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第八十八章 判明
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結果を言えば、全ては徒労に終わった。
リコが説明した半径二百メートル。その範囲をカラスの視点を使い、しらみつぶしに探したが、記憶にある例の女性の姿は発見できなかった。
公園、路上、民家、スーパーやコンビニ。範囲内にある様々な場所を当たったのだ。にもかかわらず、最初から存在していないかのように、どこにも見当たらなかった。
見落としも有り得ないはずだ。あの女性は人目を引く整った容貌をしていた。チェックが入るのなら、必ず目に付くはず。
建物の問題でもないだろう。この近辺には、大型商業施設などの人が雑多で、入り組んだ建物は存在しておらず、ほぼ全てのエリアを捜索したと言っても過言ではなかった。
厄介なことに、敵から操作を受けた人間たちも頻繁に襲ってきていた。昨日の夜のように集団ではないにしろ、暗殺者のように忍び寄り、攻撃を仕掛けてくるのだ。
同時にそれは、退魔士が施した魔術の範囲内に祐真たちがいる証でもあった。なのに、その退魔士をどうしても発見できないのだ。
「リコ、どういうこと?」
襲撃者たちの手から逃れ、現在は一軒のコンビニの前に祐真とリコは避難していた。
コンビニは利用者が多く、また開けた場所であるため、襲撃者に対して比較的安全な条件を確保していた。
「範囲内に退魔士はいるはずなんだろ? どうして発見できないんだ?」
祐真は訊いたあと、ペットボトルのお茶を飲む。ずっと捜索を続け、喉がからからだった。腹も空いており、どこかで食事も摂りたかった。
「わからない。けれど、予想を超えた厄介な相手なのは確かだね」
リコは顎に手を当て、表情を曇らせる。
「きっと何か大切なことを見落としているんだ
」
リコの言葉に、祐真はじっと考えにふけった。
祐真も感じていたことだ。今回の相手は、色々と奇妙な部分があった。
祐真は心の中で強く念じ、視点をリコが召喚した使い魔のカラスのものと切り替えた。カラスは祐真たちの上空を旋回している。
視点はすぐに広大な土地を、上空から見下す形となった。下方に、コンビニ前でたむろする祐真とリコ二人の姿が見えた。
さらに外へと目を向けてみる。コンビニ周辺は住宅街が広がり、夕刻に近い現在、様々な人の姿が確認できた。
路上の隅で井戸端会議をする子持ちらしき女性たちや、駐車場に停めた車に乗り込む若い男女、川岸を散歩する老人など。
児童公園もあり、友達と遊ぶ小学校低学年くらいの男の子や女の子たちの姿も目に入ってくる。
とても長閑な――どこにでもありふれた――光景だった。人の命を奪うために、他者を操る人間が存在している場所だとは到底思えない。しかし、確実にその人物は、この景色のどこかにいるのだ。
そもそもの疑問に、敵はどうやってこちらの動向を察知しているのか、というものがある。いまだに鎮火できず、燻り続けている謎だ。
魔術を使っているわけでもなく、ドローンや監視カメラも使用していない。一体、どうやって……。
祐真はそこでふと気づく。カラスの真下にある、現在祐真たちが休んでいるコンビニ。その近くの路上を三人の男たちが歩いている姿が目に付いた。
本来なら別段、特筆するべき点ではなかった。しかし、祐真の目はある特徴を捉えていた。
男たちは三人揃って、一直線に淀みなく、コンビニに向かってきているのだ。まるで機械のように規則的かつ、単純な動き。まるで感情がないような……。
つまり、彼らは操られていると予測できた。今まで何度も襲われてきたため――喜んでいいのか不明だが――自然と判別が付く目が養われたのだ。
「リコ。奴らだ」
祐真はリコに言う。
「こっちに向かってきている」
まだ祐真たちのいる位置からは見えないが、いずれ姿を確認できるだろう。そして、奴らは即座に襲い掛かってくるに違いない。今日だけでも、結構な回数襲われている。その度にリコが対処しているが、彼の消耗が加速していくばかりだ。相手を殺さないという前提であるため、なおさら疲労は蓄積する一方である。
