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第一章:天醒

第6話:技能

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「スキルストーン……」

 ジト目なシーナが居る。

 何しろ殺人を犯したならば手に入る代物なだけに、ジト目になるのも仕方ない事なのだろう。

「言っとくけど貰い物だ。疚しい事は全く無いぞ」

「まあ、宿す過程で判るんだから嘘を言う意味なんて無い……か」

 実はシーナがスキルストーンを宿させる有資格者、聖職者が資格を持つ様にしており、だからこそユートはシーナに頼む事にした。

「じゃあ、宿すよ?」

「任せた」

 シーナがユートの胸元へ【弓術】のスキルストーンを押し込み、呪文らしきを詠唱しながら力を籠める。

 ズブブと体内に押し込まれていくスキルストーン、完全に体内に入ると一旦はどうやらほどけるらしく、何だか得も知れない感覚に満たされていくユート。

「う、くっ……」

 その過程をユートの瞳は全て視ていた。

 おかしな感覚。

 まるで全てを理解出来た──そんな不思議な感覚をユートは覚えた。

 そしてスキルストーンの溶解が済み、ユートの中に新しい力が芽生える。

 【弓術】LV.1。

 熟練度が上がればレベルも上がって、次第に上手く扱える様になるだろう。

 因みに、スキルは一種の才能だからアーチャーやらスナイパーだから【弓術】を持つとは限らない訳で、今のユートはスキルを持たない専門家からすれば垂涎の的だった。

 LV.1だとはいえど、持たない者からすれば相当なものだから。

 現にシーナの表情に羨望が浮かんでいる。

「成程……ね」

 シーナは手に入れた過程が解ったらしい。

「じゃあ、次いくよ」

 もう一つの【射撃術】をユートに宿すべく、シーナが先程と同じ作業をする。

 程無くして【射撃術】もユートに宿った。

「はい、お仕舞い」

「サンクス、シーナ」

「どう致しまして」

 宿った二つのスキル。

 ユートは早速だが試してみたいと考えた。

「シーナ、弓矢を貸して貰えないか?」

「試すの?」

「ああ、やってみたい」

「了解」

 シーナは自分の物ではない弓矢と、巻き藁に的を付けた標的を用意する。

「素人とはいえスキル持ちだし、多分だけど一〇メートルくらいなら当たるよ」

 本気で素人ならまず的中はしない。

 弓はそれだけ難しくて、ユートは流石に素人ではないにせよ、ちょっと苦手な感じだったりする。


 ユートは借りた弓に矢を番えると、キリキリ……弦を引き絞って堂に入った姿で的に狙いを付けた。

 それは弓術を嗜むシーナをして見惚れる程。

 ユートは全くの素人という訳ではなく、前世に於いて嗜んでいたのだ。

 【緒方逸真流】はそも、武器を選ばないとすら云われる総合的武術、当然ながら弓術も存在していたからユートは前世で弓の修業もしていた訳である。

 其処に【弓術】スキルと【射撃術】スキル、これらのお陰でそんなユートにも多大な恩恵を与える。

 右手の指を放すと風切り音を響かせ、リムの反動で放たれた矢が的へ飛んだ。

 タン! 正鵠を射るには程遠いが、それでもギリギリの一線で端の部分に的中していた。

 前世では何度も外して、可成り練習してからようやっと当たり始めたのを考えたなら、驚く程の成果だと云えなくもない。

 因みに、シーナから弓矢を借りたのは未熟な腕前であのエルフの娘ら、彼女達の弓を引くのは憚られたからである。

 せめて正鵠に一度くらい当ててからと考えた。

 正鵠とはど真ん中の黒い丸部分、正確に当てるにはそれなりに練習を積むだけの時間が必要。

 スキルはレベルが低い内
は補助輪でしかないのが、レベルが高くなったら今度は増幅器の役割を果たす。

 1~3くらいまでなら、【弓術】の場合はちょっとした命中補正が掛かるにすぎないのか、レベルが4を越えた辺りから威力や距離が明らかに有り得ない伸びを示す。

 弓の最大有効射程を間違いなく越えるのだ。

「そういやさ、シーナって【弓術】や【射撃術】とかのスキルは?」

「無いよ。スキルはぶっちゃけると才能なんだもん。前世では一握りの天才か、努力した秀才に与えられていた感じ。このヴィオーラでは発現し易い傾向にあるんだけど、残念ながら私にはどちらも付いてない」

