「君とは契りを結ばない」と言った夫は、悲しい秘密を持っていた

山河 枝

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44 窓の外

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「《オスカー》って、今もこの家に住んでるの?」

 予想通り、アレンはちょっと嫌そうな顔をしたけれど、思っていたよりもあっさりとうなずいてくれた。

「そうだよ。どこにいるかはわからないけど」
「わからないって……どういうこと?」

 アレンは、「当たり前じゃないか」と言いたげに片眉を上げた。

「だから、わからないんだよ。天井裏にいるかもしれないし、窓の外にいるかもしれない。タンスの中かも。だって、あいつは《天使》だもん。……今もどこかから、おれたちを見てるかもしれない」

 最後のひと言は、私の耳元ですばやく告げられた。

 急に、背後から視線を感じた気がした。私はそうっとうしろを向いた。
 だけど、そこにはカビの生えた壁があるだけ。こっそり胸をなで下ろした、その直後。

「ひっ!」

 アレンの声で、私まで悲鳴を上げそうにあった。
 慌てて隣を見ると、彼は毛布の中で縮こまって、ブルブル震えている。

「どうしたの? 寒いの?」
「しーっ! 今、窓が揺れなかった?」
「それは……風が吹いているもの」
「本当に風? 外に、何もいない? あいつの真っ白な髪が、見えたりしない……?」

 私の肩が、無意識にビクッと跳ねた。《オスカー》が、窓に張りついているとでもいうのだろうか。

(そんな。そんなわけ、ないわ)

 ゆっくりと視線を移し、木製窓の割れた隙間から外を見る。以前と変わらず、星ほどの光すらない、真っ暗闇が横たわっているだけだ。
 
「何もいないわよ」

 できるだけ穏やかに言ったけれど、アレンの不安はぬぐえなかったらしい。

「本当に……? でも、オスカーの悪口をいっぱい言っちゃったから、あいつ、おれのこと怒ってるかも……アリスも隠れた方がいいよ」

 そう言って、完全に毛布に埋まってしまった。
 アレンがあまりに必死なので、逆におかしさが湧いてきて、恐怖が消えてしまった。

(駄目、駄目。笑ったら悪いわ。それにしても必死というか、妙に信じ込んでるというか、異様なほど頑なに思い込んでるというか……思い込んでる?)

 そう考えた時、目の前が暗くなって、体がぐらりと傾いた。
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