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染む紫の雲上まで
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―後の世もまた後の世も巡りあへ-
この世界には古くから伝わる不思議なお話がある。白銀の髪を持つ乙女によってこの世界が支えられているという、おとぎ話のようなお話が。
そのおとぎ話は白銀の乙女は最後に神殿で女神とともに幸せに暮らしました…と締め括られる
女神と過ごすことが幸せなのだろうか?他の大切な人を全て失って、それでも女神と過ごすことが幸せなのだろうか?
18歳になったある日、屋敷に神殿の使いがやってきた。私のことを「聖なる女神に捧げられる白銀の乙女」だというのだ。
あれはおとぎ話ではなかったの?
…おとぎ話などでは無かったのだ、いやこれからは私がおとぎ話の中の人になる。乙女が現れるのは300年に一度だけ。全ての人が私を、私という個人を忘れたときに、[私]が白銀の乙女として立った事実を知るものが居なくなったとき、私はおとぎ話になる。歴代の乙女がそうであったように…
「白銀の乙女はある組織から命を狙われます。これから神殿に向かうまでにあなたを失わないために、あなたに1人護衛をつけます。」
神官の紹介に頭を下げた1人の男性。燃えるような赤い髪に、同じような赤い瞳。
「この男はとても腕のたつ騎士ですので、あなたをお守りするのにはこれ以上ないほどの適任となるでしょう。」
乙女が現れ、旅に出たことは多くの人に知られてはいけない。乙女が死ねば世界が停滞を迎えるが、その停滞を望んでいる人がいるから。神官はさらに続けた。
「誰にも知られず動くためあなたに1人しか護衛をつけられないことをお許し下さい。とはいえ乙女はこの世界の宝です。失うわけにはいかない。どうかこれをお持ちください。」
渡されたのは海のように深い青い宝玉。光に透かすと羽のような紋様が浮かび上がった。
「それはあなたの命を守る宝玉です。願わくばそれが使われることのないよう…。」
女神様の加護を。
そう言って神官は去っていった。1つの宝玉と、正反対の色をした1人の騎士を残して。
あと少しで神殿なのに…ここまで、来たのに…
赤の騎士と2人の旅は楽しかった。これから先の未来など私にはないと分かっていたのに、それでも明日を迎えるのが待ち遠しくなるほどに。
しかし女神の神殿まであと少しというとき、真っ白なローブを纏った集団が私たちに襲いかかってきた。彼らが神官の言っていた停滞を望む者たちだろう。私を殺そうと狙ってくるのが分かる。目の前に刃が迫ったとき、後ろから引き寄せられた。少し離れたところで他の者と交戦していた赤の騎士だった。
「白銀の乙女…いえリィナ。ここは私に任せて早く神殿へ。あなたを失うわけにはいかない。」
初めて名前を呼ばれた。初めて呼ばれたのに…
「あなたに仕えられて、あなたを守る役目をいただけて、私は幸せでした。最後までお供できず、申し訳ありません。」
そのまま私の背を押した。寄ってくる白いローブの者たちを斬り捨てる赤の騎士を見つめ、すぐに目をそらし神殿に向かって走り出す。
…分かっていた。彼がどれだけ強かろうともあれだけの相手に無事ではすまないであろうこと。ここに彼を残せば、二度とあうことはないであろうこと。それでも止まるわけにはいかなかった。世界を停滞させるわけにはいかなかった。
「感謝します。私の騎士、赤のバーレーン!」
そう叫んで走る。後ろを振り向かず、ただ神殿に向かって走る。初めて彼の名前を呼んだ、初めて彼に感謝を伝えた。立った1人の私の騎士に。
走って走って、途中で白いローブの者がバーレーンの手を逃れて私に斬りかかってきたが、青い光が私を包み、襲い来るものから私をまもる。神官の渡してきた宝玉だ。バーレーンが側にいれば、使われることの無かった宝玉だ。
青い光に守られながら私はやっと神殿にたどり着いた。女神の加護のあるここへは私と女神の認めた者しか入れない。白いローブの者たちが入ってくるとこは出来ない。
女神の祭壇で舞を捧げる。そうすれば私の役割はおしまいだ。過去に女神に捧げられた乙女のように、女神のお側で過ごすことが出来る。
それでも私はそれを望まない、女神の側で過ごすことは私にとってなんの救いにもならない。私の救いは次の世でも彼とともにあることだ。彼が主でも、私が主でも、もっと他の関係でも構わない。とにかく彼に、また会いたい。
舞を捧げたあと、祭壇が光に包まれた。あまりの眩しさに目をつぶる。やっと光が収まり目を開くと、祭壇の上に1つのカップが置かれていた。私は全てを悟り、迷わずカップに口をつける。体中から力が抜けていく。目だって霞だした。それでもよかった。だってこれは私が望んだことだ。女神の側ではなく、もう一度命の流れに戻る。そうしてまた彼に会うのだ。
大切な私の騎士、バーレーンに
そうやって何度でも巡って、巡って、それでもまた彼に会うのだ。
だってバーレーンは私の、リィナの騎士だ。そしてリィナはバーレーンの主だ。
女神にだって切らせるものか、私たちの契りはそんなに甘いものではないのだ。
あぁ、ほら彼が立っているのが見えるわ、
私の大好きな柔らかい微笑みを浮かべて、じっとこちらを見ているの。
待っていてくれたのね、バーレーン。
えぇ、リィナ。私はあなたの騎士ですから。
空の上にだってご一緒しますよ
―後の世もまた後の世も巡りあへ
染む紫の雲の上まで―
この世界には古くから伝わる不思議なお話がある。白銀の髪を持つ乙女によってこの世界が支えられているという、おとぎ話のようなお話が。
そのおとぎ話は白銀の乙女は最後に神殿で女神とともに幸せに暮らしました…と締め括られる
女神と過ごすことが幸せなのだろうか?他の大切な人を全て失って、それでも女神と過ごすことが幸せなのだろうか?
