ラブ・クラッシャーの仮面を剥いで

ほか

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Secret6.最悪女と不可解な男

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 楽屋の長~い鏡に映った自分の顔を見て、あたしはあわてて頬をもみほぐした。

 いかんいかん。

 ぶすっとしたむくれ顔、ドラマの悪役以外では御法度。

 とは言ったものの。

 ついいらいらとロンドン発祥ブランドの腕時計に目をやってしまう。

 バラエティー番組『しゃべらナイト』の収録日のサニーサイドスタジオ。

 本番17分前。

 キャスト、オーディエンス席、スタッフもみんなすでにスタンバイOKの状態。

 たった一人を除いては。



 いつまで経ってもレギュラーの一人である伊吹が来ないのだ。

『玲愛、さん。すみません。大変申しわけないのですがその……愚蒙の到着はまだ当分見込めず。その、よろしければこちらでお待ちください』

 数分前、伊吹の女性マネージャーさんに非常に恐縮されつつ声をかけられ今、あたしはゲスト用の控室にいる。

 収録に遅刻など言語道断とばっさり切るあたしに、細身で色あせたシャツに黒いズボンをまとった二菜ふたさいさんという彼女はちらと振り返って、丸い眼鏡ごしに気弱そうに微笑んだ。あの、玲愛さん、と。

『愚蒙はその、色々と誤解されやすいところがあるのですが、根はしっかりしているのでその。――このさきもどうぞ、よろしくお願いします』

 深々と頭を下げられては、なおさら怒りがわいてくる。

 あいつ、迷惑かけた上マネージャーさんに頭を下げさせるなんて。

 許せぬ。

 そうこうしているうちにもカチカチとときを刻む針は過ぎていく。

 本番9分前。

 ばたんと勢いよく控室のドアが開いた。

「遅れましたっ! さーせん、こんな格好で」

 吐息をつきつつ見れば、ようやく姿を現した伊吹が血相変えて入ってくる。

 ん?

 待って。

 ここあたしの控室だし、しかもさんざん乱れた髪に、すりきれたシャツから肌がのぞいてて、ついでに傷口ものぞいてるってどういう――。

 彼が目の前を通ったときにかすかに鼻についたのは、酒の匂い。

 それも『雪峰』という名を冠するなかなかいい日本酒。シブイ。パパの愛好物だ。

「最低ね」

 容赦なく、あたしは吐き出す。

「芸能人以前に社会人としていかがなものかしら?」

 伊吹が、立ち止まる。

 振り返り、あー……とうめいた後、彼は言った。

「すいませんが玲愛さん、マッハでシャワーお借りするっす」

 は⁉

 なにまったく堪えてないその返答と表情。
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