バー木蓮 比呂乃ママと一杯いかが?

くうちゃん

文字の大きさ
21 / 33
第3部 木蓮 チャクラとレインボーカラー

第3部 第4話 オレンジ色のつらさを笑いと感謝に変えた奴

しおりを挟む
(前半のつづきから)

 ケンちゃんは、少ししんみりしながら、チャンジャを口に運んだ。

「辛いという字は、つらいとも読むのね~♪」と、気分を変える為なのか、昔の流行歌の替え歌を口ずさみ、コーラを一口飲んだ。

 そして、顔を上げて、先日比呂乃が酉の市で買った熊手の方に目を遣った。

「あのつらい経験の後で、俺は仲間に出逢ったんだよ。あんなにひどかった自分に、最後に与えられたものは、仲間の愛だったんだ。」

 ケンちゃんが仲間思いであることを、しっかり見てきた比呂乃は、うんうんと肯き、思い出して、
「だから、あのス、ス、スイカ、ナ、ナ、仲間♪っていう名台詞が出てくるのよね。」
(第一部「鳴らせ!山の音楽家」参照)と、笑いながらからかうと、

ケンちゃんは、
「言うなよー。」と照れ臭そうに言って、二人はあの夜の思い出話で笑った。


 その時、ふと、ドアのガラス窓の向こうにオレンジ色のスカーフが見えた気がした。

 比呂乃は動じず、ケンちゃんに思いついたことを、話し出した。
「ねえ、オレンジ色は一番初めに、一人で頑張る時の色だよね。友達も親子ともども経験したって言ってたわ。」

「それ、わかるよ。俺も、リハビリ始めたあたりの時さ、すごい気になる色だった。
 オレンジ色ってのがわかんなくなって、橙色の橙ってなんだっけ?とか、果物の名前が色の名前って珍しくないかとかグダグダ考えたことあるよ。」

「自分の力だけで、なんとか人生を切り開こうとして頑張ってるんだね。そう思うと健気な色ね。」

「乳離れして、母親からの自立をするよね。母親の温かさから少し離れるんだ。その時、その温かさの代わりを欲しがる気持ちが橙を求めるんだよね。」

「ケンちゃん、すごい。どうしてそんなことわかるの?」

「自分にとっては、温かいものが酒だったらしいんだ。だから、酒を断ったら、橙が気になりだしたみたいなんだ。」

「なるほどね。」

「リハビリってさ、機能を回復して再起することでさ。俺らの場合、昔の習慣を断つことでもあるんだ。」

「そうなんだ。断つのね。」

「そう、断つんだ。」

「日本語って韻に意味があるでしょ。」

「どういう?」

「『たつ』っていう韻だけで、いろんな意味の漢字があるけれど、、、。」

「タバコを断つ」

「家が建つ」

「3分経った!」

「クララが立った!」

「連絡を絶つ」

「いい日旅立ち♪きりがないわ。
でも、なんかね。共通のものが流れてる。」

「んー、んー。」

「終える言葉と、始まる言葉が混在してるけど、再起をイメージするわ。」

「本当だ。」
ケンちゃんは噛みしめるように、「たつ、たつ、たつ」と繰り返していた。

「今思ったけど、辰年の辰もそうよね。関係あるかな?帰りに弁天様に聞いてみようっと。」



「あと、断捨離でいえば、離すもそうよ。
離す、話す、放すこれは捨てるに近いわね。」

ケンちゃんは
「それこそわかるよ。仲間同士で過去のことや、今の悩みを話すと、すごい楽になる。」

「話せば楽になるものね。酒場はそういう場でもあるわ。」

「じゃあ捨てるって何だろな?」

「なんだろうね?
ねえ、捨てるのは執着かしら?」

「古い習慣とかエゴとか?」

「ね。」


 真剣に話したから頭が痛くなってきたと言いたいのか、ケンちゃんは、わざとしかめっ面をこしらえて、こめかみをマッサージする。
 オーケーと、比呂乃は明るい話題に変えた。
「じゃあねえ、何でも叶えられるとしたら、何を願うか話してみようよ。」

「何でも叶っちゃうの?
 そうだなー、本音を言えば、やっぱり人並みに収入を得たい。それで、誰かパートナーと先の不安がない穏やかな暮らしがしてみたいな。時々仲間を呼んで食事したりさ。」

「いいわね。やっぱり仲間と働いていたい?」

「そうだな。俺は、やっぱり共同作業が好きだな。比呂ちゃんの夢は?」

「私は、笑って生きていたい。アーンド、平和でゆるし合える世の中であれば最高ね。」

「いいねえ。」

「ねえ。」


 二人がほっこりしているところへ、花屋のご主人が顔を出した。店が始まる前に、ご主人の好きなトウモロコシのひげ茶のペットボトルとヤンニョムチキンを奥様にお渡ししておいたのだった。
「比呂ちゃん土産ありがと。
話変わるけど、さっき、通りでお巡りさんが不審者に声かけたら、一目散に逃げてったよ。小柄な女性だったけど、一応お知らせ。」

 比呂乃はそれを聞いて、慌てふためいて走り出す貴和子の姿が想像できて、おかしくなって笑ってしまった。

 花屋のご主人が聞いてきた。
「知り合いなの?」

「いいえ知り合いなんてものでは。」
 比呂乃は誤魔化した。


 花屋のご主人が帰った後、比呂乃はつぶやいた。
「知り合いなんてものではないわ。私の仲間よ💕」

 人生はいろんな風に混ざり合う。
 お互いの、その時々の境遇を抱えて。
 出逢い、別れ、再会。
 生身の私がこれかも感じるだろう感情、
 喜び、楽しみ、悲しみ、怒り
 憎しみ、闇、愛
 すべてに意味がある。
 この年になりやっと気づけた。

 無限の光を受け、有り難い配慮で奇跡の星地球はずっと回ってきた。
 今日ここに私があることにも意味がある。
 感謝を捧げたい。
 そして、叫びたい。

 世の中捨てたもんじゃない。
 人生ってまんざら捨てたもんじゃない。

 今日一日をありがとう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

処理中です...