魔王様、仕事して下さい！

父親を超えるのが楽しみだね

　わたしの種族は魔族の中でも魔力が多くて、特殊な立ち位置にある。
　……いや、あったと言うべきかな。

「次、俺測っていい？」
「ああ、いいぞ」

　ウィルフレッドが魔力測定具の石版の前に立つ。わたしと同じようにして手を置くと、今度は緑色に文字が煌めいた。

　数値：904750

　魔王の息子としては少ないと感じるかもしれないけれど、わたしが言った平均の魔力量は、成人の平均だ。だからウィルフレッドの魔力量は少なくなく、逆にこの年齢なら多い方。

「さすが俺の息子だな！」
「……親バカめ」
「いいだろ別に」

　……まぁ、昔より顔が良くなってるからいいか。

「思ったより増えてない…」
「そうか？上等だと思うぞ？」
「…親父を超えたいから」

　真っ直ぐとディルヴァーを見つめて言い放つ。

「大きく出たなぁ…そう簡単には越えさせねぇぞ」

　そういうディルヴァーの顔はどことなく、嬉しそうだった。まぁ、わたしも超えて欲しいとは思うけどね。

「……帰るね」
「あ、おう。じゃあ外まで送るわ」

　地下から地上へと帰還する。

「じゃあね。それと…」

　手をチョイチョイと動かし、ウィルフレッドに屈んでもらう。そしてその耳に口を近づけ…

「もう、誘拐されちゃダメだよ？」
「お、おう…」
「ん？なんだ？」
「なんでもないよ、息子を大切にしなさいよ」
「わぁってるよ。じゃあ」
「うん、バイバイ」

　そこで転移魔法を起動し、その場から執務室へと転移する。

◆◆◆

「親父…」
「なんだ？」
「…あのヒトは一体親父のなんなんだ？魔王だとしてもあそこまで親しいなんておかしいだろ」

　……やはり気付くか。

「…知りたいか？」
「…うん」
「なら、一旦執務室に戻るか」

　転移を使い、一瞬で執務室へと向かう。

「ここに来るってことは…知られたくない内容なのか？」
「まぁなぁ…あいつのほうが知られたくないって思ってんだがな」
「なんで…？」
「過去、色々としでかしたからなぁ」
「…なにしたんだ？」
「まぁ、それはおいおいだな。まず俺があいつと親しくしている理由はな……俺を、救ったヒトだからだ」
「救った…？親父を？」
「あぁ。……俺は孤児だったからな」
「親父が、孤児…？」

　信じられなそうな顔をする。まぁ、そうだろうな…

「死にかけた俺を救ったのが、ユーリだったんだ」
「…親父を助けたって…その時親父何歳だ？」
「確か…今のお前と同じくらいだったぞ」
「……俺より歳上とは聞いたけど、親父よりも…？」
「おう。だが絶対言うなよ？あいつにとってその話題は…な」
「……なるほど」
「あいつのおかげで今の俺がいる。そして、お前がいる。だから俺はあいつに感謝してるんだ。あいつはなんでもないように振る舞うがな」
「……何故、そんなことが出来るんだ？」
「………」

　何故、か……知ってはいる。だが、これは教えられない。教えてはいけないんだ。ウィルの為にも。……あいつの為にも。

「知らねぇな」

　だから俺はそう答える。世の中知らなくていい事の方が多いんだ。

「さぁ帰ろう。母さんが待ってるぞ」
「うん」