音楽魔法具店の歌姫

ほか

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第1幕 歌うバロタン・ボックス

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「ある休みの日にさ、今日は音楽なんかぜんぜんやらないんだって決めて、ごろごろしてたんだ」

 懐かしむように青空の向こうを見やるダークブラウンの目の奥にはぬくもりというには言い足りない熱が秘められている気がした。

「気づいたら、その日の夕方、好きなミュージカル俳優のソワレの立見席チケット、買いに走ってた」

 片足をベンチの椅子に上げ、のせた顔の、その目はなにかに狙いを定めるように光っている。

「厳しさとか狭き門の残酷さはあるけど、音楽やるやつって、楽器鳴り出したら身体がのっちゃうみたく、純粋に楽しむ感覚をどっかで忘れないもんなんだなって、なんかおかしくってさ」

「……うん」

 そう言われて、チュチュが思い返すのは我が事だった。




 はじめての観劇は、姉の舞台。

『オペラ座の怪人』のヒロインを演じたティナの、美しくも力強い歌声――。

 舞台を観ているチュチュはその人が実の姉であることなど忘れていた。

 その胸に怒涛のように流れ込んでくるのは、姉が演じるヒロインの恋人への恋慕。

 音楽の世界に完全に没入していたのだ。




「さいしょにこの道目指そうって思ったときの、舞台に魅せられたライトが、腹の底に響く楽器の音が、毒みたいに身体にしみ込んでんだよ」




 そう。

 それが毒であっても、一生をかけ、むさぼりつくしたいと思う。

 あんなふうに軽やかに歌い、舞いたいと思った。

「だからお姉さんも、喜んでくれるんじゃないかって思う」

 知らず、チュチュは固く歯をかみしめる。

 ずっしり中身のつまった激励を、消化するように。

「ありがとう、レイン」

 いっぱいになった気がするお腹の前で、ぐっとこぶしを握ったのだった。
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