上 下
259 / 499
第十八章 バロンの城

(10)

しおりを挟む
「敵? 追っ手? ふーん、要するに近くでまた戦争があったってわけね? ――ダメよ! この城に争い事は一切持ち込ませないから!」

「舐めるな! このデュロワ城はお前のモノではない。れっきとしたロードラント王家所有の城だ。それに我々はアリス様をご一緒にお連れしているのだぞ! 衛兵から聞かなかったのか?」

「え!? アリス王女様を!」
 男爵はそれは初耳だったらしく、大きな目をさらに大きく丸めた。
「どこよ!? どこにいるの!?」

 それを聞いたリナが、
「こここです! わたくしはここにいます!」
 と叫び、僕を置いたまま馬から飛び降りて前へ出た。

 男爵はリナに危害を加えるような人じゃなさそうだけれど、それでも僕は一応王女の護衛だ。
 続けて馬を降り、リナの後を追うことにした。

「……あら」
 マティアスの横に立ったリナを、男爵はジロジロと見る。
「私が王女様と最後にお会いしたのは、王女様がまだ八つの時だったけれど……」

 男爵はしばし考え、それからビシッと勢いよくリナを指差した。

「ソイツはニセモノ! 真っ赤なニセモノ! どこぞの間抜けのは騙せても、アタシの目は誤魔化せないわよ!」

「……え!」

 男爵に見事に言い当てられ、リナは体をビクッと震わせた。
 魔女ヒルダにさえ見破れなかった仮面を一瞬で剥がされ、動揺してしまっている。

「言っちゃ悪いけど、本物の王女様はあたよのようなブサイクではないわ」
 と、男爵はべらべら言いたい放題だ。
「王女様はもっとずっと美人で高貴で、生まれながらにして女王の風格を身にまとっているの! ――アンタたち、替え玉を用意するとしても人選を間違ったわね。他にもっといくらでもマシな女がいたでしょうに」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最強ご主人様はスローライフを送りたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,740pt お気に入り:569

夏の終わりに、きみを見失って

BL / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:3

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,463pt お気に入り:54

ミルクの結晶

BL / 完結 24h.ポイント:710pt お気に入り:173

異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28,649pt お気に入り:847

処理中です...