台本 短編集

日明

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君のために(※単独台本安堵する瞬間ネタバレ含む)

初めて私が殺したのは家出中の少女だった。
私は人より感覚が鋭いようで、大抵の物事は自分で少し調べれば先生と呼ばれる者達より詳しくなれた。
その上相手の心理状況も読めるようになり、どういう回答をすれば喜ぶのか怒るのかが分かるようになった。それが理解出来れば心理的に誘導するのは案外容易い。
全て自分の思う通りにことが運び、退屈すら覚えた頃私は1人の家出少女と出会った。
聞くところによると両親は少女に関心がなく、深夜だと言うのに連絡すらないのだとボヤいていた。学校にもまともに行っておらず、友達も少ないと。
確かに彼女を殺して死体を埋めたが世間は何も変わらず、いつも通りの日常を送るだけだった。
私より力の弱い女性。両親が関心がないなら、居なくなったとしても探そうとはしないだろう。友人関係が少ないのも同様の理由。学校に行っていないのなら居ないのが当たり前となっている。殺すにはあまりにも好条件の人物だった。
人殺しをした上でも私の日常に1ミリも影響はなく至極つまらなかった。
殺人を犯して捕まる要因は第一に死体が見つかること。死体が見つからなければ捜査が始まりようがない。だが、死体を完全に消滅させることはほぼ不可能だ。必ず証拠は残る。
それを前提とし次の案を考えた。
殺したいほど憎んでいる相手がいる同級生の少年が居た。相手は父親で酷い暴力を母子共に受け続けていると。
私はその少年の父親を殺した。
父親はよく賭け事をしては負けて飲んだくれていた。フラフラの状態の男を絞殺し、バレる場所に放置する。放置した上で証拠となる紐は少年のロッカーに入れた。
その結果動機、証拠が揃った少年を警察は逮捕する。少年自身は否定していたが、殺したかった心境はあったことを伝えれば自白と解釈され簡単に犯人はその少年となった。
私に一向に目が届くことはない。世間で言う優等生であり、良い人であることを徹底しているとそんな訳がないと勝手に可能性を消してくれる。
条件を変えて試しているうち世間では連続殺人鬼の噂が立ち上っていった。
それでも私に辿り着く者は誰1人居なかった。
ゲーム感覚で始めたが、勝利し続けることは退屈だった。私も学生生活が終わりを告げることとなり、同時にこのゲームも終わりにしようとそう思った。
私が学校を卒業した日、最後のターゲットに選んだのは近所の親子だった。
人当たりも良く、美男美女、最近子供も生まれたと。世間が注目を集める要素が過分にある人達だ。
近所なこともあり生活ルーティンは把握していた。隙を見て忍び込むことも簡単で、夜中寝静まった頃まず母親の喉を切って殺した。女性に叫ばれると近隣の人間に通報されかねないためだ。続いて目を覚まし呆然とする父親の首を刺して殺した。最後に産まれたばかりの子供だ。
ベビーベッドに歩み寄る。1番難関の父親もあっさりと殺せてしまった。なんとつまらないんだろうと。
そう思いつつ赤ん坊を見れば目を覚ましていて。泣くでもなく、怯えるでもなく私に笑いかけた。
本当にただの興味本意で。
人殺しというゲームに飽きたから、人間を育てるというゲームに私の人生は変更になった。
最初は慣れないこともあり苦戦もしたが、あっという間に成長し、もう育てる必要はなくなった。
このゲームももう終わりだ。
子供には私が持てる限りの知識を叩き込んだ。人はどうすれば死ぬかといった一般的には使わないものも。
私は小さな私を可能な限り作り上げた。その人間を殺せるかを試すのも悪くないだろう。


君は賢いからきっと、2つ目のこの手記も見つけるだろう。だが、決して心を病む必要はない。
1つ目の私の手記は最後以外全て事実だ。
私は殺されて然るべき殺人鬼。
そして、君の両親を殺した私を君は殺す権利がある。
君は殺人を犯したのでは無い。沢山の人間を殺した殺人鬼を討ち取った英雄なんだ。
だから、出来ればここから先は読まないで欲しい。けど...残させて欲しい。私のわがままだ。

