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最終幕 もう一匹の猫

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 朦朧として、人の話し音が聞こえる、
「………………あまねが……ゆびがきゅうにうごい…………」
「………では………ようすをみてみま………」
ふたりか。
「………くん、こえきこえますか………きこえたらちょっとゆびをうごかし………」

「………よくできました………もう少し寝ていてくだ………」
その言葉を最後に、また意識がうつろになっていった………
 次に意識をとり戻したときには、窓から日がいい感じに差し込んできている。
意識がはっきりしたものの、体にはまだ少し倦怠感が残っている。右腕だけは何かに押されたような圧迫感があった。
 よく見たら自分の母だった。
そのまますることもなく、じっと見ていたら、母はそれに気づいたかのように、ビクッと体が震えてそのまま頭を上げて、
「おきたね、まだ寝ていていいのよ。」
 母は力弱く微笑んだ。目元は少し黒ずんで、服も髪も乱れていて、すごく憔悴した顔つきだった。
「じゃあ、母さん今から手続きしてくるね。色々聞きたいことあるかもしれないが、すべて家に帰ってからね。」
 そう言って、母は髪の毛を整えながら椅子から立ち上がった。何歩か歩いてスーと扉を開けてから、姿を消した。残るは部屋に響く閉められるときの無機質な扉の音だけ。
そして扉を貫通すように、ペタペタとしたスリッパの音ともう一つ甲高いヒール音が耳に届く。
そのままベットに体を預けて、天井についてる扇風機とにらめっこ。
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