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第十章 邪悪

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「なんと卑怯な!」
 レーモンが歯ぎしりをする。

「卑怯だって? 笑わせるなよ!」
 そう言うセルジュの目は、ちっとも笑っていない。
「そんな言葉、親父を騙して毒殺したお前らだけには言われたくないね。――さあもう待てないぜ。オレは案外気が短いんだ」

 迫られる究極の選択。
 だが、それに対するアリスの答えはごく明快だった。

「いいだろう、私は喜んでお前たちの捕虜になってやる。それで皆を救えるなら迷う理由はない」

「ア、アリス様!」
 レーモンが驚倒して叫ぶ。
「それだけは、それだけはなりません!」

「おいおいそう興奮すんなよじーさん」
 セルジュがニヤつく。
「王女様自ら、自分の進むべき道を立派に選んだんだ。ちゃんと尊重しろよ」

 ああ、これですべてが振り出しに戻ってしまった。
 かといって、魔法なしでアリスを救うような妙案も見つからない。

 怒るのも忘れ、ただぼう然とする僕とレーモンをよそに、アリスとセルジュはどんどん話を進めてしまう。

「おいセルジュ、私が捕虜になるのはかまわないが、その前に一つ条件を付けさせてもらおう」

「なんだよ」

「生き残ったロードラント軍をこの戦場からただちに撤退させる。それについては異存ないな」

「あーいいよ、別に」
 セルジュは感心なさげに言った。
「オレは王女様さえ手に入れればそれで満足だから」

 セルジュ、こいつ……。
 いくさの勝敗よりも自らの欲望の方を優先させるというのか。

 いや、そんなことより――

「よし、これで決まりだな」
 アリスは一人でうなずいている。

「なら、さっさと軍を撤退させてくれよ」
 セルジュがアリスをせかす。

 ヤバい。
 本当にヤバい。
 二人は勝手に合意を成立させてしまった。
 
 と、焦りまくっていると――

「グルルルルルルル」
 聞き覚えのある唸り声が下の方から聞こえてきた。

 ん? この声は……。
 もしかしてサーベルタイガー!?
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