異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

文字の大きさ
506 / 513
第三十一章 サバト -淫魔の夜ー

(10)

しおりを挟む
 次の瞬間、ヒルダの魔法を吸い込んだ地面が轟音と共にひび割れ、大きなクレバスが出来た。
 その規模の大きさに、これからいったい何が起こるのか――と、みんなたじろいでいると、突然クレバスから、火山の噴火のように土砂や石が勢いよく空に吹き上がった。
 そしてそれらの大量の無機物は、まるで何か意思で持っているかの如く大きく渦を巻きながら空中の一点に集積し、たちまち宙に浮く黒い巨大なかたまりを形成した。

「どうだ! これこそがわたしの魔術の極みの結晶、最高傑作だ!!」

 ヒルダが叫ぶと、その黒いかたまりの頂点から頭が飛び出した。
 次に胴体の部分から右手左手がにょきにょき生え、さらに二本の太い足が地面に向かって伸びていき――

「これは、いったい……」

 あっけに取られるみんなの前にその全貌を現したのは、十階建てのビルほどの高さと大きさがある人型――黒光りする巨大なゴーレムだった。
 しかもそれは、ファンタジー界によく出てくる土人形のゴーレムではない。
 地下のさまざまな鉱物を魔法で強化した、ほとんどの鋼鉄のロボットのような、ゲームの中ですら見たことのないタイプのゴーレムだ。

「オーホホホホ! このパンタグリュエルこそが私の切り札、無敵の巨人だ。こいつが貴様たちも、デュロワ城も、ロードラント兵もすべてを破壊し粉々にしてくれよう。さすれば戦況はすべてひっくり返るに違いない。そしてアリス王女はわたしが手にするのだ」

 典型的悪役魔女になり切ったヒルダが、得意げに叫ぶ。
 ああ……。
 僕がまたモタついている間に、ヒルダはとんでもないモノを造り出してしまった。
 この巨人、ハイオークなんかが雑魚に見えるぐらい、圧倒的な迫力のラスボス感がある。 
 普通に戦ったのでは、おそらく僕たちが束になってかかっても、倒すことは容易ではないだろう。
 だが、今のところゴーレムは石の彫像のように固まってピクリとも動かない。
 どうやらまだ完成形ではないらしい。

 これは何とかするチャンス――かもしれないけれど、僕が人質になっているせいで、アリスたちはヒルダに手を出すことができないのだ。

「ユウトよ、まだ負け犬顔になるのは早いぞ。これからもっと面白いものを見せてやるのだからな」
 と、ヒルダは青ざめる僕を見て笑った。
「このままではパンタグリュエルはただの置物。なぜなら肝心のコアが空っぽだから動けるはずもないのだ。さてそこで今からこの鉄の巨人にコアを入れてやろうと思う。さあユウト、こっちに来い!!」

 ヒルダは魔法で強化した怪力で僕にヘッドロックをきめて、リナの寝ているベッドの前まで引きずっていく。
 くそっ!
 タイミングさえ合えば、ヒルダに最後の手段、禁断の鉄槌を食らわせてやるのに……。
 しかし今、このままでは一かバチ過ぎて無理だ。
 絶対に失敗はできないのだから、もっと確実な状況じゃないと――
 
「起きろ、この売女ばいた! いつまで寝てるんだ!! 淫乱非処女の貴様におあつらえむけの役目を与えてやる」

 ヒルダのあんまりといえばあんまりな罵声を浴びても、リナはいまだ夢うつつ、ぼうっとしたままだった。
 僕のこともアリスのことも、まったく認識できていないようだ。 

「まずはこれを脱げ! 非処女が私の作った純白のウェディングドレスを着ようなどと不届き千万、不逞にも程がある!!」

 ヒルダはリナの体から、脱げかかったドレスを完全に引っぺがした。
 リナはあられもない、白の下着姿になってしまう。
 
「さてユウト、最初はお前をパンタグリュエルのコアに仕立ててやろうと思ったが、それはやっぱりやめた。お前はあくまで人質の方が都合がよい。というわけでわかるだろう? コアになるのはこの偽王女というわけだ」

「……や、 やめろ!!」

「やめろと言われて今さらやめるわけないだろうこの間抜けが。女を救いたいならもう少し足りない頭で考えて発言しろ。――とはいえもう何もかも手遅れだがな」

 腹は立つが、ヒルダの辛辣な指摘。
 ヒルダは何も言い返せない僕の首を左腕でロックし、空いた右手に短い魔法の杖を持って、それを軽く振って大きく叫んだ。

「目覚めよパンタグリュエル! 『ソウルインジェクト――!!』」

 ヒルダの魔法は一瞬で発動した。
 杖の先から紫色の光線が発射され、ベッドに横たわるリナを包み込み、ふわりと空に浮かせた。 
 リナの体はそれから、透明なベルトコンベアにでも乗って運ばれていくように、そのまますうっと空中を移動し始め、パンタグリュエルの方へ一直線に吸い寄せられていった。

「リナッ――!!」

 アリスの歯がゆく、悲痛な叫びが聞こえた。
 僕はまたしてもリナを守れなかったわけか――いや、まだ終わったわけではない!

「さあここから見ものだぞ。パンタグリュエルが非処女を丸呑みにしてくれるからな」

 ヒルダの言葉の通り、パンタグリュエルの口がぽっかりと開いた。
 この高さではもう誰にも止められない。
 そしてリナは、ブラックホールのような真っ黒な空間に、一瞬のうちに吸い込まれてしまった。
 丸呑みというより、むしろヒルダが魔法で無理やり口の中に放り込んだ感じだ。
 
「ヒ、ヒルダ! 貴様、よくもリナを!!」

 アリスが怒りを爆発させ叫ぶが、ヒルダは余裕の笑みを浮かべて答えた。

「ご安心くださいませアリスさま。そのリナとかいう女、別に死んだわけではございません。あの中でちゃんと生きております。さあどうかご覧ください」
 
 突然、パンタグリュエルの目が開いた。
 赤黒い光を放つ、不気味な目だ。
 リナというコアを得て、巨人ついに目覚めたのだ。

「行け、パンタグリュエル! 戦場で暴れ回りロードラント兵を皆殺しにしろ、そして最後はデュロワ城を破壊し尽くすのだ!

 ヒルダの命令には従うよう作られているのか、巨大ゴーレム、パンタグリュエルはドシン、ドシンと重い足音を立てながら、デュロワ城へめざし歩き始めたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

異世界で 友達たくさん できました  ~気づいた時には 人脈チート~

やとり
ファンタジー
 異世界に突然迷い込んだ主人公は、目の前にいた人物に何故かぶぶ漬け(お茶漬け)を勧められる。  そして、自身を神の補佐である天使というその人物(一応美少女)に、異世界について教わることに。  それから始まった異世界での生活は、様々な種族や立場の(個性的な)人に出会ったり、魔界に連れていかれたり、お城に招待されたり……。  そんな中、果たして主人公はどのような異世界生活を送るのだろうか。  異世界に迷い込んだ主人公が、現地の様々な人と交流をしたり、一緒に何かを作ったり、問題をなんとかしようと考えたりするお話です。  山も谷も大きくなく、話の内容も比較的のんびり進行です。 現在は火曜日と土曜日の朝7時半に投稿予定です。 感想等、何かありましたら気軽にコメントいただけますと嬉しいです! ※カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...