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第5話 任官──国家の要請と、永井家の決断
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翌日。
斎藤との約束を果たす為に早朝から準備し、警察庁へと車に乗って、緊張しながらも家の軽自動車で走行中の永井家。
行く前にジョロの獣人時に着られそうな服を、24時間営業のディスカウントストアに寄って買ったりもしてあった。
自家用車の後部座席の左側。犬用チャイルドシートの定位置に犬の姿のジョロ。
その隣にクミコを乗せ、ミサオは自家用車を走らせている。
車のナビに入れた行き先は東京都内にある警察庁。
「8時20分。まぁ、高速が事故無きゃ間に合うだろ。」
ミサオが前を向いたままつぶやく。
「そうね。ジョロも平気?」
クミコがジョロの方を向いて確認する。
「ウ~ワフッ!ワウ。ウォウ?(うん。平気!窓。開けて?)」
「意味わかるの良いけどさ、この頭ん中響く声慣れねぇな、まだ。」
「あたし達と・・・斎藤さんだけでしょ?聞こえてるの。」
ミサオとクミコが感じた事を口にする。
3人を乗せた車は横浜横須賀道路の横須賀インターから首都高へ。
向かうは霞が関。
途中軽い渋滞を挟みながらも、車は首都高のインターを降りて一般道へ。
ミサオはナビに表示された通り、インター出口から外堀通りを進む。
ナビの指示通りに進んで、霞が関一丁目交差点を越えた先に見えたもの。
よくテレビで見る高いアンテナの様な物が付いた建物である。
その建物の左側に沿う形で設置された高いフェンスの中に、ひっそりと控えめな関係者車両入口のゲートがある。
ミサオは途中でUターンして左側に建物を見る形にして、ウインカーを出して車をゲートへと動かす。
そしてそのゲートに居た警察官に、ミサオは免許証を提示する。
警察官からは免許証確認と共に、車のナンバー及び社内の同乗者の目視確認が行われる。
「お待ちしていました、永井ミサオさん。通行許可は確認取れております。車両は進んだ先のP3区画へお願いします」
ミラー越しに頭を下げる警察官の姿に、ミサオは思わず眉をひそめる。
「・・・こんな厳重な所、普通じゃ来られねえって。それでなくてもガキん時、所轄の少年課の刑事(デカ)さんに散々世話かけた口なのに、ブルッちまうよまったく。」
「自慢にもならないわよ。ま、私は夜中に補導位だけどね?」
「・・・それもどうかと思うけどな?」
夫婦の会話もそこそこに、ミサオは地下駐車場へと車を進め、指示された場所を何とか見つけて駐車する。
車から降りた永井家の3人は、地下から一度エレベーターで上がって1階で降りる。クミコがジョロを胸に抱き、そのまま手持ち無沙汰の状態で斎藤を待つ。
「やっぱり、定刻より早かったですね。」
声が後ろからかけられ、ミサオとクミコが振り向くとエレベーターからでは無く、既に斎藤が後ろに立っている。
「では、案内します。こちらへ。」
斎藤は目の前のエレベーターでは無く、違う場所へと移動する。エレベーターから右手に周り込んで、そのまま真っ直ぐ進んだ先。左右に分かれた場所があり、右手に区切られたスペースがある。
ジョロはは大人しくクミコの腕の中で、周りをキョロキョロと見回している。
「こちらで移動します。場所覚えておいて下さい。」
スペース内に入った、斎藤と永井家。
目の前には、運搬用とおぼしきエレベーターがある。
斎藤は下へのボタンを押し、開いたエレベーターへと躊躇(ちゅうちょ)無く入ってゆく。
「どうぞこちらへ。」
永井家も続けて乗り込む。
斎藤はB3のボタンを押し、皆が乗り込んだのを確認し終えてすぐに閉ボタンを押し、開いた扉を閉める。
動き出したエレベーターが静かに止まり、扉が再び開くと斎藤は降りて左側へと進む。それに黙ってついていくミサオとクミコ。
(機械室・・・配電板室。・・・ほいで、うわっ。古ぼけた看板だなおい。昔の学校のクラス表示かよ?)
