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18 クラーラとロンバード男爵
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玄関先が慌ただしくなった。
男の人の怒声が聞こえる。
私の体は反射的に縮こまり、俯いていた。
執事は慌てて客間を出て行った。
「クラーラ嬢、どうかしたのかい?」
「……あ、あの、ロンバード男爵が」
それだけ言って言葉が途切れた。
「ロンバード男爵、困ります。お客様がいらっしゃいます」
「うるさい、なんだあの荷物の量は。少なすぎるだろう。嫁ぐものとしてなっていない」
「…ああぁ、危ない。お酒を嗜まれていらっしゃるのですね。少し別室でお休みになっては如何ですか?」
「先にクラーラに用がある」
「旦那様もいらっしゃるので……」
「退け、あの病弱な子爵が起き上がってくる訳ないだろう」
声は徐々に近づいてくる。
ヘインズ子爵とバート様は眉をひそめていた。
「大丈夫だよ。クラーラ嬢には私達が付いているからな」
私の態度を不審がったバート様が一声掛けてくれた。
何故だかそれだけで気持ちが落ち着いた。
「クラーラ、これはどういう事だ」
ノックもなくいきなり客間に入ってきたロンバード男爵は、私の他に人が居たのに驚いている。
「久しぶりだな、ロンバード男爵。私が起きていては何か不味いのかな」
「い、いいえヘインズ子爵様。私はその様な事は全く思っておりません」
「ふん、それならいいが」
「しかし、なにゆえこの場にいらっしゃるのでしょう」
「今日は気分が良くてな。娘となるクラーラと少し話をしようと思ってな」
ロンバード男爵がぎろりと私を睨みつける。
私はビクリと肩を震わせ、また俯いてしまった。
そんな私に励ますように、バート様は優しくそっと私の膝を叩いた。
「そうでしたか……それはなによりでございます。しかしお体に障ります。すぐにベッドでお休み下さい」
「ベッドで休む必要があるのは君ではないかな?」
「そんな事はありませんが」
「そうか……随分顔が赤いし、酒臭いぞ」
「……これは、鉱山の奴らに酒をかけられてしまいまして、彼奴らは困ったものです」
無理な言い訳を重ねるロンバード男爵に、バートが小さく呟いた。
「鉱山夫が貴重な酒を粗末にする訳がない。無様な言い訳は見苦しい」
ロンバード男爵に聞こえないか焦ったが、大丈夫な様だった。
ただヘインズ子爵には聞こえていた様で、目線だけが一瞬こちらに向いた。
「とにかく、私の体を労るつもりがあるのなら、出直してくれたまえ」
ロンバード男爵は私を睨みつけてから、渋々客間を出ていった。
ロンバード男爵は気づいているのだろうか。
バート様には一言も対応していないことを。
貴族としての初対面の挨拶もしておらず、気遣ってもおらず、ヘインズ子爵を通しての断り一つもしていない。
そして、上位貴族に確実に信用ならない者と烙印を押されたことを。
男の人の怒声が聞こえる。
私の体は反射的に縮こまり、俯いていた。
執事は慌てて客間を出て行った。
「クラーラ嬢、どうかしたのかい?」
「……あ、あの、ロンバード男爵が」
それだけ言って言葉が途切れた。
「ロンバード男爵、困ります。お客様がいらっしゃいます」
「うるさい、なんだあの荷物の量は。少なすぎるだろう。嫁ぐものとしてなっていない」
「…ああぁ、危ない。お酒を嗜まれていらっしゃるのですね。少し別室でお休みになっては如何ですか?」
「先にクラーラに用がある」
「旦那様もいらっしゃるので……」
「退け、あの病弱な子爵が起き上がってくる訳ないだろう」
声は徐々に近づいてくる。
ヘインズ子爵とバート様は眉をひそめていた。
「大丈夫だよ。クラーラ嬢には私達が付いているからな」
私の態度を不審がったバート様が一声掛けてくれた。
何故だかそれだけで気持ちが落ち着いた。
「クラーラ、これはどういう事だ」
ノックもなくいきなり客間に入ってきたロンバード男爵は、私の他に人が居たのに驚いている。
「久しぶりだな、ロンバード男爵。私が起きていては何か不味いのかな」
「い、いいえヘインズ子爵様。私はその様な事は全く思っておりません」
「ふん、それならいいが」
「しかし、なにゆえこの場にいらっしゃるのでしょう」
「今日は気分が良くてな。娘となるクラーラと少し話をしようと思ってな」
ロンバード男爵がぎろりと私を睨みつける。
私はビクリと肩を震わせ、また俯いてしまった。
そんな私に励ますように、バート様は優しくそっと私の膝を叩いた。
「そうでしたか……それはなによりでございます。しかしお体に障ります。すぐにベッドでお休み下さい」
「ベッドで休む必要があるのは君ではないかな?」
「そんな事はありませんが」
「そうか……随分顔が赤いし、酒臭いぞ」
「……これは、鉱山の奴らに酒をかけられてしまいまして、彼奴らは困ったものです」
無理な言い訳を重ねるロンバード男爵に、バートが小さく呟いた。
「鉱山夫が貴重な酒を粗末にする訳がない。無様な言い訳は見苦しい」
ロンバード男爵に聞こえないか焦ったが、大丈夫な様だった。
ただヘインズ子爵には聞こえていた様で、目線だけが一瞬こちらに向いた。
「とにかく、私の体を労るつもりがあるのなら、出直してくれたまえ」
ロンバード男爵は私を睨みつけてから、渋々客間を出ていった。
ロンバード男爵は気づいているのだろうか。
バート様には一言も対応していないことを。
貴族としての初対面の挨拶もしておらず、気遣ってもおらず、ヘインズ子爵を通しての断り一つもしていない。
そして、上位貴族に確実に信用ならない者と烙印を押されたことを。
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