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12章 世界は輝く
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五十川は、退院したばかりの凛を乗せた車椅子を押して歩く。凛は歩けると言ったが、せめて駅から学校まで手伝わせてくれと彼が説得したのだ。
学校の玄関で凛は膝に乗せていた一本の松葉杖をつき、五十川は代わりに下げている彼女の鞄から上靴を出した。
「ありがとう」
「杖なしじゃ、まだ厳しいよね」
「少し痛くて。無理するなってお医者さんは言ってる。でも、これがあれば平気だよ」
彼女は慣れた動作で杖をつき、笑った。
校舎を移動しながら二人は中庭を通る。春休みを迎えた日曜日の校舎内は静かで、午後の陽気は暖かい。
「ここでよく弁当食べたんだ。三人で」
隅のベンチに、二人は腰掛けた。そばの花壇に植わったチューリップはふっくらとつぼみを膨らませている。新学期が始まる頃には、立派に咲いているだろう。
「前半最後の補講の時もさ、終わってから弁当食べて、確か学祭の話したんだ。翔太は帰宅部だったから、俺らの展示手伝ってくれって言って」
彼はまるで昨日のことのように語る。それを聞いていると、まるで自分が当時を過ごしている気がする。翔太はなにか忘れ物をしていて、それを教室に取りに行っているだけで、すぐに校舎からやって来る。「ごめん、遅くなった」済まなさそうにそう言って。
五十川も同じことを考えていたらしい。校舎の出入口を見つめている。凛と顔を合わせると、「行こうか」と苦笑した。
彼は職員室でいくつか鍵を借りてきてくれた。
被服室では飾られている作品を指して、部員の誰が作ったのかを説明した。凛をいつも使っていた席に座らせ、彼女がどんな作品を作っていたかを語った。
次に向かった図書室では、彼は窓の外を見やる。
「ほら、ここから銀杏並木が見えるだろ」
「うん」
外には青々とした銀杏の木が並び、その下には通路が長く伸びている。
「ここも、二人はよく歩いてたんだよ。帰りに車椅子で行ってみようか」
「うん、お願い」
校舎の中を、二人は並んで話しながらゆっくりと歩く。五十川の思い出話は楽しいものばかりで、思い出せない凛も抱くはずのない懐かしさを覚える。学校に来て、玄関で靴を履き替えて、廊下を歩いて教室に向かって。部活に励んだり、購買で昼食を買ったり、友だちの教室に遊びに行ったり。そんなことをしたに違いない。なんて楽しい日々だろう。
「榎本さんは、全力で女子高生だったよ」
五十川の言葉に、凛はくすりと笑う。
「それはそうだよ。私、女子高生だもん」
「いや、誰よりも一生懸命、毎日を過ごしてた。笑ったり落ち込んだり、何にでも本気でさ。すごく眩しいんだ」
「私、この学校が大好きだったんだね」
「そうだね」彼は一つの教室の鍵を開ける。「授業も部活も友達も、学校の全てを楽しんでたよ」
そこは、凛の通っていた教室だった。
「私、どの席だったんだろう」
しかし彼女にはその部屋の記憶は戻っていない。教卓に置かれていた座席表を見て席を探し、試しに座ってみた。窓際から二列目、前から三番目。
「……なにか、思い出せた」
だが、しばらく黒板を眺めていた凛は、「ごめんなさい」と隣の席につく彼へ首を横に振った。
「謝らなくていいよ」
「でも、私覚えるね。今日この学校で見た景色、今度こそ一生忘れない」
「……引っ越すの、もうすぐだっけ」
「うん。明後日。だから今日、案内してくれて本当に嬉しいよ。ありがとう」
廊下に出ると、五十川は再び扉に鍵をかける。それを見ていた凛は、「あのね」と声をかけた。
「あと一ヵ所だけ、案内してくれないかな」
「どこか、思い出した?」
「ううん。そうじゃないんだけど、見ておきたいところがあるの」
