君は花のよう

明人

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執念

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ルルーアが帰ったあとヤーハを執務室に呼びつける。
「御用はなんでございましょうか。ヴァールリック様」
「色々言いたいことはあるが、ひとまず明日彼女が喜びそうな洋菓子を揃えてくれ」
「かしこまりました。私の方からもご報告がございます」
「なんだ?」
「以前不採用としたメリッサ嬢から、お断りしても何度も再び採用してほしいとお手紙が届いています。いかがなさいますか?」
「メリッサ...」
その名は覚えている。気絶しなかった者の一人だ。
小さな資産家の娘で、派手な赤い髪と真っ赤な口紅で塗りたくられた赤い唇が印象的だった。一目見て嫌悪すべき大多数の一人だと察した。
「ずっと貴方に恋い焦がれておりました!貴方様のためならすべてを捧げる所存です!嗚呼っ。やはり素敵だわ」
リックに盲目的に惚れ込んでいる者だった。兄ならこの好意を上手く使いこなすのだろうが、生憎向けられる重く濃い愛情はリックにとって吐き気を誘う産物でしかなかった。
だがリックの顔を見て気絶しなかったという第一条件はクリアしているため、ルピィに会わせれば、ルピィは顔を歪めて口を開く。
「あんた、気持ち悪いわ。近づかないで」
「水精霊様!私はなんだって致しますわ!ヴァールリック様のためなら貴女のどんな願いだって叶えます」
そう言いながら歩み寄ったメリッサを水魔法が部屋の外まで吹き飛ばした。
「聞こえなかったようだから、私から離してあげたわ。気色悪いから近寄らないで」
「そんな!水精霊様!私は役に立ちますわ!だから!」
「これ以上私を不機嫌にさせたいなら好きにするといいわ。今でもただでさえイライラしてるところを付き合ってあげてるんだから。体中の水を噴き出して死にたいのならそう言って」
冷えた瞳で倒れたメリッサを見下ろすルピィ。
これだけ脅されても尚、喚くメリッサを執事見習い達が無理矢理引きずって行った。
何度ももう一度チャンスをと喚いていたが、ルピィが激しく拒絶していたため拒否した。
その翌日許可なく再び訪れ、執事見習い達に止めさせている間に兵に連行させ、家の方にも警告状を出す羽目になった。
これだから好意を寄せてくる女は面倒でならない。
これだけのことをして尚、まだ手紙を送ってこれるその神経の図太さだけは一級品だ。
「ルルーアが居れば大丈夫だ。もう採用は決まったと伝えれば送ってくることもなくなるだろう」
「承知しました」
そうは言ったが、まだルルーアがこの屋敷に長く居てくれることが決まった訳では無い。
それを達成するためにも、ルルーアにはこの屋敷で働くことは利益があると思って貰った方がいい。
何より、仲を深めればルピィと庭園だけが理由ではなく、自分のためにも屋敷に訪れてくれるようになるかも知れない。
リックは嫌われていないのラインからランクアップするために思考を巡らせていた。
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