自殺するなら女子高生と

佐久間 譲司

文字の大きさ
24 / 38

第二十三章 葬式

しおりを挟む
 雅秀は寮の部屋に戻ると、すぐにスマートフォンを開いた。

 メッセージアプリから、アズサの連絡先を選択する。今日は偶然なのか、アズサからのメッセージはほとんどなかった。

 雅秀はしばし躊躇った後、通話ボタンをタップする。

 スマートフォンを耳に当て、呼び出し音を静かに聞く。すぐにアズサは電話を取った。
 
 『もしもし』
 
 アズサの声が鼓膜を響かせた。

 『アズサ? 俺だけど』

 『うん。どうしたの?』

 雅秀は菊池の件について世間話をするように、アズサに話した。同僚が無断欠勤し、音信不通であることや、その同僚の容姿や声の特徴など。

 話を聞いたアズサは、小さく吐息を漏らした。

 『そう。大変ね。その同僚の人、無事だといいんだけど』

 『明日まで連絡がつかないなら、会社が警察へ相談するらしいよ』

 『そっか。そのほうがいいかもね』

 菊池の件を話しても、特段、アズサは変わった反応をみせなかった。あくまで声だけだが、普段通りに感じる。

 次に彼女は、話が一区切りしたと思ったのか、今日、自分の周りであった出来事の話題にシフトさせた。

 楽しそうにおしゃべりを始める。

 雅秀は、相槌を打ちながら、アズサの今の言動を、菊池のことを一切関知していない人間ならば、取り得るものではないかと思った。

 言うなれば、大して興味を示していないのだ。当然だろう。知りもしない人間が、たかだが音信不通になった程度のエピソードなのだ。本来、どうでもいいものである。

 それほどアズサの応答は自然であった。変にこちらが疑っているだけで、アズサは菊池の件と関係がないのかもしれない。

 菊池はアズサへの尾行を行った。それは確かだ。そして反応をうかがう限り、アズサは尾行にすら気づいていない可能性があった。

 菊池の身に何かがあったとしたら、アズサの尾行が終わった後、ということになる。

 雅秀は、アズサとおしゃべりをしながら、自身の考えが変化していることを自覚する。

 大の大人がたかだが一日、無断欠勤し、音信不通になっただけのことだ。案外菊池は明日、ひょっこり出勤してくるかもしれない。今は、変に疑心暗鬼になる必要もないだろう。

 結局、それ以降は一度も菊池の話には言及せず、夜遅くまでアズサのおしゃべりに付き合うハメになった。



 翌日も菊池との連絡が取れなかった。会社の上層部は、宣言通り、警察へと相談を行ったらしい。それから、捜索願いが出されたようだ。

 それから次の日。

 菊池の遺体が発見されたとの報せが、雅秀の耳に届いた。



 こじんまりした葬儀場に、読経の声が響く。雅秀は参列者の席に並び、じっと俯いていた。

 菊池の葬儀は驚くほど質素だった。遺族の席に座っている人間も少なく、参列者も会社関係を除けば、数えるほどしかいなかった。

 雅秀は顔を上げ、祭壇を見る。いつの頃の写真かはわからないが、にこやかに笑みを浮かべている菊池の遺影と目が合った。

 雅秀はその遺影を見つめながら、一昨日の出来事を思い出していた。

 菊池の訃報が届いたのは、仕事が終わる夕方頃だった。

 終礼の際、班のリーダーが説明を行ったのだ。菊池が遺体で発見され、警察で検案された後、遺族に引き渡されたということを。

 菊池は自殺だった。一人暮らしのアパートで、風呂場に目張りをしての練炭自殺。
 遺書はなかったものの、現場の状況から、他者の介入はなく、自殺と断定されたらしい。

 同僚や遺族は大したショックを受けることもなく、すんなりと納得していたようだが、雅秀は違っていた。

 強い疑念が湧いているのだ。

 事情を知っている者が雅秀だけのせいもある。だが、身近で接していたからよくわかっていた。確実に菊池は自殺をするような人間ではないのだ。

 雅秀は、眠くなるようなお経の最中、祭壇の近くで並んで座っている遺族に目を向けた。

 初めて目にする菊池の親族だ。親や兄弟かわからないが、老若男女複数いる。しかし、その誰もが涙を流していなかった。菊池は生前、自らの家族関係について一切語らなかったが、この様子を見ると、あまり仲が良いとは言えなかったのだろう。

 雅秀は横に座っている志帆を、横目でチラリとうかがった。志帆は何かを堪えているような、苦痛が混ざったような表情でじっと俯いていた。

 雅秀は前を向く。祭壇の菊池がこちらに笑いかけたように感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...