君は花のよう

明人

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力技

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朝食前にルルーアとルピィに会った。
リックに気付くとルルーアはふわりと笑っう。
「おはようございます。ヴァールリック様」
「うぐ!!」
彼女が好きだと自覚した途端いつも以上に笑顔が輝いて見えた。
胸を抑えたために、ルルーアが心配そうに伺いを立ててくる。
「何でもない...。昨日はよく眠れたか?」
「はい。うちのベットより数倍フカフカで、とても寝心地のいいベットでした」
「君が望むならベットぐらいプレゼントするが?」
「いえ。うちの硬いベットも私にとっては大切なものですから」
両親を亡くしたルルーアにとって、あの家の全てが彼女と両親の思い出の品なのだろう。
そうなるとやはり、彼女に何かプレゼントをするというよりは屋敷で質のいい生活を送ってもらうという形の方が良さそうだ。
「ルルーア。何度も懲りず申し訳ないがやはり住み込みで働く気はないか?」
少しだけ見開かれた彼女の瞳が揺れたように見えた。
だが、すぐに眉を下げて笑う。
「申し訳ありません。私には帰る家がありますので」
彼女にとってあの家は執着に近いものを抱いていると、少しずつ察してきた。
なるべくなら離れたくないと、そう感じさせるものだ。
「そうか...。では、今回の礼に君に何か贈りたい。好きなもの等教えて貰っていいだろうか?」
「いえ!私の方こそ沢山おもてなししていただけて夢心地でした。お礼など貰えません」
ただルルーアの好きなものが知りたかっただけなのだが、善意でかわされるとそれ以上踏み込めない。
「では、僕が君に贈りたいから贈る物に関してはいいだろうか?」
「ほ、本当にそんな気を遣われないでください」
「僕が、君に喜んで欲しいだけなんだ。ダメ...だろうか?」
眉を下げ、懇願するようにルルーアを覗き込めば、ルルーアは胸を抑えて絞り出すような声で答えた。
「ダメとは...言えません...」
「ありがとう」
正直力技でいったが、ここまでやらなければルルーアは受け取ってすらくれない気がした。
愛しい相手にプレゼントを贈ることすら難しいとはと思いつつ、彼女らしいなと小さく笑った。
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