化物侍女の業務報告書〜猫になれるのは“普通”ですよね?〜

家具屋ふふみに

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第三章 化物侍女は化物に出会う

51. 化物侍女は容赦が無い

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 皇都セレトナ学園の、年に一度執り行われる学年行事“宝探し”の日が遂にやって来た。
 今回“宝探し”に参加するのは総勢百二十人に及ぶ一学年の生徒全員だ。その中には無論ヨルやティアラ達の姿があった。

「それではこれよりミレーナへと向かう為の馬車に乗り込みます。隙間は開けずに詰めて座ってください」

 学園の教師が風の魔術によって声を拡張し、全体に呼び掛ける。
 今回の学年行事を行うにあたって学園側が用意した馬車は、中に四人がけの椅子が縦に五列並んだかなり大型のものだ。
 席は決まっておらず、ティアラ達はいつものメンバーで椅子へと腰掛けた。

「結構硬いのね…」

 座って早々、ティアラがそう言葉を零す。椅子には布が張ってあるものの、普段使っている馬車の座席とは比べるまでも無い。

「クッションはありますが」
「…いえ。やめておきましょう」

 とても嬉しい提案ではあるが、それが“何処から”取り出されるのかを考えれば、ティアラは頷く訳にはいかなかった。

 少しして全員が乗り込んだ事を確認し、漸く馬車が動き出す。ミレーナまでは馬車で三日の道程ともあって、疲れにくい構造の方が良いように思うだろう。────だが実はこの馬車は、ただ大きいだけのものでは無いのだ。

「これ自体が、大きな魔術具なのですか」
「ええ。乗り込んだ人から微量の魔力を吸い取って、この馬車自体を軽量化し、かつ車輪の推進を補助するのよ」

 それ故にその大きさとは裏腹に、通常の馬車とは隔絶した速さを誇る。なので何か異常が起きない限り、ミレーナの予想到着時刻は今日の午後八時前後となっていた。現在が午前七時なので、ほぼ半日で到着出来る計算である。

「ただそれだけの速さで進むから、事前に通知をしてからでないと使えない馬車なのよ。面倒だしお金も掛かるから、個人ではあまり使えない代物ね」
「つまりこの様な大きな行事でもない限り、使われないのですね」
「そうよ。性能は便利だけれど、使い勝手は悪い。何とも矛盾した馬車なのよねぇ…」

 爆速で進む馬車と正面衝突でもすれば双方に甚大な被害が出る事が容易に想像出来る為致し方ない処置ではあるが、それが移動用魔術具の開発に影響を与えているという事は悩ましい問題だ。

「いっその事、空でも飛べばいいんじゃないですか? ほら、鳥みたいに」
「それが出来たら苦労はしないのよ…」

 フェリシアの意見は、勿論考えられなかった訳では無い。だが空を飛ぶには高い危険性を伴う為に実現は不可能に近かった。
 そもそもの話、風の魔術によって空を飛ぶ事自体が困難なのだ。それを道具に落とし込むなど、何が起きるか分かったものでは無いのだから実用化には至らなかった。

「ティアラは昔空を風で飛ぼうとして怒られたのよね。懐かしいわ」
「……人の黒歴史をサラッと暴露しないで貰っていいかしら?」

 ジトーっとした眼差しをエセルへと向けて、ティアラが不服を露わにする。
 幼少期ヤンチャであったティアラは、自身の適性を知るや否や風で空を飛ぼうとした事があった。
 まぁ結果は地面から数センチ浮いた程度であったが、それを目撃したエセルは勿論の事、ティアラの母であるメアリーからは泣きながら叱責された。もし数センチ浮くのでは無く吹き飛んでいたならば、その時ティアラの命は失われていたかもしれないのだから無理は無い。

「今はヨルさんも居るから、そんな事はもうしていないのでしょうけれど」
「いえ。過去に一度だけティアラ様は飛ぼうとなされましたよ」
「あれ? そうなの?」
「……うん」
「結果は?」
「……ヨルに引き摺り下ろされた」
「……へ?」

 昔に比べて魔術の制御力も上がった状態であったティアラは、高く浮かび上がることには成功した。しかし、その瞬間駆け付けたヨルがロープを投げ飛ばしティアラを地面に引き摺り下ろしたのだ。

「私が届かない所まで飛ばれていたら無理でしたが、なんとか届く距離でしたので安全を考慮し強制的に下ろさせていただきました」
「届く距離って…屋敷の三階くらいの高さはあったのよ?」
「落ちなくて良かったですね」
「落とされたの間違いだと思うけど」
「……ヨルさんの苦労が偲ばれるわね」

 しみじみとエセルが呟く。昔はその役割を自身が担っていただけあって、その苦労はよく分かった。

 そうして雑談に花を咲かせていれば、いつの間にやらお昼休憩の時間になっていた。今回の旅路は目的地までに一つだけ小さな町を通る予定であり、そこが昼休憩の場所だ。
 とはいえ主となるのは馬車を引く馬の休憩と食事のみ。生徒が自由に町を見て回る時間はそうなかったりする。


「────で。ティアラは何処行った」

 腕を組み、エセルが溜息を吐く。ついでにフェリシアもその場でオロオロと動いて忙しない。
 集合時刻まではまだ時間はある。けれども、そう余裕が無いのは確かだ。

「ヨルさんも居ません…」
「まぁ主から離れはしないでしょうからそれは当然ですけれど…同時に主の願いを断れないのよねぇ…」

 どれだけ親しくあろうとも、主従には必ず逃れられない上下関係が存在する。ティアラに甘いヨルならば尚更だろう。

「本当に何処へ「お待たせいたしました」……」

 エセルの呟きに被せて、声が響く。その聞こえた方へと二人が視線を向ければ、そこにはヨルとが居た。

「…えっと、ヨルさん」
「はい」
「…ソレは?」

 エセルがヨルが引っ張るミノムシに目線を向ける。

「ティアラ様です」
「むぅぅぅ!!」

 ビタンビタンとミノムシ…ティアラが暴れる。

「……何があったの?」
「町を回る為に私を巻こうとしましたので、先に巻かせて頂きました」
「巻くの意味が違う気がするわ…」

 エセルは思う。この二人に主従関係はあれど、上下関係は逆転しているのでは無いか、と……。


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