ミサオは周りをキョロキョロ確認しながら歩いている。
斎藤が足を止めた場所には、壁にネジ止めされた黒い木の板に書かれた文字。
(警察庁警備局特異生命体対処班)
「・・・場末感凄いですね。」
ミサオが素直に言葉にする。
「まあ、あくまで建前、間借りみたいなものですからね。体裁は必要なんですよ。中へどうぞ。」
斎藤にうながされ、中へ入る永井家。
中は小学校の図書室の様なイメージと言うべきか。棚がいくつも並び、ラックにはホコリまみれの資料が入って居そうな幾つもの段ボール。
「うわぁ。いかにもって感じですね。」
クミコがハンカチで鼻と口を片手で覆いながらつぶやく。
「体裁ですから。ここでは閑職扱いのフリしてますんでね。さてこちらの前へ。」
皆がドアを開けて最初に目に入った右側が棚で
左側には壁と何の変哲もない机とイスが1つ。その横にはホワイトボード。
「で、こいつをですね・・・。」
斎藤が机の方に向かって歩く。
(お!机の中の隠しボタンか?あるあるか?)
少しワクワクするミサオ。
斎藤は机をスルーし、ホワイトボードの前へ。
「このホワイトボードクリーナーで、リモコンで操作します。」
(黒板消しの方なんかい!いや、ホワイトボード消しか?)
心の中で激しく突っ込むミサオ。
斎藤がクリーナーの手が触れる側を下にスライドさせると、スマホの様な画面が現れる。
「この端末で、自分のIDナンバーの打ち込みと指紋認証、もしくは目の虹彩認証を行う。これで本部への出入りが出来る様な仕組みになっています。あなた方にも与えられますので、次回からはそれで。」
斎藤の、手っ取り早い方の虹彩認証にて、机の後ろ側の壁が左右に開く。
目の前には下りのエスカレーター。斎藤・ミサオ・ジョロを抱いたクミコの3人はそのまま乗り込む。
エレベーターは押しボタンも無く、センサー制御なのか黙って扉が閉まる。
動き出したエレベーターは、ミサオの体感で建物3階分程下り、降りた一行はそのまま目の前の一本道を前方へと進む。
短いトンネルの様な部分を抜けると突き当たりの様にミサオには見える。
眼前には厳重そうな鋼鉄の扉。扉の左右に一人ずつ、迷彩服を来た男性が立っている。
迷彩服の2人は、斎藤を見るとカツンとカカトを鳴らし、綺麗な敬礼をする。
「ご苦労。」
斎藤も歩みを止めぬまま答礼し、見ていたかの様にタイミング良く左右に開かれていったドアの中へ。
その斎藤に続いて永井家も扉を超える。
扉をくぐったミサオの目に映った景色・・・。
暗い室内。目の前には大きなディスプレイ。左右には、PCを使って何やら行う人員がそこそこ居るのに気付く。
室内の者が斎藤の姿に気付いてその場で立ち上がり、斎藤に対して皆敬礼をする。
「コマンダー。ブリーフィングルームは開けてあります。」
ミサオが気付くと、1人の男が斎藤のそばにいる。
紺色の上下。いわゆる戦闘服と呼ばれるものに似ている。
同色の帽子に黒のブーツで立つ男。
いかにも部隊の人間と言う雰囲気を醸(かも)し出している。
「分かった。みんなも仕事に戻れ!」
その場で敬礼してた者達がそれぞれの仕事に戻る。
「近藤二尉。こちらが我々の新たな仲間、永井家の皆さんだ。宜しく頼む。」
「はっ!・・・この部隊の情報支援担当の近藤です。以後、宜しくお願いします。では、ご案内差し上げます。」
先頭に近藤、続いて斎藤、その後ろに永井家という並びで、先ほどの部屋からディスプレイの右手のドアを通り、左手奥へ進む。
(いや地下広くねぇ?おっ?ここは武器庫。・・・支援機材庫。・・・車両設備管理室。・・・訓練場。で、階段?まだ下もあんのかよ!金かけてんなぁ。)
最新の設備が揃っている様に見え、感心するミサオに、声が掛かる。
「こちらです。中へお入り下さい。」
近藤と呼ばれていた男にいざなわれて入った室内。
中はこうこうと明るく、手前から奥へ、逆扇型で下っていく様な作り。1番下にディスプレイがこちらに向いて据え付けられている。
