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58 天使の名を持つ村
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ベリンダさんを見送った私は、すぐに書庫へ向かった。
この国の地図を引っ張り出して、机に大きく広げる。
(天使……天使……あった!)
天使という言葉を含む村が、4つ見つかった。
(これで、だいぶ絞れたわ)
順番に当たろうか、と思ったけれど、問題がある。
4つの村の位置は、東西南北バラバラだ。すべてを回る時間はない。離婚の成立が先だろう。
ジェイクが時間を稼いでくれているけれど、オスカーからせっつかれれば、従わざるを得ないはずだ。
(どうしよう……)
ベリンダさんは、ほかに手がかりを残してくれなかっただろうか。
考えたけれど、ピンとこない。
(というか、『村がどうとか天使がどうとか』って……そんな言い方じゃわからないわ)
あまりにも雑な言葉選びに、腹立たしさより苦笑いが込み上げてくる。
(まあ、私の聞き方も悪かったけど。『何でもいいから教えて』なんて、かえって思い出せないわよね。『地名』って伝えていなかったら、どうなっていたかしら)
オスカーの過去は、ナンシーもジェイクも知らないのだ。お手上げだったに違いない。
そう思った時、ある考えが浮かんだ。
以前、ジェイクたちが私の質問に答えられなかったのは、私の聞き方がまずかったせいかもしれない。
(村の場所を知りたいだけなんだから、オスカー本人のことを聞かなくてもいいんだったわ。質問を変えて、もう一度聞いてみよう)
私は書庫を出て、オスカーの仕事部屋へ向かった。そこには、紙へ何を書きつけているジェイクがいた。
ジェイクは私に気付くと、サッと紙を裏返して微笑んだ。
「奥様。お客様のご対応で、お疲れになられたでしょう。少し休まれては?」
彼の手の下にあるのは、たぶん、離婚に必要な書類だろう。本当に、急がなくてはいけないみたいだ。
「大丈夫、平気よ。それより聞きたいことがあるの。オスカーが、ここへ来る前のことについて」
すると、ジェイクはすまなさそうに眉を下げた。
「そのことですが、以前もお話ししましたように、お役には立てないかと……」
「あっ、違うの! 彼の故郷のことを詳しく知りたいんじゃないの」
「と、申されますと?」
「デズモンド様が、オスカーを連れて帰ってきた時のことを聞きたくて」
すると、ジェイクは懐かしそうに目を細めた。
「そうですね……あれはたしか、綿製品の工場とご契約なさるため、しばらくお屋敷をお留守になさった時でしたね」
綿製品の工場はあちこちにある。まだ、どこの地方か特定できない。
「その時、工場以外にどこか立ち寄ったとか、おっしゃっていなかった?」
「工場以外に、ですか? ええと……」
ジェイクは天井を仰いで、顔をしかめた。
「病院を慰問なさって、それから……そうそう、お土産にワインを買われていましたね。高価でしたから、丁重にあつかわなければ、と緊張したのを覚えています」
「高価なワイン……それならホワイト侯爵領か、ファストン子爵領かしら。デズモンド様は、どんなワインをお好みだったの?」
「果実の風味が強いものを、好まれていました。その時に買われたワインも、ずいぶんお気に召していらっしゃいましたね」
それなら、たぶんホワイト侯爵領だ。
(だとしたら、西……)
村の場所は絞れた、と思う。どうか予測が当たっていますように、と祈って、私はジェイクに手を合わせた。
「ジェイク、あのね。お願いがあるの。明日の朝早く、馬車を出してもらえないかしら?」
この国の地図を引っ張り出して、机に大きく広げる。
(天使……天使……あった!)
天使という言葉を含む村が、4つ見つかった。
(これで、だいぶ絞れたわ)
順番に当たろうか、と思ったけれど、問題がある。
4つの村の位置は、東西南北バラバラだ。すべてを回る時間はない。離婚の成立が先だろう。
ジェイクが時間を稼いでくれているけれど、オスカーからせっつかれれば、従わざるを得ないはずだ。
(どうしよう……)
ベリンダさんは、ほかに手がかりを残してくれなかっただろうか。
考えたけれど、ピンとこない。
(というか、『村がどうとか天使がどうとか』って……そんな言い方じゃわからないわ)
あまりにも雑な言葉選びに、腹立たしさより苦笑いが込み上げてくる。
(まあ、私の聞き方も悪かったけど。『何でもいいから教えて』なんて、かえって思い出せないわよね。『地名』って伝えていなかったら、どうなっていたかしら)
オスカーの過去は、ナンシーもジェイクも知らないのだ。お手上げだったに違いない。
そう思った時、ある考えが浮かんだ。
以前、ジェイクたちが私の質問に答えられなかったのは、私の聞き方がまずかったせいかもしれない。
(村の場所を知りたいだけなんだから、オスカー本人のことを聞かなくてもいいんだったわ。質問を変えて、もう一度聞いてみよう)
私は書庫を出て、オスカーの仕事部屋へ向かった。そこには、紙へ何を書きつけているジェイクがいた。
ジェイクは私に気付くと、サッと紙を裏返して微笑んだ。
「奥様。お客様のご対応で、お疲れになられたでしょう。少し休まれては?」
彼の手の下にあるのは、たぶん、離婚に必要な書類だろう。本当に、急がなくてはいけないみたいだ。
「大丈夫、平気よ。それより聞きたいことがあるの。オスカーが、ここへ来る前のことについて」
すると、ジェイクはすまなさそうに眉を下げた。
「そのことですが、以前もお話ししましたように、お役には立てないかと……」
「あっ、違うの! 彼の故郷のことを詳しく知りたいんじゃないの」
「と、申されますと?」
「デズモンド様が、オスカーを連れて帰ってきた時のことを聞きたくて」
すると、ジェイクは懐かしそうに目を細めた。
「そうですね……あれはたしか、綿製品の工場とご契約なさるため、しばらくお屋敷をお留守になさった時でしたね」
綿製品の工場はあちこちにある。まだ、どこの地方か特定できない。
「その時、工場以外にどこか立ち寄ったとか、おっしゃっていなかった?」
「工場以外に、ですか? ええと……」
ジェイクは天井を仰いで、顔をしかめた。
「病院を慰問なさって、それから……そうそう、お土産にワインを買われていましたね。高価でしたから、丁重にあつかわなければ、と緊張したのを覚えています」
「高価なワイン……それならホワイト侯爵領か、ファストン子爵領かしら。デズモンド様は、どんなワインをお好みだったの?」
「果実の風味が強いものを、好まれていました。その時に買われたワインも、ずいぶんお気に召していらっしゃいましたね」
それなら、たぶんホワイト侯爵領だ。
(だとしたら、西……)
村の場所は絞れた、と思う。どうか予測が当たっていますように、と祈って、私はジェイクに手を合わせた。
「ジェイク、あのね。お願いがあるの。明日の朝早く、馬車を出してもらえないかしら?」
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