美しさの中の願い

日明

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「だから私はここに来たの...。あの人が見たっていう天国みたいなこの景色を見たくて。私が想像してたよりずっと...綺麗だった...。だからここで...」
「...死のうと思った?」
俺の言葉にエリスは弾かれたように視線を寄越す。どうしてと言いたげなその目に俺は苦笑した。
「だってあんたはずっと死にたがってた」
アリに食われようとしてみたり、毒の実を食べたり、毒蛇を素手で捕まえてみたり。
全て1歩間違えれば死んでいたことを彼女は平然とやってのけていた。
「旦那さんが体験したことを自分も体験して、旦那さんのことを知って、傍に行きたかったんだろ」
「…そう。あの人が見たものを、体感したものを知って...綺麗な場所で死ねたら幸せだなって。だから...あの人が語ってくれたこの場所で...あの人を思いながら死にたかった...」
俺には妹の分まで生きなきゃいけない思いが、自分自身への害を承知で逃がしてくれたあの人の思いが俺を生かした。
でも、旦那さんを失った時点でエリスにとっての生きる希望はなくなったんだ。
そんな彼女に俺が何を言えるだろう。
不意にペランスが口を開いた。
「サビシイワ」
そうだ。前にも言っていた。寂しいと。
「あんた死んだ後ペランスのことどうするつもりだったんだ」
「ペランスは賢い。自然でも生きていける」
「無責任だろ!何より賢いことが分かってるなら!あんたが居なくなったことをペランスがどう思うか考えたことあるのか!?」
分かってる。ペランスのことを考えてやる余裕がないほど彼女が傷ついていること。
今俺がしていることも彼女を傷つけてるって分かってる。
それでも。
「旦那さんがあんたに語った絶景の場所なんてまだ山ほどあるだろ!たった一つたどり着いたぐらいで旦那さんのこと知った気になっていいのかよ!」
なんとか、彼女を繋ぎ止めたかった。
「ハンジェッド...。どうして...貴方が泣いてるの?」
感情が溢れて止まらない。
彼女の愛が。ペランスの愛が。旦那さんのエリスへの愛が、分かるから。
「あんたが旦那さんを愛してたことも、周りのことも考えられないくらい自暴自棄になってることも分かってる!それでも...それでも...っ。あんたを見送ることになる俺の気持ちとか考えたことあるかよ!ハーリィを失って俺は...っ今度はあんたのことも思いながら生きてかなきゃいけないのかよっ!!」
分かってる。八つ当たりだ。元々彼女の最期の冒険に俺が勝手についてきたんだ。俺に彼女を責める権利なんてない。
手の甲で涙を拭っていると覚えのある優しい手が頬に触れる。
「私自身...どうして君をこの冒険に付き合わせたのか分からなかった。でも...今やっと分かった。誰かに覚えてて欲しかったんだ。私のことを」
彼女の金色の瞳からもまた涙が零れた。
「最期だっていうのに君との冒険は楽しかった...っ。彼の記憶を辿って、現実に知れることが嬉しかった...っ」
「俺も...楽しかったよ。あんたのお陰で俺は前を向けたんだ。なぁ...エリス。俺と一緒に次の冒険に行こう。旦那さんが教えてくれた全部の絶景回ってさ、その中で1番綺麗だったとこで死ねばいいだろう?」
彼女は数度瞬いた後、ふわりと笑った。
「それもいいわね。死ぬのなんて、いつでも出来るわ」
その答えを聞いた瞬間ペランスがエリスに頬を寄せる。
「エリス。ダイスキ」
エリスは一瞬目を見開き、優しく笑う。
「私も大好きよ。ペランス。ずっと一緒に居てくれてありがとう」
ペランスはずっと、彼女の痛みに寄り添ってきた。だからこそ、彼女のために死を止めることはしなかった。なんて優しい子なんだろう。
「なぁ、次はどんなとこに行くんだ?」
「そうね...幻想郷と言われた場所にしましょうか。森の中にある美しい花々が咲き乱れる湖があるんだとか」
「いいな。...あんたがここだって決めたなら俺はちゃんと見送るよ。ペランスの事も俺が面倒見る。約束する」
「ありがとう。私が死ぬその時まで、君のことは私が守るよ」
こうして犯罪者の俺と未亡人の冒険者と賢いフクロウとの、死に場所を探す不思議な冒険が始まるのだった。

ーEND-
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