異世界最弱だけど最強の回復職《ヒーラー》

波崎コウ

文字の大きさ
508 / 513
第三十一章 サバト -淫魔の夜ー

(12)

しおりを挟む
 だが、それもここまで。いよいよ決着の時は近づいている。
 なにしろ今のヒルダを倒すには、魔法なんて使わなくていいのだから。
 ほんの二言三言で十分。
 この世界のヒルダの息の根は、それで止まるだろう。

「アリス様、花嫁に相応しくなるよう、まずはこれをお召下さいませ」

 ヒルダは下着姿のアリスに向かって、ウエディングドレスをふわりと投げた。
 本当は自分の手でアリスにドレスを着せたかったはずだが、人質の僕を逃がさないようがっちりと確保していたので、そうするしか仕方なかったのだ。

「まったくしち面倒くさいことだな。どうせ脱ぐのならこんなモノ着なくてもよかろう」

 そう言いつつも、アリスは頭からふわりとドレスをかぶった。

「おおっ!」

 瞬間的に、アリスのまわりがパッとまばゆく光り、思わずヒルダが息を呑んだ。
 ヒルダだけではない、そこにいる誰もが、純白の花嫁姿のアリスの神々しいまでの美しさに目を見張った。
 花嫁リナももちろん綺麗ではあったが、花嫁アリスと比べてしまうと、やっぱり格がまったく違う。
 リナには申し訳ないけれど……。

「これで満足か? まさか戦場でウエディングドレス姿になるとは思わなかったぞ」

 こんなおかしな状況でも、アリスの態度はまったく変わらない。堂々としたものだ。
 しかし、なにか秘密の作戦があるとも思えないし、このままいけば、衆人環視の元、ヒルダになぶられて、計り知れない恥辱を受けることを理解しているのか……?
 
「ええ、ええ、もうなんと行ったらよいか、最高! 最高ですわアリス様、さあさあ、こちらへ」

 ヒルダの声は興奮のあまり震えていた。顔はてかてか光り、好色そうに舌なめずりして手招きをする。
 だが、アリスはそう簡単には応じない。
 ヒルダを鋭い目つきでにらみつけて言った。

「待て、ヒルダよ! その前に、ユウトを解放してもらおうか。私が変わりになれば人質はもう必要なくなるからな」

「オホホ、アリス様にはかないませんわ。よろしいでしょう、アリス様との約束を反故にするわけにはまいりませんものね。そしてユウトには、とっくりとわたしとアリス様の初夜の契りを見せてやりましょう。もっともそんなことをすれば、今度こそ本当にユウトは憤死してしまうかもしれせんが――オホホホホ!」

 と、ヒルダは愉快そうに笑う。
 一方、アリスは仏頂面で答えた。

「バカな、ユウトはそんな男ではない。――ヒルダ、いい加減御託は止め早く話を進めよ。私はあまり気の長い方ではないからな」

「承知しました。ではアリス様。この手の中にアリス様を抱きしめると同時にユウトを解放しましょう。さあ、安心してどうぞこちらへ」

 さすがにヒルダも慎重だ。
 が、もとよりアリスも覚悟を決めている。
 迷うことなく、一歩二歩とヒルダと僕の前に歩み寄った。
 しかし、もういい。
 ヒルダ、お前もここまでだ。
 異世界に来てから延々と続けてきたこの馬鹿げた戦いを、今こそ終わらせてやる。

「……まて!」

 みんなが固唾をなんで成り行きを見守る中、僕は他の誰にも聞こえないよう小声で、しかしはっきりとヒルダに言った。

「んー?」

 と、ヒルダがジロリと僕をにらむ。 
 
「ヒルダ、一こと言わせろ」

「チッ。うるさいぞ。いいところなんだから黙ってろ」

「最後――これが最後だ」

「なんだ?」
 ヒルダは怪訝な表情を浮かべて訊いた
「辞世の句でも読みたくなったか」

「そんなところだ。いいから、誰にも聞かれたくないから耳を貸せ」 

「まったく五月蠅いガキだ……」

 いったいコイツは何を言い出すのか――
 若干の好奇心にかられたヒルダは、思わず僕の方に耳を傾けた。
 だが、そのわずかな油断が命取り。
 僕がずっと待ち望んでいたのは、この瞬間だった。

「――――――ごにょごにょ」

 僕は二言、三言、ヒルダの耳元にそっと囁いた。
 もちろんそれは、魔法でもなんでもない。
 ただの何気ない言葉セリフだ。  

 しかし――

 効果は抜群、どころではなかった。
 その言葉を聞いた途端、ヒルダはぎょっとして、石のように動きがピタリと固
 同時に、まるでギャグアニメみたいに顔色が真っ赤なゆでダコ状態に変わったかと思うと、わずか数秒後、今度は顔から血の気が一気に引き、ヒルダはまるで死人のように顔になって、その場にヘナヘナ座り込んでしまった。
 もはや初夜どころではない。
 内股の情けないポーズで、地べたに尻もちをつくヒルダ。
 もちろん、ご自慢の股間のイチモツも、再びシュルシュルと小さく縮んでしまった。
 間違いなく、当分は再起不能だろう。

 ヒルダのあまりの変貌ぶりに、サバトの会場はシーンと静まり返った。
 花嫁姿のアリスも、驚きと戸惑いを隠せない。

「どうしたというんだ、こやつは……? 急に腑抜けの空になってしまったぞ」

「ご覧のとおりです、アリス様。私がヒルダをやっつけました」

「……しかしだな、お前は魔法を封じられているではないか――ああ、そうか! ユウト、やっぱりお前の魔法が使えたんだな? 結局何かの魔法でこの女を倒したと――」

「いえいえ、アリス様。私は魔法なぞ一切使ってはおりません」

「ではどうして――? 一向に解せぬぞ」

 アリスはいかにも不思議そうな顔をして、首をひねる。

「それはですね――いや、今はそんなことより、やらなきゃいけないことがあるはずです。おい、ヒルダ!」

 僕は、ぐんにゃりと座り込むヒルダの肩をゆすって叫んだ。

「パンタグリュエルをどうした? まだ動いているのか? だとしたら早く止めろ。中に入ったリナが危ない!」

 デュロワ城に向かったパンタグリュエルの姿は、すでに僕たちの視界からは消えていた。
 ヒルダを倒したとはいえ、コアにされてしまったリナを助け出すまでは、まだ安心はできない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 なぜ魔法も使わずヒルダはあっけなく倒れたのか――?
 もうバレバレかもしれませんが、次回で明らかにします。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

異世界で 友達たくさん できました  ~気づいた時には 人脈チート~

やとり
ファンタジー
 異世界に突然迷い込んだ主人公は、目の前にいた人物に何故かぶぶ漬け(お茶漬け)を勧められる。  そして、自身を神の補佐である天使というその人物(一応美少女)に、異世界について教わることに。  それから始まった異世界での生活は、様々な種族や立場の(個性的な)人に出会ったり、魔界に連れていかれたり、お城に招待されたり……。  そんな中、果たして主人公はどのような異世界生活を送るのだろうか。  異世界に迷い込んだ主人公が、現地の様々な人と交流をしたり、一緒に何かを作ったり、問題をなんとかしようと考えたりするお話です。  山も谷も大きくなく、話の内容も比較的のんびり進行です。 現在は火曜日と土曜日の朝7時半に投稿予定です。 感想等、何かありましたら気軽にコメントいただけますと嬉しいです! ※カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...