ラヴェンナ・ヴァラディ ~語れる司書の物語~

ほか

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第3話 宅配司書と女学生

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 大学のオリエンテーションの後、スウィーティが向かったのはシェアハウスの女子寮である。



 シンプルなモスグレーの石が連なる建物。防犯を考慮して三階。家賃を考慮して、ネットでルームメイトを探した。











「はぁぁ、よかったぁ」



 ロビーで自分より早く来て待っていた待ち合わせの女学生を見たスウィーティは思わず心の声を口に出して肩を上下させる。



 セピアの髪を品よく編み込みのハーフアップにしてローアンバーのリボンで束ねている。



 服装もカーキ色のワンピースと、上品だ。







「ルームメイトがしっかりしてそうな女の子で。しかもかわいいっ。派手派手でイケイケな怖いお姉さんじゃないし、賢そうだし、きれいだし、わたし好みっ」



 しかも夜間の自分とは違って名門大学を飛び級で合格してしまったというし、安心の一手だと、一気にまくし立てるスウィーティに、儚げなそのルームメイトは硬直している。



 長いまつ毛に縁どられたウィスタリアの目を見開いて。



 ラピスラズリをシャンパンで薄めていったら、こんな色かなと思う。







「どしたのー? かたまっちゃって」



 初対面でいきなり喋り過ぎたかと反省し、その美しい瞳の前で手を振ってみると、



「『好み』、と直接言われたのは、初めてです」



 戸惑ったようにそんなふうに言うから、その手を握り、ぶんぶんと振ってみる。



「そーなのっ? じゃきっと周りの人が極度の照れ屋さんか、趣味悪い人しかいなかったんだねー」



「相手が好みだということを直に伝える人が希少だという解釈にはならないのでしょうか」







 相手の顔からはまだ戸惑いは消えないが、持ち前の勘の鋭さを発揮し、そこにマイナスの感情はないと見てとったスウィーティは、



「ならないならないっ」



 あっけらかんと笑って手を振る。



「だって好きなものは好きって何回だって言った方がいいでしょ?」



 出会いは明るく、印象よく。



 胸元のタイリボンをぴんと引っ張ると、スウィーティはおどけた仕草で跪き、騎士のように恭しく、これからのルームメイトの手を取った。







「かわいい人。お名前を教えてくれたまえ」



 二度ほどウィスタリアの瞳を瞬き、桃色の唇が開く。



「ラヴェンナ・ヴァラディと申します」



「名前もきれいー。女優さんみたいー」



 留まらないテンションのままに立ち上がり、自身の顎を指さし名乗る。



「わたしはスウィーティ・ハニービーンズ」



 おいしそうな名前でしょー? あははとまたおどけてスウィーティが手を振ると、ルームメイト、ラヴェンナはぺこりと頭を下げた。







「よろしくお願いいたします。ハニービーンズ様」



「何それおもしろい。わたしはあなたのお客様かい!」



 一人でけたけたと笑った後、スウィーティはラヴェンナに告げた。



「わたしのことはスウィーティでいいからね」



「ではスウィーティ。よろしく」



「ねぇラヴェンナちゃん。わたしたち、いいお友達になれそうだねっ」



「出会って数分での判断はかなり難易度が高いと思います、が……」



 苦笑気味にそう言うと、すっと陶器のような顔が真面目に戻る。







「スウィーティ。その手の甲の傷は――どうされたのですか」







 騎士の真似をして差し出したその手をスウィーティはあわてて後ろにかばう。



「料理してる時、うっかりして。わたしってほんとぽんこつなんだ。ははは」



 かくして二人はともに、学生生活を送る同士となった。
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