流星の徒花

柴野日向

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2章 青南高校

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 雨宮翔太が高校見学に行くことを、担任の男性教師は喜んだ。「おまえなら行ける」と笑いながら言うのに無責任だと思ったが、なんだか嬉しかった。
 電車で四十分の道のりだ。駅で停車するたびに、同じように見学に向かう中学生たちが数人ずつ乗り込んでくる。誰もが期待を込めた顔つきをしている。
 青南高校の最寄りの駅では一斉に中学生たちが降車した。翔太と凛も、学校指定の補助鞄を肩に改札を抜ける。
 高校の教師たちが通学路に立ち、見学生たちを誘導する。それに従ううちに、創立百年を超える高校の校舎にたどり着いた。パンフレットの通り、三棟の校舎と体育館、グラウンド、部室棟、テニスコートやプールといった施設が備わっている。
「体育で、海に泳ぎに行ったりするんだって」そう言って凛は笑った。「楽しそう」
 彼女は駅で会った時から、ずっと楽しげだ。もともと明るくよく笑う彼女だが、今日はいっそう浮足立っているように翔太には見えた。
 体育館での説明会に、中学校ごとに並んで参加する。二人の通う若葉中学校からは、十人程度しか参加者はいない。長い説明時間、翔太は欠伸を堪えるのに必死だったが、隣の女子の列に並ぶ凛は至って真剣な眼差しをしていた。
 見学生たちの本命は、むしろ説明会の後にある自由行動。特に部活見学にあった。今日は、普段夏休みは活動していない部活の生徒たちもわざわざ登校して見学をさせてくれるらしい。
 街中から離れた青南高校の敷地は広く、大きな食堂や演劇部専門の舞台も備わっていた。校舎同士を繋ぐ銀杏並木は、青々と茂り夏の日差しを遮ってくれる。
 凛に言われなければ高校見学に行く発想さえなかった翔太は、その広さに驚いた。随分大人に見える高校生たちが、グラウンドでボールを蹴り、テニスコートでラケットを振っている。すれ違う文化部の彼らも、自分とほんの数歳しか年が離れていないとは思えないほど大人びて見えた。ほんの数か月後に、自分も彼らと同年代になるのだとは疑わしい。
「翔太くんは、部活入るの?」
 だが隣を歩く凛は、その想像がきちんとできているようだった。
「まだ進学するかさえ決めてないのに、そんなのわかんないよ」
「興味があるところもないの」
「うーん」腕を組んで唸る。「運動部以外」
「そんなの、範囲広すぎるよ」愉快そうに凛は笑った。
 校舎見学もかねて二人は部活を行う教室を外から眺めることにした。校内には様々な中学校の制服が入り乱れ、興味津々の顔をして歩き回っている。
 料理部や軽音楽部、吹奏楽部に美術部。茶道部に書道部、文芸部。両手の指ではとても足りなくなってくる。
「どこか、入りたいって思うところあった?」廊下で凛が問いかける。
「ハムスターが飼いたくなった」
 生物学部が行ったハムスターの種別レースは随分と可愛らしく面白かった。
「じゃあ、生物学部?」
「飼いたくなったっていうだけ。そこまでじゃない」
「わがままだなあ」
「そういう榎本さんは、どこか入らないの」
 翔太の質問に、凛は嬉しそうに笑う。
「手芸部、見に行ってもいい?」
「手芸、出来るんだっけ」初耳だ。
「出来るように、なろうとしてるの。自分で自分の思う形が作れるのって、すごく素敵だと思うから」
 曖昧に頷く彼の服をつまんで、行こう行こうと凛は引っ張る。その積極性に些か驚きながら、翔太は大人しく被服室について行った。
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