バー木蓮 比呂乃ママと一杯いかが?

くうちゃん

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第7話 恋せよ乙女

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第7話 恋せよ乙女
 
「ママ―、聞いてくれるー?」
飛び込んできたのは、「木蓮」の常連の未来(みらい)ちゃんである。賑やかな子で、かなりのマイペースかつ、どこか乙女である。
「いらっしゃい。いつものでいい?」
私は切り返した。
私の名前は比呂乃。
曙橋でバー「木蓮」を営業している。バーといってもカウンターだけの店で、気さくな感じでやっているから、昭和のスナックといた方がイメージは近いかもしれない。
未来ちゃんは薬草種が好きで、最近はウンダーベルグを好んで注文してくれる。そうでなければペルノーか。
他の常連さんから「おっ、又キャベジンか!」と話しかけられて、「そうそうそう!これで又飲める!」と機嫌がよさそう。味がちょっと似てるのね。
未来ちゃんは、アパレルでデザイナーだかマーケティングだかをしていて、いつも個性的な出で立ちであるが、今日は比較的庶民的で、ゆったりめのTシャツを着て、黄色地のティアードスカートを履いている。彼女はフリーだけど、今日は友人やそのお子さん達と新宿御苑でゆっくり遊んできた帰りだという。
はてさて、聞かなきゃいけない話とは何なんだろうか…?
ここでこの子が、悩みを深刻に話すことはないだろう。きっと罪の無い会話を楽しもうとしてくれているのだと当たりを付けた。
「それで、未来ちゃんのニュース、どんだけビッグ?」
未来ちゃんは、話の中心になれると思うと嬉しいのだろう、クリクリの眼をもっと大きくして
「ええ勿論、ビッグ超ビッグ!」と答え、話し出した。
聞くと、案の定、他愛もない(いや失礼)、罪のない恋愛話が始まりそうである。
一昨日の夜、YouTubeでタロット占いを見たそうである。「あなたに48時間以内に起こる恋の軌跡‼」というものだったらしい。
「いよいよ彼氏ができる!ツインソウルと結ばれるわけ―!」
「あー、はいはい!」隣の男性客が茶化す。(お客さん、私も気持ちはわかる!!)
「私もタロットするのよね。それは信じるわ。」(言ってる私は、偽善者かしら??)
未来ちゃんは勢い込んで話してくる。
「でさ、一昨日、昨日と何もなくてさ、もうどういうことー?どんだけー?って思ってたの。」
(あー、はいはい!汗)
「ところが、ところがよっ!さっき友達と別れて、ここまで歩いてくる途中、去年お見合いして、気になったまま疎遠になってしまった相手と会ったのよ。」
「あら、すごい!どこの人なの?」私が聞くと、未来ちゃんは
「うーん、四谷の人だったかしら?」
(近っ!そりゃあ会うこともあるだろよ。黒比呂乃が度々顔を出し、お客さん同様、茶化しそうになる。いかんいかん。)
「運命感じた?」私は聞く。
「そう、まさに運命、奇跡は起こったのです!」未来ちゃん占い師憑依?
「すごいじゃない。それでどうしたの?」
「それで?」未来ちゃんは問い返してくる。
「いや、それからどうしたの?」
(黒比呂乃は心の中でさらに暴走する。「そんな再会の直後、なぜここにおるのじゃー⁉︎」)
「それからって。ちゃんとご挨拶のお辞儀してから、ここに来たのだよ。」
全員ズコー!!
「ママ、もう一杯
、ロックで。」隣の男性客が言う。
(ああ、お客様、ありがとう。そうだよ、とぼけた娘は置いておいて、仲よくしておくれ(笑)。)
まあそれは冗談だけれど。
未来ちゃんは、この天然ぶりで、周囲に総スカンのツッコミいれられるという形で、ちゃんと愛されているのである。もうこの新喜劇の役回りは約束されてしまっていて、他はない。
しかし、私には最後のHAPPYな切り札がある。これがあるから、みんなで遊んでいたのだが。
「私ね。たっちゃんと出会ったときね。全く同じ状況だったわ。」
「えー!!」これには隣のお客さんも驚いた。
(へへっ!未来ちゃんに大逆転の20ポイントあげるわね。)
未来ちゃんは、背筋を伸ばして胸を張り、人差し指を立て、力強く頷き続けた。
「お前は春日か?」
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