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第一章 公爵令嬢の姉
16 そして姉を辞めることになりました
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父が直接魔術を使わないだけマシだと私は耐えた。
耐えながら、意識が彷徨っていたのだろう。
昔の事を色々と思い出していた。
だから延々と続く父の罵倒に、思わず答えていた。
「貴様はなんと恥知らずな、この愚か者。貴族は学園を卒業するものだ。退学になるなどありえん。貴様は貴族社会から追放されたのだ。どの面下げて、我が公爵家に帰ってきた。学園長に退学を取り消して貰うまで謝り続けるのが筋だろう、この痴れ者。公爵家の恥さらしめが」
「好きで公爵家に生まれた訳ではない……」
あまりに小さく呟いた私の本音でも、激昂している父には衝撃的だったのだろう。
折檻が始まると、諦めた様になすがままにされていた私の初めての小さな反抗。
ピタリと一時止まった父の体が震えだした。
「なんと言う事を言うのだ。この公爵家の末端に生まれた事を誇る事もせず、価値が分からないとは……貴様などこの家の者ではない、この出来損ないが。一生この家の名を名乗るな、一生だ」
吐き捨てる様な父の怒号は、私にとっては望んでも叶えられないと諦めていた希望の言葉だった。
珍しく動かない表情筋が仕事をして、口角が上がっているのが自分でも分かる。
顔を見られない様に腕で覆い隠した私に、父はまた希望をくれた。
「荷物をまとめて、とっととここから出ていけ」
「そうよ、恥さらしは出て行きなさい」
叫んだ父に母も追従した。
私の持ち物など本や勉強用の魔道具の他には、少しの衣装位しかない。
しかし、そのまま無手で放り出されず持ち出せるようだ。
「私は学園長と話をしてくる」
「私も行きますわ」
「私達が帰ってくる迄にまだ屋敷でグタグタしてたら、問答無用で叩き出すからな」
そう言いおいて、両親は出て行った。
私は痛む体を引きずり、急いて部屋へ向かい支度する。
本や魔道具など、公爵家にとっては大したものではなくても庶民には高額だ。
それに私の持っている魔道具は、特徴のない汎用型が多い。
「これ、みっともない程地味だわ。私には到底相応しくないもの。こういうのは貴方にお似合いね。こんなもの、持ちたくないからあげるわ。私はお父様にお願いして、私に相応しい道具を作っているのよ」
学園の課題に使う魔道具と課題を置いて、妹は楽しそうに言う。
トップクラスでは、魔道具所持が必須の授業があり、学園からクラス皆に渡される。
自分の物と分かるように装飾する者はいるが、妹は一から最高級の物を作らせた。
一時期学園では、その華美な魔道具が噂になったものだ。
妹が渡していった魔道具を私はカバンに詰め込む。
ポーションも魔道具で作った。
この家が私に高価なポーションを何度も使ってくれる訳がなく、自作する様になったのだ。
三歳の誕生日プレゼントが、ポーション作成用の魔道具だったと分かった時は飛び上がる程嬉しかった。
材料は広い公爵家の庭を探して見つけていった。
食用の植物も必要だったから「浅ましい」と侮蔑の視線に晒されたが、気にもならなかった。
分厚い本と古びた魔道具の誕生日プレゼントは数年続いたが、一体誰が用意したのか知る事はなかった。
それらは大切に布で巻いてカバンに入れた。
耐えながら、意識が彷徨っていたのだろう。
昔の事を色々と思い出していた。
だから延々と続く父の罵倒に、思わず答えていた。
「貴様はなんと恥知らずな、この愚か者。貴族は学園を卒業するものだ。退学になるなどありえん。貴様は貴族社会から追放されたのだ。どの面下げて、我が公爵家に帰ってきた。学園長に退学を取り消して貰うまで謝り続けるのが筋だろう、この痴れ者。公爵家の恥さらしめが」
「好きで公爵家に生まれた訳ではない……」
あまりに小さく呟いた私の本音でも、激昂している父には衝撃的だったのだろう。
折檻が始まると、諦めた様になすがままにされていた私の初めての小さな反抗。
ピタリと一時止まった父の体が震えだした。
「なんと言う事を言うのだ。この公爵家の末端に生まれた事を誇る事もせず、価値が分からないとは……貴様などこの家の者ではない、この出来損ないが。一生この家の名を名乗るな、一生だ」
吐き捨てる様な父の怒号は、私にとっては望んでも叶えられないと諦めていた希望の言葉だった。
珍しく動かない表情筋が仕事をして、口角が上がっているのが自分でも分かる。
顔を見られない様に腕で覆い隠した私に、父はまた希望をくれた。
「荷物をまとめて、とっととここから出ていけ」
「そうよ、恥さらしは出て行きなさい」
叫んだ父に母も追従した。
私の持ち物など本や勉強用の魔道具の他には、少しの衣装位しかない。
しかし、そのまま無手で放り出されず持ち出せるようだ。
「私は学園長と話をしてくる」
「私も行きますわ」
「私達が帰ってくる迄にまだ屋敷でグタグタしてたら、問答無用で叩き出すからな」
そう言いおいて、両親は出て行った。
私は痛む体を引きずり、急いて部屋へ向かい支度する。
本や魔道具など、公爵家にとっては大したものではなくても庶民には高額だ。
それに私の持っている魔道具は、特徴のない汎用型が多い。
「これ、みっともない程地味だわ。私には到底相応しくないもの。こういうのは貴方にお似合いね。こんなもの、持ちたくないからあげるわ。私はお父様にお願いして、私に相応しい道具を作っているのよ」
学園の課題に使う魔道具と課題を置いて、妹は楽しそうに言う。
トップクラスでは、魔道具所持が必須の授業があり、学園からクラス皆に渡される。
自分の物と分かるように装飾する者はいるが、妹は一から最高級の物を作らせた。
一時期学園では、その華美な魔道具が噂になったものだ。
妹が渡していった魔道具を私はカバンに詰め込む。
ポーションも魔道具で作った。
この家が私に高価なポーションを何度も使ってくれる訳がなく、自作する様になったのだ。
三歳の誕生日プレゼントが、ポーション作成用の魔道具だったと分かった時は飛び上がる程嬉しかった。
材料は広い公爵家の庭を探して見つけていった。
食用の植物も必要だったから「浅ましい」と侮蔑の視線に晒されたが、気にもならなかった。
分厚い本と古びた魔道具の誕生日プレゼントは数年続いたが、一体誰が用意したのか知る事はなかった。
それらは大切に布で巻いてカバンに入れた。
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