君と初めて出会った時、君はただただ無邪気に私を見て笑った。気がついたら君を抱き抱えて連れ帰っていて、その事実に私自身が困惑した。
何故赤ん坊など連れて帰ったんだ?
学生生活が終わり新生活が始まるというのに赤ん坊などどう言い訳が出来る?拾ったなどと言えばすぐに殺された夫婦に繋がる。学生生活が終わったばかりの子供の私がこんな小さな赤ん坊と居るだけで世間では好奇の目にさらされるだろう。
やはり殺してしまうのが一番か。
子供なら死体の処理も大人ほど手間もかからないだろう。
そう思って君に近づけば指をしゃぶり眠っている。泣かれないのは好都合だと覆い被さるように片手を君の横についた時、君の手が私の親指を握った。こんなにも小さいのに、握る力は思ったより随分と強くて驚いた。
赤ん坊を何故連れて帰ってしまったのか、それを含め赤ん坊という生き物を理解することは私にとって退屈しのぎになりそうだと考えた。
連続殺人鬼で、ハンデとなる最後の殺人の赤ん坊を連れている。捜査が続く限り、ゲームも続く。
面倒になれば赤ん坊などいつでも殺せる。
ゲームに勝つことを考えれば赤ん坊が世間に見つかるのは得策ではない。数年身を隠す必要があるだろう。幸い食糧もサバイバルの知識もある。私なら上手く立ち回れるという確信があった。
君と2人山で暮らした。君にとっては朧気な記憶だろう。
君はミルクをあげてもオムツを変えても泣き止まない時があった。何度殺してしまおうかと考えたことか。でも、連れ帰った時より少し体重の重くなった君が。寝返りを打てるようになった君が。歩けるようになった君が。私の興味を引いて離さなかった。
君が歩けるようになった頃コミュニティを広げようと考え街に移り住むことにした。それが今の街だ。君と私はあまりにも似ていないから君のことは拾い子だと周りにも周知した。
周りは同情しそれ以上の詮索はして来なかった。
ある日君が風邪をひいた。酷い熱で医者に連れて行ったが様子を見る他ないと言われた。
私なら解熱作用のある薬を作れるのではないかと考え試した結果、君はすぐに良くなった。
その日から私は薬作りというものを仕事にし元々金にはあまり困っていなかったが、遊んで暮らせるほどの金は稼げるようになった。
君には私のことをお父さんではなく先生と呼ぶように教え、君はそれを守り私を先生と呼び慕ってくれた。
私が教えたことをすぐに吸収し成長していく君に感心もした。
君を育てればあの時何故私は君を連れ帰ったのかその理由が分かるかも知れないと、私の知識を経験を君に叩き込んだ。そうすれば、私と同じ考えをする者を作り出せ、あの日の答えにたどり着けると。
だが、成長した君は私の知識は持っていても私とは全く異なっていた。
私が興味無いものに興味を持ち、私と違ってよく笑い、よく怒る感情豊かな子に育った。
そんな君が両親の知り合いだという人間から両親の話を聞いたと聞かされた時、初めて全身の血が冷えるような感覚を味わった。
幸い殺人鬼と私は繋がってはいない様子だったが賢い君にバレるのは時間の問題だろうと思った。
君の両親の仇だと知った時君はどう思うだろうか。私を殺したいほど憎むだろうか。そうだとしたら、私は、君に殺されるべきだ。君に私はそれほどのことしたんだと理解している。
日々君との時間を重ねれば重ねるほど、私は君に殺されたくなっていった。
私はきっと他の誰かに君を殺されたら、その人間を考えつく限りの苦痛を与えて殺すだろう。
そして、それほどの想いを私は沢山の人間に抱かせたのだとようやく理解した。
私にとっての君を何人も何人も殺してきたのだ。
君に殺されなければならない。
だから、真実を告げようと何度も思った。
でも、勉強でいい成績をとったと報告してくれる君を。
美味しい料理が作れたと笑う君を。
私のことを思って叱ってくれる君を。
私のことを先生だと慕ってくれる君を。
失いたくないと思ってしまった。
だから、もう少しだけ。賢い君が私に辿り着くまでの僅かな時間だけ君の先生のままで居させて欲しい。

絶対に伝える気はなかった。だが、どうしても残したかった。

愛しているよアヴニール。君は私と違って沢山の人を幸せに出来る子だ。そして何より、君自身が沢山の幸せに恵まれますように。

「...っ。なんって小っ恥ずかしいもんを...」
掃除中部屋の壁に違和感を感じ調べた場所から出てきた1冊の本。
その内容は殺人鬼であるソンジュの過去を示すものだった。
だが、壁には更に複雑な仕掛けがありそれを解くと自分への愛が綴られた1冊が出てきてアヴニールは片手で顔を覆う。
「アヴニール?何を読ん...で...」
コーヒーを片手に通りかかったソンジュがアヴニールの手にある本を見て硬直する。
そして、あまりにも自然な動作でアヴニールの手から手記を奪い無言で暖炉に放り込み火をくべた。
「残念。全部記憶済だ」
アヴニールがトントンとこめかみを指で叩けばソンジュは苦笑して答える。
「君のために描いたものだ。君だけが知っているならいいよ。だが、残してはおきたくない」
思ったより動揺がなく、少しつまらなく感じながらアヴニールはイスに腰掛けテーブルに頬杖をついた。
「俺があんたを殺したあとのアフターケアまで考えやがって...。ほんと腹立つ」
「君のことが大事だからね」
あまりにもハッキリと言われ思わず面食らってしまった。
ソンジュから優秀だと褒められる事はあっても、アヴニール自身に対しての愛情を口にされたことはなかったからだ。
そんなアヴニールの意図を察してソンジュが答える。
「私に...君を愛する資格は無いし、君が私に情を抱けば殺しづらくなると思っていた。でももう、私の何もかもを理解されているんだから隠す必要もないだろう?」
吹っ切れたように笑うソンジュにアヴニールは呆れつつ笑って口を開く。
「あんたはこれからも人を救い続けなきゃダメだ。そして、あんたは俺を見る度に俺の両親のことを思い出す」
「うん...。これは私が負うべき痛みだ。君が死という安息に逃がさなかった故の。でも私は一番大切な君という存在を失わなかった。それだけで十分だ」
「でもあんたにだけ背負わせないよ。俺はあんたが作った2人目のあんただ。だから、俺も償っていく」
「必要ない。これは私の罪だ」
「うるせぇ!俺を作り上げたのは先生だろ!俺の人生は俺が決めるんだってこともよく分かってんだろ」
お互い1歩も引かぬ様相で見つめあっていたが、ソンジュの方が先に折れてため息をついた。
「そうだね。君は私と違って酷く頑固だ。1度決めたら絶対に譲らない」
「そーだよ。だから観念しろ。二人で生きていくんだ」
「うん...。これからもよろしくねアヴニール」

ーendー

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