「では、1番前へ行きましょう。・・・コマンダー、彼はこのままの姿で?」
斎藤に確認を取る近藤二尉。
「ジョロくん。もうあの姿で平気だよ。」
その言葉に、コジマルはクミコの懐から飛び降り、光に包まれ獣人の姿になる。
クミコは慌てて、用意した人間用のトレーナーとトランクス・・長ズボン・靴下・スニーカーを着用させる。
しかもその場でトランクスとズボンの後ろにシッポ用の穴をハサミで開けてあげる丁寧ぶり。
「ほぅ。まだ子供・・・といった見た目ですね。顔に幼さを感じますが。・・・それであのunknown(アンノウン)を。・・・いや失礼。では改めて、1番前のお席へお座り下さい。」
感心していた様子だったが、段取りを思い出して表情を戻す近藤に言われ、3人共に1番前に並んで着席する。
「ここで改めてご紹介致します。こちらの斎藤司令。・・・我々はコマンダーとお呼びしてますが、ある程度は司令から大まかな内容はお聞きになられてると思います。ここでは私が補足をさせていただきます。」
近藤二尉が小脇に抱えていたファイルを開き、ミサオ達に説明を始める。
「あなた方永井家への要請。それはunknown(アンノウン)との直接戦闘並びに情報収集等が主たる内容だと理解して下さい。そしてあなた達の所属は、今この場所を拠点とする国の特別部隊。正式には、国家害意生命体対策部隊。通称【H-FORCE(エイチ・フォース)】となります。」
(話デカいよな・・・。大丈夫かよ?)
ミサオがクミコの顔を見ると、以外にも動揺は感じられず、クミコもジョロも真っ直ぐ近藤の方を見据えている。
(・・・案外マミって図太いな?)
余計な事に気が向くミサオをよそに、近藤の話は続く。
「この部隊は、事案が秘匿性を要する為、警察庁警備局特異生命対処班という偽装名義を表では使用しております。
したがって階級も所属も表と裏、2つの顔での動きが求められます。
永井家の皆さんにも、活動的に支障の無いと思われる階級・・・私と同様の二尉の階級が。表では警部補の階級が与えられます。
それに伴ってミサオさんには、今の職業からの退職が必然となります。これについては、こちらで全て処理を行いますので、そちらで動く事は以降なさらないで結構です。」
(退職!・・・予想してたとは言うものの、少しだけ切ないなぁ。仲間もいた事だし。・・・別れの挨拶も無しか。でもまぁジョロの為。仕方ないよな。)
ミサオは現実を前に、改めてこれからの事へ目を向ける。
「・・・尚、ご心配であろうこれからの生活基盤。ズバリ給与の方ですが、一応警察側在籍の名目で支払われます。現在の階級プラス危険手当が別名目で加味され・・・間違いなく今現在のお給料より上がります。手取りで月50万・・・ですかね?」
「手取り50?マジですか?」
食いつくミサオ。
「はい。・・・1人頭。」
「あ!掛ける3人!マジか!マミ、ジョロ、どうする?いきなり高額所得だぜオイ!」
金の苦労が無くなる事に、ミサオは瞬間的に有頂天になる。
「永井さん!・・・給与が良いという事は、理由が有ると言う事です。責任と義務が伴う事は、忘れないで下さいね?」
斎藤にクギを刺されるミサオ。
「・・・取り乱しました。すいません。」
改めて姿勢をただし、近藤の方へ向き直すミサオ。
「話を続けます。この後、この場で任官式を行い、その後3日間、部隊のルールや運用における秘匿部分などの細かい座学、最低限の武器の扱い方や護身及び制圧訓練等を泊り込みで行います。外出及び外部との連絡は不可。これは秘匿性が高い為の処遇となっている故の処遇なので、特例は認められません。促成栽培に近い形ですが、その先は追々やって行きますので、そのつもりでいきましょう。何かご質問は?」
(外出も連絡も不可!先に言っとけっての!公営ギャンブルの選手並みかよ。ま、その位しないとダメなのは俺でも想像つくけどさ。中年2人捕まえて促成栽培って平気なのか?)