 スキルが無くても好きに武器を選ぶが、有れば有利で便利という話だ。

 実際、持っている者なら騎士だと騎士団長とかにもなっているし、少し若ければ部隊長クラスで最低でも副隊長やら“長”の付いた役職に在る。

 冒険者でもBランクともなれば、スキルを高めている者ばかりだった。

 スキルの無い者でも努力すれば追い付くだろうが、並大抵の努力ではそもそも努力とは呼べない。

 スキル持ちが胡座を掻いているのならまだ兎も角、彼ら彼女らだって基本的に努力をしているのだから。

 スキルという才能を得るとはつまりそういう事。

 ユートはスキルを獲て、シーナは持っていない。

 弓術の実力ではいずれ、ユートがシーナに追い縋りやがて追い抜く筈。

 とはいえ、シーナだって【弓術】や【射撃術】以外のスキルは持つ。

 だからこそのスキルとは=才能の図式。

 スキルには装備スキルと能力系スキル、それ以外に体質系スキルが在る。

 装備スキルは武具を扱う巧さを示すスキル。

 能力スキルはアクティブに使用するタイプであり、逆に体質スキルはパッシブで謂わば常に肉体へ作用をするスキルだ。

 例えば【鑑定】スキル、使えばレベル次第で様々な情報を得られる能力スキルの一つで、魔法にも劣化版が存在しているモノ。

 体質スキルは【治癒促進】や【○○耐性】など。

 【炎耐性】や【毒耐性】などは地味に便利。

 とはいってもヒト種族、中でも霊人属ヒューマンと呼ばれるユート達は、ゲームにありがちな平均的なパラメーターに耐性無しとか、何処まで往ってみても平凡だったりする。

 なら耐性をどの様に付けたら良いか?

 スキルストーン、正しくは【技能石】と銘打たれたこのアイテムは、スキルを持つ生き物が死んだ際に低い確率で落とす。

 それは魔素から生まれた魔物も同じ事。

 つまり、魔物を斃したら低確率ながらドロップアイテムとして手に入る。

 違いはヒト種族も落とすという事実、あのエルフの少女らがそうだった様に。

 例えば、ブレイズ・サラマンダーを狩っていたら落としたとされる【炎耐性】スキルのスキルストーン、スノーマンを斃したら出た【氷耐性】スキルのスキルストーンといった感じに。

 スキルストーンをドロップする確率は低めだから、売却すれば可成りのお金を獲られるし、使えばスキルを修得が出来ると美味しいのは間違いない。

 実の処だと、エルフ娘がスキルストーンを遺したのは本当に偶然、降って沸いた不幸に対するかの如くの幸運だと云っても良い。

 ユートがスキルストーンを手に入れられたのは本当に僥幸、だからこそ大事に使わねばならないのだと、ユートは思っていた。

 タン! タン!

 幾度放っても的中する。

 流石に元々の腕前が良くなかったのと、スキルを得たばかりでレベルが低いのが相俟って正鵠には当たらないにせよ、無様に外す事だけは無い様で安心した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「スキル……か」

 ユートが持つスキル。

 【氣功術】と【射撃術】と【弓術】の三つ以外に、【叡智瞳】と【錬成】というスキルを持っていた。

 神社に在るスキルを調べる為の魔導具で改めて調べたら、生まれた時には無かったスキルが……

 それが【叡智瞳】スキルと【錬成】スキル。

 使い方がいまいち判らなかったし、今までの二ヶ月は特に気にもしていなかったスキル、今回の件で流石に嫌でも意識を向けて調べた矢先にこれだ。

 恐らく【叡智瞳】は魔眼の類い、体質系スキルというやつだろう。

 【錬成】はアクティブに扱うスキル、能力系スキルに該当すると思われた。

 どうしてこんなスキルが出ている?