「やはりまだ相手は、こちらを逃すつもりはないみたいだね」
使い魔であるカラスの視線のまま、冷静に言うリコの声が耳へと飛び込んでくる。
「どうする?」
「逃げよう。いちいち戦っていてもこちらの損耗が大きくなるだけだ」
リコの言い分は最もだと思う。これまでは、襲われて初めて対処に移っていたが、事前に襲撃が察知できたのなら、逃げるのが最善手だと言えた。
「でもどこに逃げるの?」
「……北の方角にスーパーがある。そこに行こう。距離的にも今から急行すれば、相手は撒けるだろう。スーパーなら避難場所としては最適だし、食事だって買えるはずだ。このコンビニの裏を抜けて向かおう」
「わかった」
「今すぐ出発だ」
リコが動き出す気配を肌で感じ取った。
祐真は男たちを監視していたカラスの視点から、自分の視点へと切り替えようとする。
そこで眉をひそめた。男たちの動きに変化があったのだ。
彼らは急に方向転換を行っていた。気が変わったかのように、突然コンビニを目指すのを止め、踵を返すと別方向へと歩き出す。三人揃って、訓練中の兵隊のような動きだ。
そして、新たに目指す方向は北の方角だった。よく見ると、三人はそれぞれ、耳にワイヤレスのイヤホンのようなものを付けている。
つまり、これは……。
「リコまずい。やっぱり動きを読まれている」
「なるほど。とことん追い詰める魂胆だね」
リコの声には少しだけ、疲労の色が込められていた。
「まるで僕らの心でも読んでいるかのような動きだ」
リコはさり気ない様子で、意見を言う。本気での発言ではないのは伝わってきた。
しかし――。
祐真の脳裏に一筋の光が走った。粒子のように瞬き、全身を貫く。
これまで襲ってきた『襲撃者』たちの光景が、脳内に展開された。早送りの映像が目まぐるしく投影される。
退魔士が、こちらの動きを察知している方法がわかったかもしれない。
祐真は視点を自身のものに切り換えた。先を歩くリコへと追いつき、隣に寄った。そして、自身のポケットを探り、スマートフォンを取り出す。
バッテリーは結構減っているが、まだ充分使える。
祐真はスマートフォンを操作し、無言で隣を歩くリコの前に画面を向けた。
リコが説明した半径二百メートル。その範囲をカラスの視点を使い、しらみつぶしに探したが、記憶にある例の女性の姿は発見できなかった。
公園、路上、民家、スーパーやコンビニ。範囲内にある様々な場所を当たったのだ。にもかかわらず、最初から存在していないかのように、どこにも見当たらなかった。
見落としも有り得ないはずだ。あの女性は人目を引く整った容貌をしていた。チェックが入るのなら、必ず目に付くはず。
建物の問題でもないだろう。この近辺には、大型商業施設などの人が雑多で、入り組んだ建物は存在しておらず、ほぼ全てのエリアを捜索したと言っても過言ではなかった。
厄介なことに、敵から操作を受けた人間たちも頻繁に襲ってきていた。昨日の夜のように集団ではないにしろ、暗殺者のように忍び寄り、攻撃を仕掛けてくるのだ。
同時にそれは、退魔士が施した魔術の範囲内に祐真たちがいる証でもあった。なのに、その退魔士をどうしても発見できないのだ。
「リコ、どういうこと?」
襲撃者たちの手から逃れ、現在は一軒のコンビニの前に祐真とリコは避難していた。
コンビニは利用者が多く、また開けた場所であるため、襲撃者に対して比較的安全な条件を確保していた。
「範囲内に退魔士はいるはずなんだろ? どうして発見できないんだ?」
祐真は訊いたあと、ペットボトルのお茶を飲む。ずっと捜索を続け、喉がからからだった。腹も空いており、どこかで食事も摂りたかった。
「わからない。けれど、予想を超えた厄介な相手なのは確かだね」
リコは顎に手を当て、表情を曇らせる。
「きっと何か大切なことを見落としているんだ
」
リコの言葉に、祐真はじっと考えにふけった。
祐真も感じていたことだ。今回の相手は、色々と奇妙な部分があった。
祐真は心の中で強く念じ、視点をリコが召喚した使い魔のカラスのものと切り替えた。カラスは祐真たちの上空を旋回している。
視点はすぐに広大な土地を、上空から見下す形となった。下方に、コンビニ前でたむろする祐真とリコ二人の姿が見えた。