近藤の説明を頭の中で咀嚼しているミサオの横で、クミコが動く。
「あの・・・武器って、拳銃とかですか?」
クミコがおずおずと手を上げて聞く。
「それについては、一応拳銃ですね。・・・と言っても相手は基本人間ではありませんので、特殊な弾丸、人間には非殺傷のスタンピストルみたいな物を使用します。有線では有りませんが。対unknown(アンノウン)用の武器ですね。もちろん射撃訓練はしますよ!」
クミコの疑問にスラスラと答える近藤。
(いきなりチャカではなかったか。俺は海外でモノホン撃った経験あるけどさ。・・・マミにはそれでも大変だろうけどな。あ!それよりも!)
ミサオはクミコに続いて手を挙げる。
「あの、泊り込みなんですよね?でも俺、今夜はトラックの仕事、シフト入ってんですよ!いきなり穴開けらんないっスよ。俺の信用問題に関わりますから。」
「その辺まで考えての要請なんです。ミサオさんの会社にも今日の内に対処しますんで平気ですよ。」
ミサオの質問にも滑らかに答える近藤。
「・・・じゃ、最後に。・・・家族が別行動なんて事は、ありませんよね?・・・絶対に。」
ミサオは真顔で問う。
「それは・・・絶対です。この部隊での運用方針です。というより、最前線で対処する獣人達は、家族と一緒でないと最大限の力が発揮出来ない訳ですから。意味が無いんですよ、別行動は。」
それを聞いて安堵するミサオとクミコ。
「さて、それではコマンダー、任官式の方をお願い出来ますでしょうか?」
「分かった。本部内の動ける人員集めてくれ。すぐに執り行おう。」
斎藤の言葉を聞いて、永井家の方に一礼して退出する近藤二尉。
かくして永井家の3人は、複雑な思いもありながら、晴れて国家公務員となり、得体の知れぬ生き物に対処する毎日を迎える事となる。
永井家夫婦が後で嘆く羽目になる、地獄の3日間を終えてからの話だが。
斎藤との約束を果たす為に早朝から準備し、警察庁へと車に乗って、緊張しながらも家の軽自動車で走行中の永井家。
行く前にジョロの獣人時に着られそうな服を、24時間営業のディスカウントストアに寄って買ったりもしてあった。
自家用車の後部座席の左側。犬用チャイルドシートの定位置に犬の姿のジョロ。
その隣にクミコを乗せ、ミサオは自家用車を走らせている。
車のナビに入れた行き先は東京都内にある警察庁。
「8時20分。まぁ、高速が事故無きゃ間に合うだろ。」
ミサオが前を向いたままつぶやく。
「そうね。ジョロも平気?」
クミコがジョロの方を向いて確認する。
「ウ~ワフッ!ワウ。ウォウ?(うん。平気!窓。開けて?)」
「意味わかるの良いけどさ、この頭ん中響く声慣れねぇな、まだ。」
「あたし達と・・・斎藤さんだけでしょ?聞こえてるの。」
ミサオとクミコが感じた事を口にする。
3人を乗せた車は横浜横須賀道路の横須賀インターから首都高へ。
向かうは霞が関。
途中軽い渋滞を挟みながらも、車は首都高のインターを降りて一般道へ。
ミサオはナビに表示された通り、インター出口から外堀通りを進む。
ナビの指示通りに進んで、霞が関一丁目交差点を越えた先に見えたもの。
よくテレビで見る高いアンテナの様な物が付いた建物である。
その建物の左側に沿う形で設置された高いフェンスの中に、ひっそりと控えめな関係者車両入口のゲートがある。
ミサオは途中でUターンして左側に建物を見る形にして、ウインカーを出して車をゲートへと動かす。