 少なくとも【氣功術】に関してはサリュートが曰く生まれつき、つまり誕生時に調べた結果持っていた事は確認済みだった。

「あの星神様、まさかとは思ったが勝手にちーとを付けやがったな?」

 有り体に云えばユートが覚醒したと同時に発現したスキル、正にアーシエルが勝手にちーとぱぅわぁを付けたと考えて間違いない。

 別に要らないと言ったのに付けるとか、神様というのは勝手なものだと嘆息をするユートだが、在るものは有効に活用をするしかなかった。

 在るのに使わずピンチ、それはユートのスタイルではないのだから。

 ユートは思い出す。

 それはスキルストーンをシーナに入れて貰った時、その力の流れを奔流を……理解している、理解が確実に出来ている……あの魔眼のスキルは視たモノの本質を見抜けるのだと。

 レベルがやけに高いが、恐らくONとOFFが出来ていなかったから、勝手に熟練度が上がってレベルアップしたのだろう。

「そうなると覚醒と同時に得たんじゃなく、覚醒前は隠されていたのかも知れないな……」

 魔力。

 魔法の力の源。

 根源から分かれた支流、神の奇跡の超劣化品。

 設計図をプログラミングしてやれば、魔力は奇跡の劣化模造品として働く。

 即ち、魔法。

 神の奇跡を模倣した魔の法則を体現する技術。

 だけど、ユートは更なる一歩とも云える形で法則を動かした。

 イメージをプログラミングに見立て、法則化をして形を成す顕現化マテリアライズする原始的な技法であったと云う。

 ユートが目の前へと手を翳して、魔力をイメージに沿って流して形を固着。

 凄まじいまでの精神力を持っていかれ、下手をすれば倒れかねない勢いで減っていき、目眩すら感じてきたけど何とか形を成す。

 虹色に輝く一枚のカードが放つ光が、まるで物語の始まりを告げるかの如く、目映く放たれていた。

「本当に出来た……な」

 カードを手に、全身を汗でびっしょりとなりながら呟くユート。

「まあ、一枚だけ作るのにMPがほぼエンプティとか笑えないけどな」

 造り上げた後の精神力が空っぽに近い。

 ユートは森での魔物狩りや前世での経験を加味し、MMO-RPG風に云うとレベルが10を越える。

 普通の村人ならレベルは精々が3~5程度、良くて戦闘経験者が8もあれば御の字といった処。

 学院が存在している現在なら、レベルが14とかも珍しくなくなっている。

 サリュートはギルドでの測定では、レベル183であるとされていた。

 サリュートの冒険者としてのランクはA、流石にSには届かないにしても相当な実力者だ。

 それを鑑みれば他種族なら駆け出しの冒険者並にはユートも力を持ち、それなりに精神力の方も高い筈なのだが……

「エンプティ寸前って事は一回につき、こいつを作るには数値的に80くらい。少なくともレベルが20を越えないと一日に二枚とかは無理って訳か」

 虹色のカードをピラピラさせて、右の方の目だけで見遣りながら呟いた。

「名前が必要だな」

 初めて造った魔導具。

「僕の持つ技能をコピー、他人に導入出来るカードだから――インストール・カードって名前にするか」

 インストールにはされる側にも負担を強いるけど、造るユートも相当な負担が掛かっているし、量産向きなものではないのは確かなのだろうが、便利に使える力でもあった。

「さて、取り敢えずシーナには実験に付き合って貰うかな。上手くすれば……」

 そして翌朝、サリュートから教わった日課を熟したユートはシーナの神社きょうかいに居る。

「今日はどうしたの?」

 修業後にちょっと話したいと、シーナも日課の掃除をしている時に伝えてあったから、ユートが用事があるのは判っていた。

「これを」

「カード? 日本語で弓術とか書いてるけど……」

「それは僕が造った魔導具でね、インストール・カードって名付けた」

「インストール・カード? 魔導具マジックアイテムなんて造れたの?」

