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第二章 化物侍女は学園に通う
34. 化物侍女は暴かれる
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なし崩し的に脱衣室へと連れられたヨルだったが、ティアラの服を脱がせた後やはり自らの服を脱ぐという段階で難色を示した。
「ティアラ様。やはり」
「ヨルの事だから身体に傷跡があるとか、そういう事を気にしているのでしょう? 私は別に気にしないわ」
「そういう問題では…」
「じゃあ“命令”。ヨル、服を脱ぎなさい」
「……はい」
ヨルは“命令”に逆らえない。それがどれだけ避けたい事であったとしてもだ。
着ていた制服に手を掛け、ゆっくりとヨルがその素肌を晒す。露わになった穢れを知らぬ真っ白な素肌には傷跡のようなものは一見見当たらず、何故そこまで渋っていたのかティアラは疑問に思った。
「ティアラ様、先にお入り下さい。少し準備をいたしますので」
「分かったわ。……逃げないでね?」
「逃げる事は出来ませんよ」
命令を解除されない限りヨルは服を着る事も出来なければ、此処を離れる事も出来ない。ヨルという存在は、そう“なっている”からだ。
ティアラが浴室へと入ったのを確認すると、ヨルが湯浴みの為の道具を棚から取り出していく。しかしヨルが浴室の扉に背を向けた瞬間、バン! と勢い良く扉が開けられた。
「っ!?」
急ぎヨルが背を見せないように振り返り、その扉の先にいたティアラにジト目を向けた。
「…何のおつもりですか」
「あ、はは…ちょっと気になっただけよ」
怒気を孕んだ声色にティアラが頬を引き攣らせ、その口から出てきたのは言い訳がましい言葉。だがそれ以上ヨルが言及する事は無かった。何が目的だったかは明確だったからだ。
「準備が出来ましたので入りましょう」
「え、ええ」
ティアラを浴室へと押し込むと、備え付けの椅子に座らせて頭からお湯を掛ける。だがそこに丁寧さは無かった。
「お、怒ってる…?」
「いえ。別に」
嘘だ、とティアラは思った。ヨルが怒りなどの感情を露わにする事は多くないが、それ故に露わになった時は分かりやすい。
ティアラはヨルが自分に背を見せないよう立ち回っている事に服を脱いだ時から勘付いていた。だが隠す理由が気になって無理に見ようとした結果、余計に警戒されてしまった。今の状態で素直に頼んでも聞いてくれるとは思えない。
「……ねぇヨル」
「なんでしょうか」
ゴシゴシと何時もより強く頭を洗われながら、ティアラが恐る恐る声を掛ける。だが返ってきたのは感情を感じさせない冷たい声。そこでティアラの心が折れそうになるが、何とか気持ちを奮い立たせて上を見上げる。色の異なる双眸の眼差しが、静かにティアラとぶつかった。
「……背中に、何があるの?」
何か、ではなく何が。その既に確定した聞き方に、ヨルは諦めの吐息を零した。
「…面白くもないものです」
「…見ても、いい?」
弱々しい言葉に、命令の意図はない。断る事が可能な、“お願い”。それでも───
「っ!?」
「………」
ばしゃりとヨルがティアラにお湯を掛けて頭の上の泡を洗い流す。何も声を掛けずやられたのでティアラの目に軽く入ってしまうが、それを優しくヨルがタオルで拭き取った。そして開けたティアラの視界に映ったのは、悲しげに微笑むヨルの顔で。
「…変わらないと、約束してくださいますか?」
「勿論よ」
迷う様子もなくティアラが即答すれば、ヨルが目を伏せてティアラへと背を向ける。その真っ白な背中には大きな傷は無い。───ただ、一つを除いて。
「これ…」
ティアラが指を這わせれば、それが彫られたものである事に気付く。
「刺青、よね…?」
「はい」
ヨルの背中に彫られた刺青の文字。背中など、身体に特定の文字が刺青で刻まれる事が表しているのは、それが奴隷であるという事。
「私の本来の名です」
「…『H046』…だから、ヨルなのね」
「侍女長に付けていただきました」
かつてヨルを拾ったキャロルが、その背に刻まれたその文字から取った名前。名前を持たない少女が得た、己が己である証だ。
「消さなかったの?」
「消せないのですよ。これは」
奴隷が逃げ出してその証である刺青を消す事が出来れば、困るのは奴隷を売る商人だ。それ故に使われる刺青はただの彫り物では無く、“魂”そのものに刻み付ける事で、身体の真の髄から奴隷である事を理解させる物になっている。消す事は、一度でも奴隷に堕ちれば不可能だ。
「まぁティアラ様のように無理やりでなければ、服を着れば基本見えませんし、問題無いのです」
「ごめんなさい、悪かったわ…でも少し安心もした」
「安心?」
ヨルが振り向いて首を傾げる。先程の会話の何処に安心する要素があっただろうか、と。
「大きな古傷があるのかと思っていたから」
「あぁ…今は無いですね」
「じゃあ私が洗っても大丈夫よね!」
「え?」
傷があれば洗うのも難しい為するつもりは無かったが、傷が無いのならば自分が洗う事は可能だろうとティアラは思う。ヨルの秘密を暴く事になったのは誤算だったが、元々の目的はヨルと共にお風呂に入りたいというティアラの純粋な願いだ。
「さぁ覚悟!」
「言葉が違うと思います」
◆ ◆ ◆