そしてそのゲートに居た警察官に、ミサオは免許証を提示する。
警察官からは免許証確認と共に、車のナンバー及び社内の同乗者の目視確認が行われる。
「お待ちしていました、永井ミサオさん。通行許可は確認取れております。車両は進んだ先のP3区画へお願いします」
ミラー越しに頭を下げる警察官の姿に、ミサオは思わず眉をひそめる。
「・・・こんな厳重な所、普通じゃ来られねえって。それでなくてもガキん時、所轄の少年課の刑事(デカ)さんに散々世話かけた口なのに、ブルッちまうよまったく。」
「自慢にもならないわよ。ま、私は夜中に補導位だけどね?」
「・・・それもどうかと思うけどな?」
夫婦の会話もそこそこに、ミサオは地下駐車場へと車を進め、指示された場所を何とか見つけて駐車する。
車から降りた永井家の3人は、地下から一度エレベーターで上がって1階で降りる。クミコがジョロを胸に抱き、そのまま手持ち無沙汰の状態で斎藤を待つ。
「やっぱり、定刻より早かったですね。」
声が後ろからかけられ、ミサオとクミコが振り向くとエレベーターからでは無く、既に斎藤が後ろに立っている。
「では、案内します。こちらへ。」
斎藤は目の前のエレベーターでは無く、違う場所へと移動する。エレベーターから右手に周り込んで、そのまま真っ直ぐ進んだ先。左右に分かれた場所があり、右手に区切られたスペースがある。
ジョロはは大人しくクミコの腕の中で、周りをキョロキョロと見回している。
「こちらで移動します。場所覚えておいて下さい。」
スペース内に入った、斎藤と永井家。
目の前には、運搬用とおぼしきエレベーターがある。
斎藤は下へのボタンを押し、開いたエレベーターへと躊躇(ちゅうちょ)無く入ってゆく。
「どうぞこちらへ。」
永井家も続けて乗り込む。
斎藤はB3のボタンを押し、皆が乗り込んだのを確認し終えてすぐに閉ボタンを押し、開いた扉を閉める。
動き出したエレベーターが静かに止まり、扉が再び開くと斎藤は降りて左側へと進む。それに黙ってついていくミサオとクミコ。
(機械室・・・配電板室。・・・ほいで、うわっ。古ぼけた看板だなおい。昔の学校のクラス表示かよ?)
ミサオは周りをキョロキョロ確認しながら歩いている。
斎藤が足を止めた場所には、壁にネジ止めされた黒い木の板に書かれた文字。
(警察庁警備局特異生命体対処班)
「・・・場末感凄いですね。」
ミサオが素直に言葉にする。
「まあ、あくまで建前、間借りみたいなものですからね。体裁は必要なんですよ。中へどうぞ。」
斎藤にうながされ、中へ入る永井家。
中は小学校の図書室の様なイメージと言うべきか。棚がいくつも並び、ラックにはホコリまみれの資料が入って居そうな幾つもの段ボール。
「うわぁ。いかにもって感じですね。」
クミコがハンカチで鼻と口を片手で覆いながらつぶやく。
「体裁ですから。ここでは閑職扱いのフリしてますんでね。さてこちらの前へ。」
皆がドアを開けて最初に目に入った右側が棚で
左側には壁と何の変哲もない机とイスが1つ。その横にはホワイトボード。
「で、こいつをですね・・・。」
斎藤が机の方に向かって歩く。
(お!机の中の隠しボタンか?あるあるか?)
少しワクワクするミサオ。
斎藤は机をスルーし、ホワイトボードの前へ。
「このホワイトボードクリーナーで、リモコンで操作します。」
(黒板消しの方なんかい!いや、ホワイトボード消しか?)