「昨夜、検証したんだよ。今までは気にしなかったんだけど、スキルストーンでスキルを得てからちょっと気になったから」

「ふーん、昨日調べていたよね。で? これって効果はどんなの?」

「僕の中に在るスキル……その中でもユニーク以外のスキルをコピー、他者へとインストールが出来る」

「っ!?」

 書いてある文字は【弓術】である。

「それって、まさか!」

「量産には向かないけど、する必要もないな。それをシーナの体内に容れたら、君に【弓術】スキルが宿る筈なんだ。その実験というか試験に付き合ってくれ。上手く働けば【弓術】を獲られるのが報酬」

「失敗だったら?」

「ごめんなさい」

 行き成りDOGEZA、それはもう綺麗な。

「プッ、判ったよ」

 シーナは虹色のカードを受け取り、それをマジマジと見つめながら訊く。

「使い方は?」

「使いたいと思いながら、カードを胸元に押し付ける感じに。縦にして押し込んでいくんだ」

「胸元って、素肌に?」

「イグザクトリー」

「そっか……」

 微笑むシーナに……

「あっち向け、スケベ!」

「どどんぱ!?」

 蹴り飛ばされました。

 シーナは巫女装束の胸元をはだけ、インストール・カードを言われた通りに。

「インストール開始」

 口に出すとイメージし易かった。

 ズブッ……

「んっ!?」

 ズブブッ!

「んんっ!?」

 徐々にカードがシーナを侵していく。

 元々が魔力の塊を顕在化させた物、使用者の体内に入れば魔力へと還り効果を発揮する訳で、それは一種の内服薬に近いだろう。

 とはいえ、全く他人様の魔力が直に入り込むからであろうか、その過程で拒絶反応ではないが身体が過剰な反応を示し、使用者への負担を強いていた。

 これが男なら単に熱いと感じるだけだが、女の子がやるとちょっと性的な――所謂、気持ち良くなってしまうらしい。

 今、シーナは正にそんな感覚に襲われて幼めな肢体をまさぐられている感覚を覚え、漏れ出る嬌声を聞かれるのが恥ずかしくて口を押さえ込んでいた。

 御股に力が入らずペタンと女の子座りにヘタリ込んでしまい、汗を流しながら涙が溢れ零している。

「ダメ、こんな……感覚、怖い怖い怖い!」

 だけどそんなシーナにはこの感覚に恐怖を感じているらしく、熱い肢体と裏腹に表情が青褪めていた。

「いや、ヤダヤダヤダ! こないでぇぇぇぇっ!」

 流石にユートも想定外、どんな感覚が出るかシミュレートはしていたのだが、何かを間違ったのかと思ったくらい過剰反応だから。

「シーナ、大丈夫か?」

「ヒッ!」

 明らかな恐怖。

 感覚がどうというより、そういう肢体の反応自体を恐れている……その過程でユートというより異性に対する恐怖すら持っていた。

 過去に某かあったのかも知れない。

「んんんっっっ!?」

 そしてインストール・カードは完全にシーナの中へ潜り込み、その瞬間に溶けて消えると内包されていた情報が意味あるモノとしてシーナに焼き付けていく。

 まるでパソコンにソフトの内容をセットアップするかの如く書き込まれる為、完全に書き込みが終了をするとスキルが発現した。

 グッタリとなるシーナ、一二歳の幼い肢体ながらもその姿は何処かしら妖艶、子供とはとても思えない様な色香を放ち、ユートは思わず固唾を呑んだ。

「ハァハァ……ごめんね、変な処を見せちゃって」

「い、いや……」

「ちゃんとスキルは発現をしてるみたい」

「そ、そっか。それは良かったよ」

 その後、シーナはすぐに魔導具で調べた。

 【弓術】LV:1。

 発現を確認後、弓矢と的を用意して試し射ち。

 数発を放って全てが心臓に位置する場所、正鵠を射抜くシーナの笑みはユートに得も知れぬ恐怖を与えていたと云う。


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