「はい…はい。偽装は完了しました。問題はありません。…はい、予定通りです。ティアラ様に気付かれた様子はありません。……はい、失礼します」
コトリと机に置かれる通信機。定時連絡を終え、ヨルが椅子に深く腰掛ける。
「……騙すのは、殊の外しんどいものなのですね」
「ティアラ様。やはり」
「ヨルの事だから身体に傷跡があるとか、そういう事を気にしているのでしょう? 私は別に気にしないわ」
「そういう問題では…」
「じゃあ“命令”。ヨル、服を脱ぎなさい」
「……はい」
ヨルは“命令”に逆らえない。それがどれだけ避けたい事であったとしてもだ。
着ていた制服に手を掛け、ゆっくりとヨルがその素肌を晒す。露わになった穢れを知らぬ真っ白な素肌には傷跡のようなものは一見見当たらず、何故そこまで渋っていたのかティアラは疑問に思った。
「ティアラ様、先にお入り下さい。少し準備をいたしますので」
「分かったわ。……逃げないでね?」
「逃げる事は出来ませんよ」
命令を解除されない限りヨルは服を着る事も出来なければ、此処を離れる事も出来ない。ヨルという存在は、そう“なっている”からだ。
ティアラが浴室へと入ったのを確認すると、ヨルが湯浴みの為の道具を棚から取り出していく。しかしヨルが浴室の扉に背を向けた瞬間、バン! と勢い良く扉が開けられた。
「っ!?」
急ぎヨルが背を見せないように振り返り、その扉の先にいたティアラにジト目を向けた。
「…何のおつもりですか」
「あ、はは…ちょっと気になっただけよ」
怒気を孕んだ声色にティアラが頬を引き攣らせ、その口から出てきたのは言い訳がましい言葉。だがそれ以上ヨルが言及する事は無かった。何が目的だったかは明確だったからだ。
「準備が出来ましたので入りましょう」
「え、ええ」
ティアラを浴室へと押し込むと、備え付けの椅子に座らせて頭からお湯を掛ける。だがそこに丁寧さは無かった。
「お、怒ってる…?」
「いえ。別に」
嘘だ、とティアラは思った。ヨルが怒りなどの感情を露わにする事は多くないが、それ故に露わになった時は分かりやすい。
ティアラはヨルが自分に背を見せないよう立ち回っている事に服を脱いだ時から勘付いていた。だが隠す理由が気になって無理に見ようとした結果、余計に警戒されてしまった。今の状態で素直に頼んでも聞いてくれるとは思えない。
「……ねぇヨル」
「なんでしょうか」
ゴシゴシと何時もより強く頭を洗われながら、ティアラが恐る恐る声を掛ける。だが返ってきたのは感情を感じさせない冷たい声。そこでティアラの心が折れそうになるが、何とか気持ちを奮い立たせて上を見上げる。色の異なる双眸の眼差しが、静かにティアラとぶつかった。
「……背中に、何があるの?」
何か、ではなく何が。その既に確定した聞き方に、ヨルは諦めの吐息を零した。
「…面白くもないものです」
「…見ても、いい?」
弱々しい言葉に、命令の意図はない。断る事が可能な、“お願い”。それでも───
「っ!?」
「………」
ばしゃりとヨルがティアラにお湯を掛けて頭の上の泡を洗い流す。何も声を掛けずやられたのでティアラの目に軽く入ってしまうが、それを優しくヨルがタオルで拭き取った。そして開けたティアラの視界に映ったのは、悲しげに微笑むヨルの顔で。
「…変わらないと、約束してくださいますか?」
「勿論よ」
迷う様子もなくティアラが即答すれば、ヨルが目を伏せてティアラへと背を向ける。その真っ白な背中には大きな傷は無い。───ただ、一つを除いて。
「これ…」
ティアラが指を這わせれば、それが彫られたものである事に気付く。
「刺青、よね…?」
「はい」
ヨルの背中に彫られた刺青の文字。背中など、身体に特定の文字が刺青で刻まれる事が表しているのは、それが奴隷であるという事。
「私の本来の名です」
「…『H046』…だから、ヨルなのね」
「侍女長に付けていただきました」
かつてヨルを拾ったキャロルが、その背に刻まれたその文字から取った名前。名前を持たない少女が得た、己が己である証だ。
「消さなかったの?」
「消せないのですよ。これは」
奴隷が逃げ出してその証である刺青を消す事が出来れば、困るのは奴隷を売る商人だ。それ故に使われる刺青はただの彫り物では無く、“魂”そのものに刻み付ける事で、身体の真の髄から奴隷である事を理解させる物になっている。消す事は、一度でも奴隷に堕ちれば不可能だ。
「まぁティアラ様のように無理やりでなければ、服を着れば基本見えませんし、問題無いのです」
「ごめんなさい、悪かったわ…でも少し安心もした」
「安心?」
ヨルが振り向いて首を傾げる。先程の会話の何処に安心する要素があっただろうか、と。
「大きな古傷があるのかと思っていたから」
「あぁ…今は無いですね」
「じゃあ私が洗っても大丈夫よね!」
「え?」
傷があれば洗うのも難しい為するつもりは無かったが、傷が無いのならば自分が洗う事は可能だろうとティアラは思う。ヨルの秘密を暴く事になったのは誤算だったが、元々の目的はヨルと共にお風呂に入りたいというティアラの純粋な願いだ。
「さぁ覚悟!」
「言葉が違うと思います」
◆ ◆ ◆
「はい…はい。偽装は完了しました。問題はありません。…はい、予定通りです。ティアラ様に気付かれた様子はありません。……はい、失礼します」
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