心の中で激しく突っ込むミサオ。
斎藤がクリーナーの手が触れる側を下にスライドさせると、スマホの様な画面が現れる。
「この端末で、自分のIDナンバーの打ち込みと指紋認証、もしくは目の虹彩認証を行う。これで本部への出入りが出来る様な仕組みになっています。あなた方にも与えられますので、次回からはそれで。」
斎藤の、手っ取り早い方の虹彩認証にて、机の後ろ側の壁が左右に開く。
目の前には下りのエスカレーター。斎藤・ミサオ・ジョロを抱いたクミコの3人はそのまま乗り込む。
エレベーターは押しボタンも無く、センサー制御なのか黙って扉が閉まる。
動き出したエレベーターは、ミサオの体感で建物3階分程下り、降りた一行はそのまま目の前の一本道を前方へと進む。
短いトンネルの様な部分を抜けると突き当たりの様にミサオには見える。
眼前には厳重そうな鋼鉄の扉。扉の左右に一人ずつ、迷彩服を来た男性が立っている。
迷彩服の2人は、斎藤を見るとカツンとカカトを鳴らし、綺麗な敬礼をする。
「ご苦労。」
斎藤も歩みを止めぬまま答礼し、見ていたかの様にタイミング良く左右に開かれていったドアの中へ。
その斎藤に続いて永井家も扉を超える。
扉をくぐったミサオの目に映った景色・・・。
暗い室内。目の前には大きなディスプレイ。左右には、PCを使って何やら行う人員がそこそこ居るのに気付く。
室内の者が斎藤の姿に気付いてその場で立ち上がり、斎藤に対して皆敬礼をする。
「コマンダー。ブリーフィングルームは開けてあります。」
ミサオが気付くと、1人の男が斎藤のそばにいる。
紺色の上下。いわゆる戦闘服と呼ばれるものに似ている。
同色の帽子に黒のブーツで立つ男。
いかにも部隊の人間と言う雰囲気を醸(かも)し出している。
「分かった。みんなも仕事に戻れ!」
その場で敬礼してた者達がそれぞれの仕事に戻る。
「近藤二尉。こちらが我々の新たな仲間、永井家の皆さんだ。宜しく頼む。」
「はっ!・・・この部隊の情報支援担当の近藤です。以後、宜しくお願いします。では、ご案内差し上げます。」
先頭に近藤、続いて斎藤、その後ろに永井家という並びで、先ほどの部屋からディスプレイの右手のドアを通り、左手奥へ進む。
(いや地下広くねぇ?おっ?ここは武器庫。・・・支援機材庫。・・・車両設備管理室。・・・訓練場。で、階段?まだ下もあんのかよ!金かけてんなぁ。)
最新の設備が揃っている様に見え、感心するミサオに、声が掛かる。
「こちらです。中へお入り下さい。」
近藤と呼ばれていた男にいざなわれて入った室内。
中はこうこうと明るく、手前から奥へ、逆扇型で下っていく様な作り。1番下にディスプレイがこちらに向いて据え付けられている。
「では、1番前へ行きましょう。・・・コマンダー、彼はこのままの姿で?」
斎藤に確認を取る近藤二尉。
「ジョロくん。もうあの姿で平気だよ。」
その言葉に、コジマルはクミコの懐から飛び降り、光に包まれ獣人の姿になる。
クミコは慌てて、用意した人間用のトレーナーとトランクス・・長ズボン・靴下・スニーカーを着用させる。
しかもその場でトランクスとズボンの後ろにシッポ用の穴をハサミで開けてあげる丁寧ぶり。
「ほぅ。まだ子供・・・といった見た目ですね。顔に幼さを感じますが。・・・それであのunknown(アンノウン)を。・・・いや失礼。では改めて、1番前のお席へお座り下さい。」
感心していた様子だったが、段取りを思い出して表情を戻す近藤に言われ、3人共に1番前に並んで着席する。
「ここで改めてご紹介致します。こちらの斎藤司令。・・・我々はコマンダーとお呼びしてますが、ある程度は司令から大まかな内容はお聞きになられてると思います。ここでは私が補足をさせていただきます。」
近藤二尉が小脇に抱えていたファイルを開き、ミサオ達に説明を始める。
「あなた方永井家への要請。それはunknown(アンノウン)との直接戦闘並びに情報収集等が主たる内容だと理解して下さい。そしてあなた達の所属は、今この場所を拠点とする国の特別部隊。正式には、国家害意生命体対策部隊。通称【H-FORCE(エイチ・フォース)】となります。」
(話デカいよな・・・。大丈夫かよ?)
ミサオがクミコの顔を見ると、以外にも動揺は感じられず、クミコもジョロも真っ直ぐ近藤の方を見据えている。
(・・・案外マミって図太いな?)
