2つの世界の架け橋 第2巻

明人

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奥底にあるもの

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耳に届く爆音と、眼の前に映る黒い体毛。
触れている手が血で濡れていることに気付いた。
思わず叫びそうになる気持ちを抑え、状況を確認する。
自分が王の腕の中に居ることは分かった。
だが視界が低い。倒れている?
それに気付き、視線を上げた先には剣を振り上げたシャウデンの姿があった。
「いい様だなゼルギオン!!」
王は自分の身より何よりカーリラを守る動きをしていた。
それに気付き、カーリラは反射的に叫んだ。
「ホルン!!!」
カーリラの声でシャウデンを横から突き飛ばし、地面に押し倒す影があった。
姿を現したホルンは泣きながらシャウデンの顔を殴る。
「オイラにとってあんたはヒーローだったのに!!!こんな...っこんな...っ」
ホルンはシャウデンに殴り返され、地面に倒れた。
「いきなり出てきてなんなんだよお前は。第一僕が嫌いなのはお前らのそういうのだよ。僕は力があった。秀でていた。そんな僕をお前らは持ち上げ、崇め、英雄視すらしてた。だから僕もそれに応えようとしたんだ。禁忌とされる人間を喰ってでも魔王になってやろうとしたんだ!!お前らの期待に応えるために!!!だってのにお前らはどうした?負けた途端に全員が手のひらを返し僕を裏切り者扱いした!!!お前らのために禁忌まで犯した僕を!お前らは大罪人だと蔑んだ!!勝手に期待して裏切っといてまだ僕に理想を押し付けるのか!?」
今までは飄々とし、笑みばかりを浮かべていたシャウデンの鬼気迫る感情的な発言。
これが、シャウデンの行動の根源なのかもしれない。
裏切られたことに対する恨み、復讐。
同情する要素があったとしても、許すわけにはいかない。
リラはシャウデンがホルンに気を取られている間に王の治療を済ませる。
「すみません。守ってくださってありがとうございます」
「カーリラ。俺は、どんなことがあったとしてもお前に生きていて欲しい。お前が悲しみ、苦しむ以上にお前を愛し、幸せを与えたい。俺の未来には、お前が必要だ」
意識を失う寸前、思わず漏れた言葉を思い出す。
【陛下...私...私...死んでいれば...良かった...?】
虚ろな意識のまま放たれた問に真剣に考え、答えてくれた。
その愛しさにカーリラは微笑む。
「はい。私も貴方の隣を生きていたいです。そのためにも...」
カーリラはシャウデンに目を向けて叫ぶ。
「シャウデン!!貴方だけは許さない!」
シャウデンはカーリラに視線を投げ、不快そうに顔を歪めた。
「許さない?どうするっていうの?」
「貴方をぶん殴る!」
予想外だったのかシャウデンは目を丸くし、王は吹き出した。
「俺の婚約者殿はなんとも勇ましいものだな」
「全部私が悪いんだって卑屈になってました。でも、それは違った。私のせいにしてれば、他の誰かを責めなくて済む。怒りをぶつけなくて済む。そうすれば、私はいい子で居られるって思い込んでたんです。でも、私がいい子でいなくたって愛してくれる人は居る。それが分かるから、ちゃんと怒っていくことにしたんです」
「そうか」
王は満足気な笑みを浮かべた。1つ瞬きし、静かにシャウデンを見据えた。
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