さらに外へと目を向けてみる。コンビニ周辺は住宅街が広がり、夕刻に近い現在、様々な人の姿が確認できた。
路上の隅で井戸端会議をする子持ちらしき女性たちや、駐車場に停めた車に乗り込む若い男女、川岸を散歩する老人など。
児童公園もあり、友達と遊ぶ小学校低学年くらいの男の子や女の子たちの姿も目に入ってくる。
とても長閑な――どこにでもありふれた――光景だった。人の命を奪うために、他者を操る人間が存在している場所だとは到底思えない。しかし、確実にその人物は、この景色のどこかにいるのだ。
そもそもの疑問に、敵はどうやってこちらの動向を察知しているのか、というものがある。いまだに鎮火できず、燻り続けている謎だ。
魔術を使っているわけでもなく、ドローンや監視カメラも使用していない。一体、どうやって……。
祐真はそこでふと気づく。カラスの真下にある、現在祐真たちが休んでいるコンビニ。その近くの路上を三人の男たちが歩いている姿が目に付いた。
本来なら別段、特筆するべき点ではなかった。しかし、祐真の目はある特徴を捉えていた。
男たちは三人揃って、一直線に淀みなく、コンビニに向かってきているのだ。まるで機械のように規則的かつ、単純な動き。まるで感情がないような……。
つまり、彼らは操られていると予測できた。今まで何度も襲われてきたため――喜んでいいのか不明だが――自然と判別が付く目が養われたのだ。
「リコ。奴らだ」
祐真はリコに言う。
「こっちに向かってきている」
まだ祐真たちのいる位置からは見えないが、いずれ姿を確認できるだろう。そして、奴らは即座に襲い掛かってくるに違いない。今日だけでも、結構な回数襲われている。その度にリコが対処しているが、彼の消耗が加速していくばかりだ。相手を殺さないという前提であるため、なおさら疲労は蓄積する一方である。
「やはりまだ相手は、こちらを逃すつもりはないみたいだね」
使い魔であるカラスの視線のまま、冷静に言うリコの声が耳へと飛び込んでくる。
「どうする?」
「逃げよう。いちいち戦っていてもこちらの損耗が大きくなるだけだ」
リコの言い分は最もだと思う。これまでは、襲われて初めて対処に移っていたが、事前に襲撃が察知できたのなら、逃げるのが最善手だと言えた。
「でもどこに逃げるの?」
「……北の方角にスーパーがある。そこに行こう。距離的にも今から急行すれば、相手は撒けるだろう。スーパーなら避難場所としては最適だし、食事だって買えるはずだ。このコンビニの裏を抜けて向かおう」
「わかった」
「今すぐ出発だ」
リコが動き出す気配を肌で感じ取った。
祐真は男たちを監視していたカラスの視点から、自分の視点へと切り替えようとする。
そこで眉をひそめた。男たちの動きに変化があったのだ。
彼らは急に方向転換を行っていた。気が変わったかのように、突然コンビニを目指すのを止め、踵を返すと別方向へと歩き出す。三人揃って、訓練中の兵隊のような動きだ。
そして、新たに目指す方向は北の方角だった。よく見ると、三人はそれぞれ、耳にワイヤレスのイヤホンのようなものを付けている。
つまり、これは……。
「リコまずい。やっぱり動きを読まれている」
「なるほど。とことん追い詰める魂胆だね」
リコの声には少しだけ、疲労の色が込められていた。
「まるで僕らの心でも読んでいるかのような動きだ」
リコはさり気ない様子で、意見を言う。本気での発言ではないのは伝わってきた。
しかし――。
祐真の脳裏に一筋の光が走った。粒子のように瞬き、全身を貫く。
これまで襲ってきた『襲撃者』たちの光景が、脳内に展開された。早送りの映像が目まぐるしく投影される。
退魔士が、こちらの動きを察知している方法がわかったかもしれない。
祐真は視点を自身のものに切り換えた。先を歩くリコへと追いつき、隣に寄った。そして、自身のポケットを探り、スマートフォンを取り出す。
バッテリーは結構減っているが、まだ充分使える。
祐真はスマートフォンを操作し、無言で隣を歩くリコの前に画面を向けた。
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