18歳になったある日、屋敷に神殿の使いがやってきた。私のことを「聖なる女神に捧げられる白銀の乙女」だというのだ。
あれはおとぎ話ではなかったの?
…おとぎ話などでは無かったのだ、いやこれからは私がおとぎ話の中の人になる。乙女が現れるのは300年に一度だけ。全ての人が私を、私という個人を忘れたときに、[私]が白銀の乙女として立った事実を知るものが居なくなったとき、私はおとぎ話になる。歴代の乙女がそうであったように…
「白銀の乙女はある組織から命を狙われます。これから神殿に向かうまでにあなたを失わないために、あなたに1人護衛をつけます。」
神官の紹介に頭を下げた1人の男性。燃えるような赤い髪に、同じような赤い瞳。
「この男はとても腕のたつ騎士ですので、あなたをお守りするのにはこれ以上ないほどの適任となるでしょう。」
乙女が現れ、旅に出たことは多くの人に知られてはいけない。乙女が死ねば世界が停滞を迎えるが、その停滞を望んでいる人がいるから。神官はさらに続けた。
「誰にも知られず動くためあなたに1人しか護衛をつけられないことをお許し下さい。とはいえ乙女はこの世界の宝です。失うわけにはいかない。どうかこれをお持ちください。」
渡されたのは海のように深い青い宝玉。光に透かすと羽のような紋様が浮かび上がった。
「それはあなたの命を守る宝玉です。願わくばそれが使われることのないよう…。」
女神様の加護を。
そう言って神官は去っていった。1つの宝玉と、正反対の色をした1人の騎士を残して。
あと少しで神殿なのに…ここまで、来たのに…
赤の騎士と2人の旅は楽しかった。これから先の未来など私にはないと分かっていたのに、それでも明日を迎えるのが待ち遠しくなるほどに。
しかし女神の神殿まであと少しというとき、真っ白なローブを纏った集団が私たちに襲いかかってきた。彼らが神官の言っていた停滞を望む者たちだろう。私を殺そうと狙ってくるのが分かる。目の前に刃が迫ったとき、後ろから引き寄せられた。少し離れたところで他の者と交戦していた赤の騎士だった。
「白銀の乙女…いえリィナ。ここは私に任せて早く神殿へ。あなたを失うわけにはいかない。」
初めて名前を呼ばれた。初めて呼ばれたのに…
「あなたに仕えられて、あなたを守る役目をいただけて、私は幸せでした。最後までお供できず、申し訳ありません。」
そのまま私の背を押した。寄ってくる白いローブの者たちを斬り捨てる赤の騎士を見つめ、すぐに目をそらし神殿に向かって走り出す。
…分かっていた。彼がどれだけ強かろうともあれだけの相手に無事ではすまないであろうこと。ここに彼を残せば、二度とあうことはないであろうこと。それでも止まるわけにはいかなかった。世界を停滞させるわけにはいかなかった。
「感謝します。私の騎士、赤のバーレーン!」
そう叫んで走る。後ろを振り向かず、ただ神殿に向かって走る。初めて彼の名前を呼んだ、初めて彼に感謝を伝えた。立った1人の私の騎士に。
走って走って、途中で白いローブの者がバーレーンの手を逃れて私に斬りかかってきたが、青い光が私を包み、襲い来るものから私をまもる。神官の渡してきた宝玉だ。バーレーンが側にいれば、使われることの無かった宝玉だ。
青い光に守られながら私はやっと神殿にたどり着いた。女神の加護のあるここへは私と女神の認めた者しか入れない。白いローブの者たちが入ってくるとこは出来ない。
女神の祭壇で舞を捧げる。そうすれば私の役割はおしまいだ。過去に女神に捧げられた乙女のように、女神のお側で過ごすことが出来る。
それでも私はそれを望まない、女神の側で過ごすことは私にとってなんの救いにもならない。私の救いは次の世でも彼とともにあることだ。彼が主でも、私が主でも、もっと他の関係でも構わない。とにかく彼に、また会いたい。
舞を捧げたあと、祭壇が光に包まれた。あまりの眩しさに目をつぶる。やっと光が収まり目を開くと、祭壇の上に1つのカップが置かれていた。私は全てを悟り、迷わずカップに口をつける。体中から力が抜けていく。目だって霞だした。それでもよかった。だってこれは私が望んだことだ。女神の側ではなく、もう一度命の流れに戻る。そうしてまた彼に会うのだ。
大切な私の騎士、バーレーンに
そうやって何度でも巡って、巡って、それでもまた彼に会うのだ。
だってバーレーンは私の、リィナの騎士だ。そしてリィナはバーレーンの主だ。
女神にだって切らせるものか、私たちの契りはそんなに甘いものではないのだ。
あぁ、ほら彼が立っているのが見えるわ、
私の大好きな柔らかい微笑みを浮かべて、じっとこちらを見ているの。
待っていてくれたのね、バーレーン。
えぇ、リィナ。私はあなたの騎士ですから。
空の上にだってご一緒しますよ
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