1 / 1
悪魔の本懐
「おまえのようなインチキ宗教家のせいで妻は死に追いやられたんだ!」
包丁を突きだし、そう叫ぶと、教団の総裁はふりかえって目を見開いた。
調べたとおり、真夜中の祈りの時間は総裁が一人きり。
だれかが助けにくるまえに決着をつけようと走りだしたものの、包丁は空ぶり、片手で頭をわしづかみに。
総裁は俺と体格が変わらないはずが、とんだ怪力で、手を外せないし、頭蓋骨が軋む音がする。
正直、肝が冷えたとはいえ「この詐欺師め!」と怒鳴れば「わたしが、彼女の死を望むわけないでしょう」と嘲笑。
「人の不幸を糧に生きている存在なんですから。
そんなわたしにとって、彼女は上客だった。
彼女ほど不幸を背負う人は、なかなか、いませんからね。
彼女を幸せにせずとも、死んでもらっては困るとあって、追いつめるようなことはしませんでしたよ」
「俺を言葉で惑わそうとしても無駄だ!」と叫ぶも、どこ吹く風で、頭をぎりぎり絞めつけながら、総裁は話しつづける。
「彼女は子供ができないことを、あたなの親に責められて、とても辛い思いをしてましたよ。
あなたも庇ってくれなかったそうで」
「いや、俺は、あいつと離婚しなかったんだぞ!」
「そうやって恩着せがましく、彼女を服従させた。
ですが、最近、彼女は知りあいにすすめられて、あらためて体を調べてみたんです。
そしたら子供をつくるのに、自分の体に問題がないと分かった。
そのことをあなたに報告するのだと、うれしそうに教えてくれましたよ。
彼女には、夫を責めるつもりはなかったはずですが、あなたは、どう応じたんです?」
問いかけられて、つい記憶を掘りおこしてしまう。
「どうか、あなたも検査してほしい。原因を突きとめて、改善をしていきたい」との妻の懇願に、逆上して怒鳴りつけたのだ。
「俺に責任転換するなんて、とんだ根性の腐った女め!
もし、俺の親に告げ口してみろ!殺してやるからな!」
翌朝、居間にいくと、妻が首を吊っていた。
思いかえして言葉を失くしているうちに、総裁は手の力を強めて、さらに頭をみしみしと。
「あなたのような人は、まわりを不幸にしますからね。
不幸を糧にする、わたしにしたら、ありがたい存在です。
失うのは惜しいですが、無念な彼女を哀れみ、報いてあげることにしましょう。
責任転嫁しつづけても、罪による罰から逃れられないと思い知りなさい」
「妻が自殺したのは、宗教ではなく、俺のせいなのか?」と釈然としないながら、どんどん頭が絞めつけられ、意識を遠のかせていく。
頭蓋骨に亀裂がはいった音を聞いた間もなく、底なしの闇に落ちていった。
俺が落ちていくのを、だれかが覗きこんでいるようだ。
もし妻だとしたら「ざまあみろ」とにんまりとしているのかもしれない。
この小説を含めて10作を収録したホラー短編集を電子書籍で販売中。
詳細を知れるブログのリンクは↓にあります。
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
【累計55万PV突破‼】
話題作「アンケートに答えたら、人生が終わった話」が10万PVを記録。
日常に潜む“逃げ場のない恐怖”を集めた、戦慄の短編集。
その違和感は、もう始まっている。
帰り道、誰もいないはずの部屋、何気ない会話。
どこにでもある日常が、ある瞬間、取り返しのつかない異常へと変わる。
意味が分かると凍りつく話。
理由もなく、ただ追い詰められていく話。
そして、最後の一行で現実がひっくり返る話。
1話1000〜2000文字。隙間時間で読める短編ながら、
読み終えたあと、ふとした静寂が怖くなる。
これはすべて、どこかで起きていてもおかしくない話。
――あなたのすぐ隣でも。
洒落にならない実話風・創作ホラー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。