君は花のよう

明人

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特別

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戻って来たルルーアに3人共気付き、同時に視線が向けられる。
「あれ...何かありました?」
「ルルーア」
真剣なガイルドの目を受けながら、ルルーアは何でしょう?と伺う。
「俺は本気でお前を家に招いてもいいと思ってる。親父もそうだ。いつでも頼れとか言われたんじゃないか?」
「はい」
「ならお前は何も気負う必要なんてない。わざわざ領主の世話にならなくたって、俺の家で暮せばいい。家が無くて困ってるだけならうちに来い」
ルルーアは差し出された手を見つめ、少しだけ考える。
だが、すぐに顔を上げ笑って見せた。
「いえ。私が、ヴァールリック様の元で働きたいんです。可愛いルピィの成長を傍で見たいんです。仕方なくお世話になる訳じゃなく、私がお願いして置いてもらうんです。私は...ずっと、理由をつけて生きてきました。庭のお花達の世話をしなきゃいけない。家を守らなきゃいけない。薬草を納品しなきゃいけない。だから生きなきゃって。でも、今回は違うんです。いけないじゃなく、私がしたいから、生きるんです。そう考えた時心の霧が晴れるようでした。生きなきゃじゃない。生きたいって思えたって」
ガイルドはグッと唇を噛み、そっとルルーアを抱き締めた。
「そっか...。ルルーアが明るい未来に前進出来たのなら嬉しい。俺はずっと、お前のことを大事な妹だと思ってる。だからどうか、幸せに生きてくれ」
「うん。ありがとう。ガイルドお兄ちゃん」
ガイルドがルルーアを離すと、その間にリックが割って入った。
「話は済んだな」
「今回多少は空気が読めたいみたいだけど、まだまだ駄目だなぁ。コミュニケーションの本でも買ってみたらどうだ?」
相変わらず火花をちらして睨み合う二人を横目にルピィがルルーアの手を取り、走り出した。
「話は終わったんでしょ!行きましょルルーア!ほら!財布も!」
「ルピィちょっとまっ...。が、ガイルドさん!また!」
ルピィに手を引かれるままバタバタと出ていくルルーアを見送り、リックはガイルドを振り返る。
「彼女の幸せがどんなものか、正直まだ理解出来ていない。だから、幸せにするなどと断言は出来ないが、これだけは約束する。彼女の望む未来の最善を手助けすると」
「...その未来で君が隣にいないとしても?」
ガイルドの言葉にリックは一瞬言葉に詰まった。 
少し目を伏せた後、ガイルドを真っ直ぐ見つめる。
「あぁ。彼女が傷つかず、泣くことにならない未来であるなら、最善を尽くす」
ガイルドはその瞳を見つめ返し、ハァーと深いため息をついた。
「女嫌いのままで居てくれればよかったのになぁ。炎麗の魔法使い」
「今でも嫌いだよ。女という生き物だけではなく、人間の多くがな。その中でも彼女は特別なんだ」
リックは柔らかな笑みを残し、薬屋を後にした。
ガイルドは再びのため息と共にガシガシと頭を掻く。
「あんな美形じゃ勝ち目ないな。金も地位も力も持ってる。唯一の問題はルルーアが解決してしまって...。でも...良かったなぁ。ルルーア」
父親と母親を亡くしたルルーアと会ったとき、光を失った瞳に背筋が寒くなったのを覚えている。
辛うじて生きる気力はあるものの、燃え尽きる前の蝋燭のように不安定だった。
だから、ルルーアの生きる意味の1つとして薬草を納品することを頼んだ。
だが、それはあくまで繋ぎ止めているだけで吹き消せば簡単に消えるままだった。
それを、あの男が変えた。
そのまま燃え尽きるのではなく、新たな一歩を踏み出し自らの意志で燃えていくことを選ばせた。
それは兄として喜ばしいが、ルルーアにその選択をさせたのが自分でないことが少し悔しかった。
それでも、妹の輝かしい未来を祈って止まない。
「幸せになれよ。ルルーア」
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