異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

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第二十七章 一夜の出来事

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 が、それをするにしても、まずはアリスを落ち着かせなければ――

 現況を把握し、若干心の余裕を取り戻した僕は、合唱に心奪われた兵士たちをよけながらさらに足を速めた。
 デュロワ城とアリスのいる外城壁とはそれなりに離れているが、構造的にひと続きになっており、ぐるりと城壁の上の通路を伝って行けば、一度も地上に降りることなくたどり着けるのだ。

 その途中で外城壁に出たので、城の外に目を落としてみると、真っ暗な地表にゆらゆらと揺らめく大量の灯が見えた。
 あれは松明の光だろうか、昼間見た敵の大軍とはまた別の不気味な迫力があった。
 しかし恐れるには足らない。
 これもおそらく計略の一環――イーザ軍が大量の松明を用意して、城内のロードラント軍を心理的に圧迫することを狙ったこけおどしに違いないからだ。

 それからさらに進んで、ようやく声の届く距離まで来たところで、僕はアリスに向かって叫んだ。

「アリス様!!」

 声に反応し、アリスとその傍らにいたマティアスがこちらを向く。
 同じ城にいるというのに、約二日ぶりの再会だ。

「おお、ユウトか!」
 駆け寄った僕に、アリスは薄暗い中でもはっきりと分かる笑顔を浮かべ言った。
「ちょうど良いところに来てくれた。――と、その前に城の中の様子はどうだ? 負傷者の治療に当たってくれているとは聞いているが」

「はい、シスターマリアと一緒に、それとお城のメイドさんたちの助けも借りてなんとか頑張っています」

「すまぬなユウト、お前にはいつも苦労をかけっぱなしだな。――それに比べて、我々ときたらこの有様だ」
 アリスの顔から笑みが消え、代わりに深い当惑の色が表れる。
「いったいどうしてしまったのか、この合唱が始まった途端、みんな突然戦うのを止めてしまったのだ」

「そうなのだユウト。アリス様のおっしゃる通り――」
 マティアスが打つ手なしといった感じに嘆く。
「別に魔法にかかったと言うわけでもあるまいに、全員腑抜けのようになってしまった」

 どうやらアリスもマティアスも、なぜこの歌が兵士たちの心に深く響いたのかまったく理解できないらしい。
 そこで僕は、試しにアリスに尋ねてみた。

「アリス様、アリス様はこの曲のことをご存じでしょうか?」

「ああ、むろんだ。ロードラントに古くからつたわる“故郷の歌”だろう」
 アリスはそれがどうした、といった感じに肩をすくめた。
 
「ええ、まさにそうなんですが……」

 うーん、やっぱりアリスは王女で王族。
 一応の知識はあるけれど、兵士たちとはまったく住む世界の違うアリスにとって、この曲に対して特別な思い入れなぞまったくないのだ。
 だからこそ、この大合唱を耳にしてもへっちゃらなのだ。

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