余計な事に気が向くミサオをよそに、近藤の話は続く。
「この部隊は、事案が秘匿性を要する為、警察庁警備局特異生命対処班という偽装名義を表では使用しております。
したがって階級も所属も表と裏、2つの顔での動きが求められます。
永井家の皆さんにも、活動的に支障の無いと思われる階級・・・私と同様の二尉の階級が。表では警部補の階級が与えられます。
それに伴ってミサオさんには、今の職業からの退職が必然となります。これについては、こちらで全て処理を行いますので、そちらで動く事は以降なさらないで結構です。」
(退職!・・・予想してたとは言うものの、少しだけ切ないなぁ。仲間もいた事だし。・・・別れの挨拶も無しか。でもまぁジョロの為。仕方ないよな。)
ミサオは現実を前に、改めてこれからの事へ目を向ける。
「・・・尚、ご心配であろうこれからの生活基盤。ズバリ給与の方ですが、一応警察側在籍の名目で支払われます。現在の階級プラス危険手当が別名目で加味され・・・間違いなく今現在のお給料より上がります。手取りで月50万・・・ですかね?」
「手取り50?マジですか?」
食いつくミサオ。
「はい。・・・1人頭。」
「あ!掛ける3人!マジか!マミ、ジョロ、どうする?いきなり高額所得だぜオイ!」
金の苦労が無くなる事に、ミサオは瞬間的に有頂天になる。
「永井さん!・・・給与が良いという事は、理由が有ると言う事です。責任と義務が伴う事は、忘れないで下さいね?」
斎藤にクギを刺されるミサオ。
「・・・取り乱しました。すいません。」
改めて姿勢をただし、近藤の方へ向き直すミサオ。
「話を続けます。この後、この場で任官式を行い、その後3日間、部隊のルールや運用における秘匿部分などの細かい座学、最低限の武器の扱い方や護身及び制圧訓練等を泊り込みで行います。外出及び外部との連絡は不可。これは秘匿性が高い為の処遇となっている故の処遇なので、特例は認められません。促成栽培に近い形ですが、その先は追々やって行きますので、そのつもりでいきましょう。何かご質問は?」
(外出も連絡も不可!先に言っとけっての!公営ギャンブルの選手並みかよ。ま、その位しないとダメなのは俺でも想像つくけどさ。中年2人捕まえて促成栽培って平気なのか?)
近藤の説明を頭の中で咀嚼しているミサオの横で、クミコが動く。
「あの・・・武器って、拳銃とかですか?」
クミコがおずおずと手を上げて聞く。
「それについては、一応拳銃ですね。・・・と言っても相手は基本人間ではありませんので、特殊な弾丸、人間には非殺傷のスタンピストルみたいな物を使用します。有線では有りませんが。対unknown(アンノウン)用の武器ですね。もちろん射撃訓練はしますよ!」
クミコの疑問にスラスラと答える近藤。
(いきなりチャカではなかったか。俺は海外でモノホン撃った経験あるけどさ。・・・マミにはそれでも大変だろうけどな。あ!それよりも!)
ミサオはクミコに続いて手を挙げる。
「あの、泊り込みなんですよね?でも俺、今夜はトラックの仕事、シフト入ってんですよ!いきなり穴開けらんないっスよ。俺の信用問題に関わりますから。」
「その辺まで考えての要請なんです。ミサオさんの会社にも今日の内に対処しますんで平気ですよ。」
ミサオの質問にも滑らかに答える近藤。
「・・・じゃ、最後に。・・・家族が別行動なんて事は、ありませんよね?・・・絶対に。」
ミサオは真顔で問う。
「それは・・・絶対です。この部隊での運用方針です。というより、最前線で対処する獣人達は、家族と一緒でないと最大限の力が発揮出来ない訳ですから。意味が無いんですよ、別行動は。」
それを聞いて安堵するミサオとクミコ。
「さて、それではコマンダー、任官式の方をお願い出来ますでしょうか?」
「分かった。本部内の動ける人員集めてくれ。すぐに執り行おう。」
斎藤の言葉を聞いて、永井家の方に一礼して退出する近藤二尉。
かくして永井家の3人は、複雑な思いもありながら、晴れて国家公務員となり、得体の知れぬ生き物に対処する毎日を迎える事となる。
永井家夫婦が後で嘆く羽目になる、地獄の3日間を終えてからの話だが。
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何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
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卒業パーティーのその後は
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