魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝

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2章 破れた日記

?月?日 晴れ

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今日は、ウィルブローズ様と街を散歩した。孤児院に顔を出して、露天を冷やかして、公園で休んで……ほとんどずっと、手を繋いだまま。
ウィルブローズ様、あんなに照れなくてもいいじゃない。色んな意味で恥ずかしかったわ。
動きはぜんまい仕掛けのブリキ人形みたいだったし。詰め物でもしてるのかってくらい肩をいからせて。

でも、肌は意外ときれいだったなあ。白くてすべすべしてた。「戦争はもちろん、国境の小競り合いにも魔術師は呼び出されるんだよ」ってペンドラ先生が言ってたから、過酷な環境に身を置いて、肌も荒れてるのかと思ってた。
私の方が、日焼けしてる上にかさついてるかも。

そうそう、右手の親指の付け根に、四つ葉のクローバーみたいなあざがあったわ。
力もけっこう強かった。手がちょっと痛いとすら思った。ウィルブローズ様が馬鹿みたいに緊張してたからかもしれないけど。

広場の大道芸を見てる時だけは、少し笑ってたわね。あれはきれいな顔だったな……って私、何書いてるのかしら。
もうやめとこ。色々思い出してたら、照れくさくなってきたわ。

そうそう、思い出すといえばマリさんの話よ。散歩の途中で思い出したの。
ウィルブローズ様は離婚するつもりなのかってマリさんに聞いた時の、「お答えしかねます」。
あれはどういうことですかって聞いたら、ウィルブローズ様はそんなの考えたこともなくて、だからマリさんは答えられなかったらしいの。ウィルブローズ様が言ったことしか、頭の中に入ってないから。
それ、なんだか人間じゃないみたいなんだけど……。

今日嬉しかったことは、もう書いちゃったわね。というわけで、今日あったこと全部!

明日は何をしようかな。
あ、そういえばカレンダーがなくなってたっけ。捨てられたのかなあ。もったいない。
だとしたらラウルさんに言って、新しいのをもらわなくっちゃ。安物でいいから。安物でいいから!

ジェフローラ様のお手紙も、そろそろ届くかな? 何が書いてあるんだろう。ウィルブローズ様、昔のことは全然話さないから気になってたのよね。
そういえば今朝も、「ジェフローラ様から何も聞いてないですよね? 本っ当に何も聞いてませんね⁉︎」って私に詰め寄ってきたわ。
まったく、何を隠したいのかしら?

昔のことどころか、私と結婚した理由すら教えてくれない。聞いても、真っ赤になって黙っちゃう。
手を繋ぐのだって、今日が初めて。冗談半分で、「これからも二人で出かける時は、手を繋ぎましょうか?」って聞いてみたけど、すごい勢いで首を振りながら「とんでもない!」。
そこまで拒否されると、かえってやりたくなるわね。

でも、あんまり追い詰めたら逃げられそうだしなあ。かといって悠長に待ってたら、キスもしないままおばあちゃんになっちゃいそう。
だから……ジェフローラ様、また宿題を出してくれないかしら。
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