42 / 94
第3話 宅配司書と女学生
2
しおりを挟む
大学のオリエンテーションの後、スウィーティが向かったのはシェアハウスの女子寮である。
シンプルなモスグレーの石が連なる建物。防犯を考慮して三階。家賃を考慮して、ネットでルームメイトを探した。
「はぁぁ、よかったぁ」
ロビーで自分より早く来て待っていた待ち合わせの女学生を見たスウィーティは思わず心の声を口に出して肩を上下させる。
セピアの髪を品よく編み込みのハーフアップにしてローアンバーのリボンで束ねている。
服装もカーキ色のワンピースと、上品だ。
「ルームメイトがしっかりしてそうな女の子で。しかもかわいいっ。派手派手でイケイケな怖いお姉さんじゃないし、賢そうだし、きれいだし、わたし好みっ」
しかも夜間の自分とは違って名門大学を飛び級で合格してしまったというし、安心の一手だと、一気にまくし立てるスウィーティに、儚げなそのルームメイトは硬直している。
長いまつ毛に縁どられたウィスタリアの目を見開いて。
ラピスラズリをシャンパンで薄めていったら、こんな色かなと思う。
「どしたのー? かたまっちゃって」
初対面でいきなり喋り過ぎたかと反省し、その美しい瞳の前で手を振ってみると、
「『好み』、と直接言われたのは、初めてです」
戸惑ったようにそんなふうに言うから、その手を握り、ぶんぶんと振ってみる。
「そーなのっ? じゃきっと周りの人が極度の照れ屋さんか、趣味悪い人しかいなかったんだねー」
「相手が好みだということを直に伝える人が希少だという解釈にはならないのでしょうか」
相手の顔からはまだ戸惑いは消えないが、持ち前の勘の鋭さを発揮し、そこにマイナスの感情はないと見てとったスウィーティは、
「ならないならないっ」
あっけらかんと笑って手を振る。
「だって好きなものは好きって何回だって言った方がいいでしょ?」
出会いは明るく、印象よく。
胸元のタイリボンをぴんと引っ張ると、スウィーティはおどけた仕草で跪き、騎士のように恭しく、これからのルームメイトの手を取った。
「かわいい人。お名前を教えてくれたまえ」
二度ほどウィスタリアの瞳を瞬き、桃色の唇が開く。
「ラヴェンナ・ヴァラディと申します」
「名前もきれいー。女優さんみたいー」
留まらないテンションのままに立ち上がり、自身の顎を指さし名乗る。
「わたしはスウィーティ・ハニービーンズ」
おいしそうな名前でしょー? あははとまたおどけてスウィーティが手を振ると、ルームメイト、ラヴェンナはぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いいたします。ハニービーンズ様」
「何それおもしろい。わたしはあなたのお客様かい!」
一人でけたけたと笑った後、スウィーティはラヴェンナに告げた。
「わたしのことはスウィーティでいいからね」
「ではスウィーティ。よろしく」
「ねぇラヴェンナちゃん。わたしたち、いいお友達になれそうだねっ」
「出会って数分での判断はかなり難易度が高いと思います、が……」
苦笑気味にそう言うと、すっと陶器のような顔が真面目に戻る。
「スウィーティ。その手の甲の傷は――どうされたのですか」
騎士の真似をして差し出したその手をスウィーティはあわてて後ろにかばう。
「料理してる時、うっかりして。わたしってほんとぽんこつなんだ。ははは」
かくして二人はともに、学生生活を送る同士となった。
シンプルなモスグレーの石が連なる建物。防犯を考慮して三階。家賃を考慮して、ネットでルームメイトを探した。
「はぁぁ、よかったぁ」
ロビーで自分より早く来て待っていた待ち合わせの女学生を見たスウィーティは思わず心の声を口に出して肩を上下させる。
セピアの髪を品よく編み込みのハーフアップにしてローアンバーのリボンで束ねている。
服装もカーキ色のワンピースと、上品だ。
「ルームメイトがしっかりしてそうな女の子で。しかもかわいいっ。派手派手でイケイケな怖いお姉さんじゃないし、賢そうだし、きれいだし、わたし好みっ」
しかも夜間の自分とは違って名門大学を飛び級で合格してしまったというし、安心の一手だと、一気にまくし立てるスウィーティに、儚げなそのルームメイトは硬直している。
長いまつ毛に縁どられたウィスタリアの目を見開いて。
ラピスラズリをシャンパンで薄めていったら、こんな色かなと思う。
「どしたのー? かたまっちゃって」
初対面でいきなり喋り過ぎたかと反省し、その美しい瞳の前で手を振ってみると、
「『好み』、と直接言われたのは、初めてです」
戸惑ったようにそんなふうに言うから、その手を握り、ぶんぶんと振ってみる。
「そーなのっ? じゃきっと周りの人が極度の照れ屋さんか、趣味悪い人しかいなかったんだねー」
「相手が好みだということを直に伝える人が希少だという解釈にはならないのでしょうか」
相手の顔からはまだ戸惑いは消えないが、持ち前の勘の鋭さを発揮し、そこにマイナスの感情はないと見てとったスウィーティは、
「ならないならないっ」
あっけらかんと笑って手を振る。
「だって好きなものは好きって何回だって言った方がいいでしょ?」
出会いは明るく、印象よく。
胸元のタイリボンをぴんと引っ張ると、スウィーティはおどけた仕草で跪き、騎士のように恭しく、これからのルームメイトの手を取った。
「かわいい人。お名前を教えてくれたまえ」
二度ほどウィスタリアの瞳を瞬き、桃色の唇が開く。
「ラヴェンナ・ヴァラディと申します」
「名前もきれいー。女優さんみたいー」
留まらないテンションのままに立ち上がり、自身の顎を指さし名乗る。
「わたしはスウィーティ・ハニービーンズ」
おいしそうな名前でしょー? あははとまたおどけてスウィーティが手を振ると、ルームメイト、ラヴェンナはぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いいたします。ハニービーンズ様」
「何それおもしろい。わたしはあなたのお客様かい!」
一人でけたけたと笑った後、スウィーティはラヴェンナに告げた。
「わたしのことはスウィーティでいいからね」
「ではスウィーティ。よろしく」
「ねぇラヴェンナちゃん。わたしたち、いいお友達になれそうだねっ」
「出会って数分での判断はかなり難易度が高いと思います、が……」
苦笑気味にそう言うと、すっと陶器のような顔が真面目に戻る。
「スウィーティ。その手の甲の傷は――どうされたのですか」
騎士の真似をして差し出したその手をスウィーティはあわてて後ろにかばう。
「料理してる時、うっかりして。わたしってほんとぽんこつなんだ。ははは」
かくして二人はともに、学生生活を送る同士となった。
0
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~
秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。
五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。
都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。
見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――!
久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――?
謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。
※カクヨムにも先行で投稿しています
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる