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第二十章 再び戦場へ

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 ……そうだ!
 城外に出る前に、ロゼットに大事なことをお願いしておかなくては。

「ロゼットさん、一つ頼みがあるのですが」

「はい、なんでしょうか?」

「あの、僕が外に出かけたこと誰にも言わないで欲しいんです。もちろんアリス様にも黙っておいてください」

 もし僕が仲間を助けに戦場に戻ったなんてこと、みんなに知れたらたいへんだ。
 マティアスたちは力ずくでも連れ戻しにくるに違いないし、逆に、アリスは自分に鞭打ち這ってでも一緒についてこようとするだろう。
 そのどちらの事態も、できれば避けたい。

「承知いたしました。心得ておきます」

 ロゼットはうなずき、それからドアを開けまた別の廊下を抜けた。
 するとそこは例の壁一面がバラで飾られたデュロワ城に入ってすぐの大広間、通称“バラの間”だった。

「ユウト様、お疲れ様でした。ただいま扉をお開けします」

 ロゼットがそう言って、巨大な扉を力いっぱい押した。
 同時にひんやりとした冷気が城内に流れ込んでくる。
 どうやら今日の天気は やや曇りのようだ。

 僕とロゼットはそのまま城の外に出て、広大な幾何学式庭園を抜け、昨夜グリモ男爵が歌って踊った城門の跳ね橋の所までやって来た。

「衛兵さん!」
ロゼットが城門の上に向かって叫ぶ。
「すみませんが跳ね橋をおろしてくださいな」

「あいよ! ロゼットちゃん」

 衛兵の威勢のよい声とともに、鎖のこすれる音がして、ゆっくりと跳ね橋が下りた。
 これでようやく今日の第一歩を踏み出せそうだ。

「ロゼットさん、いろいろありがとうございました。こんなにすんなり外に出られるとは思いませんでした」

 僕は跳ね橋を渡る前に、振り向いてロゼットにお礼を言った。

「いいえ、わたくしはユウト様をお世話をするメイドとして当然のことをしたまでです」
 ロゼットは深く頭を下げた。
「どうぞお気をつけていっていらっしゃいませ。そして、無事なお帰りを心からお待ちしております」

 ロゼットは最後まで愛想はなかった。
 でも、職務に忠実なだけで決して悪い感じがする人じゃない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 さて、ここからは完全に一人。
 誰にも頼ることのない、孤独な戦いを始めなくてはいけない。

 だが、実を言えば、大勢の敵の中に取り残されたみんなを救えるような、これといいった妙案があるわけでもなかった。
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