「君とは契りを結ばない」と言った夫は、悲しい秘密を持っていた

山河 枝

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35 アレンの正体

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(そんな、まさか……思い過ごしよ。本当は、アレンこそがオスカー・バートレットだなんて)

 そう思おうとしたけれど、見れば見るほど、アレンの面立ちは夫のオスカーにそっくりだ。
 少し口角の上がった唇も、ゆるくアーチを描く眉も、深い青の瞳も。

(オスカーとアレンは、血が繋がっているから?)

 だとしても、やっぱり変だ。
 この世界で、アレンをいじめるオスカー……《オスカー》は、極端なまでに両親に可愛がられて、アレンを見下す子どもなのだ。

 けれど、夫のオスカーは言っていた。

『子どもだった僕に、優しくしてくれたのは《彼女》だけ。読み書きも、計算も、国々の名前も……人の温もりを教えてくれたのも、《彼女》だけだ』

 あの言葉が本当なら、オスカー・バートレットと《オスカー》は、同一人物とは思えない。
 むしろ、夫のオスカーに近いのはアレンの方だ。家族に虐げられて、頼れる人もいないのだろう。ただ、毛布にくるまり寒さに震えて……。
 
 考え込む私の肩に、ぽすんと何かが当たる。アレンが頭をもたせかけていた。

「あ……アレン、ごめんね。ぼーっとしてた。次の文字、教えようか」
「ううん。そうじゃなくて……アリスがずっと一緒ならいいのになあって、思っただけ」

 そう言うアレンの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。

「こんなに優しくしてくれるの、アリスだけだもん」
「!」

 また、耳にオスカーの声がよみがえる。

『優しくしてくれたのは、《彼女》だけ』

 やはり、アレンは私の夫なのだろうか。それなら、彼が想い続ける《彼女》は──私?
 だけど、どうして髪の色が違うのか。なぜ、オスカーと名乗っているのか。
 彼に聞きたい。あなたはアレンなのか、と確かめたい。

(でも、もし予想が外れてたら? 夫のオスカーが、アレンをいじめている《オスカー》だとしたら……)

 元の世界に戻り、「あなたはアレンなの?」と尋ねた時、どんな反応が返ってくるかわからない。

(もっと、遠回しに確かめる方法はないかしら。たとえば、誰も知らないことをアレンに教えて、それをオスカーが知っていたら、2人は同じ人物ということになる……)

 アレンの頭をなでながら考えていると、思いつきが1つ、パッと浮かんだ。
 それを実行するため、私はアレンに声をかけた。

「アレン、ちょっと休憩してもいい?」
「大丈夫! おれ、まだ元気だよ」
「私が疲れちゃったの」

 そう言うと、アレンは「あっ」と声を上げて、

「ごめん、気付かなくて」

 と、落ち込んでしまった。

(私こそ、嘘をついてごめんね。だけど、どうしても確かめたいの)

 心の中で謝りながら、私はアレンにまた声をかけた。

「あのね、提案があるんだけど」
「提案……?」
「なぞなぞを出すから、休憩がてら考えてみない?」
「なぞなぞ? うん、やる!」

 アレンの顔が、お日さまが差したように明るくなった。

「なんか楽しそう! よくわかんないけど!」

 ……なぞなぞが何か、わかっていないらしい。とはいえ、難しいルールがあるわけでもなし。すぐ理解できるだろう。
 私は苦笑して、顔の前で人差し指を立てた。
 
「じゃあね、問題です。自分のものなんだけど、持っていることになかなか気付けなくて、1人で捨てることが難しいもの。なーんだ?」
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