無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

文字の大きさ
16 / 42
第一章 公爵令嬢の姉

16 そして姉を辞めることになりました

しおりを挟む
 父が直接魔術を使わないだけマシだと私は耐えた。
 耐えながら、意識が彷徨さまよっていたのだろう。
 昔の事を色々と思い出していた。
 だから延々と続く父の罵倒に、思わず答えていた。

「貴様はなんと恥知らずな、この愚か者。貴族は学園を卒業するものだ。退学になるなどありえん。貴様は貴族社会から追放されたのだ。どの面下げて、我が公爵家に帰ってきた。学園長に退学を取り消して貰うまで謝り続けるのが筋だろう、この痴れ者。公爵家の恥さらしめが」

「好きで公爵家に生まれた訳ではない……」

 あまりに小さく呟いた私の本音でも、激昂している父には衝撃的だったのだろう。
 折檻が始まると、諦めた様になすがままにされていた私の初めての小さな反抗。

 ピタリと一時止まった父の体が震えだした。

「なんと言う事を言うのだ。この公爵家の末端に生まれた事を誇る事もせず、価値が分からないとは……貴様などこの家の者ではない、この出来損ないが。一生この家の名を名乗るな、一生だ」

 吐き捨てる様な父の怒号は、私にとっては望んでも叶えられないと諦めていた希望の言葉だった。
 珍しく動かない表情筋が仕事をして、口角が上がっているのが自分でも分かる。

 顔を見られない様に腕で覆い隠した私に、父はまた希望をくれた。

「荷物をまとめて、とっととここから出ていけ」
「そうよ、恥さらしは出て行きなさい」

 叫んだ父に母も追従した。

 私の持ち物など本や勉強用の魔道具の他には、少しの衣装位しかない。
 しかし、そのまま無手で放り出されず持ち出せる・・・・・ようだ。

「私は学園長と話をしてくる」
「私も行きますわ」
「私達が帰ってくる迄にまだ屋敷でグタグタしてたら、問答無用で叩き出すからな」

 そう言いおいて、両親は出て行った。

 私は痛む体を引きずり、急いて部屋へ向かい支度する。
 本や魔道具など、公爵家にとっては大したものではなくても庶民には高額だ。

 それに私の持っている魔道具は、特徴のない汎用型が多い。

「これ、みっともない程地味だわ。私には到底相応しくないもの。こういうのは貴方にお似合いね。こんなもの、持ちたくないからあげるわ。私はお父様にお願いして、私に相応しい道具を作っているのよ」

 学園の課題に使う魔道具と課題を置いて、妹は楽しそうに言う。

 トップクラスでは、魔道具所持が必須の授業があり、学園からクラス皆に渡される。
 自分の物と分かるように装飾する者はいるが、妹は一から最高級の物を作らせた。
 一時期学園では、その華美な魔道具が噂になったものだ。
 妹が渡していった魔道具を私はカバンに詰め込む。

 ポーションも魔道具で作った。
 この家が私に高価なポーションを何度も使ってくれる訳がなく、自作する様になったのだ。
 三歳の誕生日プレゼントが、ポーション作成用の魔道具だったと分かった時は飛び上がる程嬉しかった。

 材料は広い公爵家の庭を探して見つけていった。
 食用の植物も必要だったから「浅ましい」と侮蔑の視線に晒されたが、気にもならなかった。


 分厚い本と古びた魔道具の誕生日プレゼントは数年続いたが、一体誰が用意したのか知る事はなかった。
 それらは大切に布で巻いてカバンに入れた。



しおりを挟む
感想 206

あなたにおすすめの小説

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

処理中です...