彼女の言う場所を聞いて五十川は首を傾げたが、その理由を聞くと納得の顔をした。「ちょっと待ってて。鍵借りてくるよ」そう言って足早に職員室に戻っていった。
学校の玄関で凛は膝に乗せていた一本の松葉杖をつき、五十川は代わりに下げている彼女の鞄から上靴を出した。
「ありがとう」
「杖なしじゃ、まだ厳しいよね」
「少し痛くて。無理するなってお医者さんは言ってる。でも、これがあれば平気だよ」
彼女は慣れた動作で杖をつき、笑った。
校舎を移動しながら二人は中庭を通る。春休みを迎えた日曜日の校舎内は静かで、午後の陽気は暖かい。
「ここでよく弁当食べたんだ。三人で」
隅のベンチに、二人は腰掛けた。そばの花壇に植わったチューリップはふっくらとつぼみを膨らませている。新学期が始まる頃には、立派に咲いているだろう。
「前半最後の補講の時もさ、終わってから弁当食べて、確か学祭の話したんだ。翔太は帰宅部だったから、俺らの展示手伝ってくれって言って」
彼はまるで昨日のことのように語る。それを聞いていると、まるで自分が当時を過ごしている気がする。翔太はなにか忘れ物をしていて、それを教室に取りに行っているだけで、すぐに校舎からやって来る。「ごめん、遅くなった」済まなさそうにそう言って。
五十川も同じことを考えていたらしい。校舎の出入口を見つめている。凛と顔を合わせると、「行こうか」と苦笑した。
彼は職員室でいくつか鍵を借りてきてくれた。
被服室では飾られている作品を指して、部員の誰が作ったのかを説明した。凛をいつも使っていた席に座らせ、彼女がどんな作品を作っていたかを語った。
次に向かった図書室では、彼は窓の外を見やる。
「ほら、ここから銀杏並木が見えるだろ」
「うん」
外には青々とした銀杏の木が並び、その下には通路が長く伸びている。
「ここも、二人はよく歩いてたんだよ。帰りに車椅子で行ってみようか」
「うん、お願い」
校舎の中を、二人は並んで話しながらゆっくりと歩く。五十川の思い出話は楽しいものばかりで、思い出せない凛も抱くはずのない懐かしさを覚える。学校に来て、玄関で靴を履き替えて、廊下を歩いて教室に向かって。部活に励んだり、購買で昼食を買ったり、友だちの教室に遊びに行ったり。そんなことをしたに違いない。なんて楽しい日々だろう。
「榎本さんは、全力で女子高生だったよ」
五十川の言葉に、凛はくすりと笑う。
「それはそうだよ。私、女子高生だもん」
「いや、誰よりも一生懸命、毎日を過ごしてた。笑ったり落ち込んだり、何にでも本気でさ。すごく眩しいんだ」
「私、この学校が大好きだったんだね」
「そうだね」彼は一つの教室の鍵を開ける。「授業も部活も友達も、学校の全てを楽しんでたよ」
そこは、凛の通っていた教室だった。
「私、どの席だったんだろう」
しかし彼女にはその部屋の記憶は戻っていない。教卓に置かれていた座席表を見て席を探し、試しに座ってみた。窓際から二列目、前から三番目。
「……なにか、思い出せた」
だが、しばらく黒板を眺めていた凛は、「ごめんなさい」と隣の席につく彼へ首を横に振った。
「謝らなくていいよ」
「でも、私覚えるね。今日この学校で見た景色、今度こそ一生忘れない」
「……引っ越すの、もうすぐだっけ」
「うん。明後日。だから今日、案内してくれて本当に嬉しいよ。ありがとう」
廊下に出ると、五十川は再び扉に鍵をかける。それを見ていた凛は、「あのね」と声をかけた。
「あと一ヵ所だけ、案内してくれないかな」
「どこか、思い出した?」
「ううん。そうじゃないんだけど、見ておきたいところがあるの」
彼女の言う場所を聞いて五十川は首を傾げたが、その理由を聞くと納得の顔をした。「ちょっと待ってて。鍵借りてくるよ」そう言って足早に職員室に戻っていった。
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