96 / 141
第3幕 虹の音色ブローチ
21
しおりを挟む
一同に絶句した空気が流れる。
「おそらく高額で売り主からクラレンスが買い取り、ダーエ嬢の元に送っていた」
「わたしの才能を失くすために……?」
力なく問うキャスに、ヒューは首肯する。
「残念ながらそうだろうね。彼はきみと結婚することで巷の話題を呼び、ヴァイオリン奏者として海外デビューを果たしさらに飛躍しようとした」
菫色の瞳に、労わるような影が帯びる。
「携帯していた眠り薬が危ないと踏んではいたんだが。まさかリスクを冒してまで、こんな大舞台を選ぼうとは予測できなかった。すまない」
一息吐き、その後、乾いた笑いが病室に響く。
手に顔を埋め、キャスは笑っていた。
「完璧に利用されたってことなのね……」
「だが解せんな」
口を開いたのは、それまでむっつりと黙っていたジャスパーだった。
「今日の件でクラレンスがとんでもない人でなし野郎だってことはわかった。だが、ブローチを送りつけたのがあいつだとする証拠は?」
ヒューはゆっくりと、視線を再びキャスへと転じる。
「ダーエ嬢。彼は、名前入りのブレスレットやネックレスを記念に必ず送ってくるといっていたね」
ベッドのとなりのテーブルに置かれた六つのブローチをヒューはそっと手にとる。
「ブローチの音を、もう一度響かせてみよう」
ド ソ♯ レ ラ ラ ミ
印象は、最初に耳にしたときと同じだ。
なんの規則性も、まして芸術性などない、ただの音の羅列。
「これがなんの証拠だってんだ」
「ジャスパー。この音を違う言語で並べてみたらどうかな」
ヒューはやんわりと返答する。
「我々音楽家のあいだでは、一般的なドレミといったイタリア音名より、ドイツ音名で音を読むことが多い。この音をドイツ音名で読むと、どうなるだろう」
代表するように、ティナがドイツ音名で音を読み上げていく。
「C・ Gis ・D・ A・ A・E――意味をなさないわ」
「おそらく高額で売り主からクラレンスが買い取り、ダーエ嬢の元に送っていた」
「わたしの才能を失くすために……?」
力なく問うキャスに、ヒューは首肯する。
「残念ながらそうだろうね。彼はきみと結婚することで巷の話題を呼び、ヴァイオリン奏者として海外デビューを果たしさらに飛躍しようとした」
菫色の瞳に、労わるような影が帯びる。
「携帯していた眠り薬が危ないと踏んではいたんだが。まさかリスクを冒してまで、こんな大舞台を選ぼうとは予測できなかった。すまない」
一息吐き、その後、乾いた笑いが病室に響く。
手に顔を埋め、キャスは笑っていた。
「完璧に利用されたってことなのね……」
「だが解せんな」
口を開いたのは、それまでむっつりと黙っていたジャスパーだった。
「今日の件でクラレンスがとんでもない人でなし野郎だってことはわかった。だが、ブローチを送りつけたのがあいつだとする証拠は?」
ヒューはゆっくりと、視線を再びキャスへと転じる。
「ダーエ嬢。彼は、名前入りのブレスレットやネックレスを記念に必ず送ってくるといっていたね」
ベッドのとなりのテーブルに置かれた六つのブローチをヒューはそっと手にとる。
「ブローチの音を、もう一度響かせてみよう」
ド ソ♯ レ ラ ラ ミ
印象は、最初に耳にしたときと同じだ。
なんの規則性も、まして芸術性などない、ただの音の羅列。
「これがなんの証拠だってんだ」
「ジャスパー。この音を違う言語で並べてみたらどうかな」
ヒューはやんわりと返答する。
「我々音楽家のあいだでは、一般的なドレミといったイタリア音名より、ドイツ音名で音を読むことが多い。この音をドイツ音名で読むと、どうなるだろう」
代表するように、ティナがドイツ音名で音を読み上げていく。
「C・ Gis ・D・ A・ A・E――意味をなさないわ」
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
幽縁ノ季楼守
儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」
幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。
迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。
ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。
これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。
しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。
奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。
現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。
異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー
様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。
その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。
幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。
それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる