえ!!!」
振り下ろされた剣を受け止め、レオンは尚続ける。
「他者のせいにすることでしか自身の痛みを受け止められなかった貴様の弱さだ」
「黙れって言ってんだよ!!!」
強い一撃にレオンは飛び退いて避ける。
スウキは荒い呼吸を繰り返し、強く剣を握り締める。
「お前に何が分かる...っ!純血の魔族で親も元団長!!叩き上げの俺とは違い、お前は引かれた線の上をただ歩いて今の地位にいる!!ずっとお前のことが憎くて嫌いで仕方なかった!!!恵まれた環境を当たり前のように享受してるお前がずっと!!!」
レオンは剣を構え直し、スウキの言葉に応えた。
「我は貴様が羨ましかった。万人に好かれ、己の実力で他者を黙らせていたお前が。誰もが畏怖し、近寄ろうともしなかった我にまともに話しかけて来たのは貴様ぐらいのものだった。一方的だが、我は貴様を友と思っている」
スウキはゆっくりと目を見開く。
だが、やがてハッと鼻で笑った。
「なんだよ。お前。案外寂しがり屋か?」
「戯言をほざいている間に叩き斬るぞ。貴様の過去がどうあれ、貴様は王に剣を向けた。許されることではない」
「許されようなんざ思ってねぇよ。なぁレオン。本気でやり合うのなんざ何年ぶりだろうな」
「12年ぶりだ」
スウキは心の中で笑った。
初めてやりあった時のことは覚えている。
まだお互い隊長クラスで、ちょっとした拍子に本気の喧嘩になった。
本気でやり合える相手自体多くなくて、段々と楽しくなって最後はボロボロになって二人地面に倒れて笑った。
そんなことがあったことは覚えていても、何年前かまで正確には覚えていなかったと言うのに、レオンは即答した。
「あん時は引き分けにしてやったが、今度は優しくしてやらねぇぜ」
「ほざけ」
お互いの剣が交わり、金属音が甲高く響き渡った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

無自覚な色気

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

リフレクト・リメンバー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

I love you

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

去っていく君へ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

どうして私を捨ててまであの女とシたいの?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

秘めた思いと繋がり

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:200

世界が滅ぶと言われた時代

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...